【連載】近鉄百貨店、品揃えの段階的拡充で利用者じわり増加
コロナ禍によって生じた「イエナカ消費」を追い風に、急成長を続けるのが食品の宅配だ。百貨店業界の各社も、新たなサービスを立ち上げるなどで本腰を入れる。いわゆる「デパ地下」の品揃えの上質さや稀少性、特別感は広く知られており、1度の注文で様々な飲食物を届けてもらえる利便性と送料の割安感も手伝い、総じて売上げは好調だ。20代や30代をはじめ、百貨店に馴染みがなかった人々の利用も多い。収穫は多いが、オペレーションや人員などに課題を抱え、「アフター・コロナ」でも食品宅配が一定の需要を維持できるかには疑問符も付く。食品宅配は、百貨店にとって中長期的な収益源に育つのか――。各社の現状を追う。
《連載》百貨店業界が本腰を入れる食品宅配の現状と課題 第5回 近鉄百貨店
近鉄百貨店が食品宅配にアクセルを踏む。あべのハルカス近鉄本店で昨年12月15日に弁当や寿司など8ブランド・24点の宅配を始めると、今年2月16日には鮮魚や精肉、惣菜、パンなど約20ブランド・約100点に品揃えを拡充。対象の地域も大阪市内の5区(阿倍野区、天王寺区、東住吉区、中央区、浪速区)に生野区、西成区、平野区、住吉区を加えて9区に広げた。開始当初は認知度が低く、注文は少なかったものの、じわじわと増加。拡大路線を採り、勢いに弾みを付ける。
近鉄百貨店の食品宅配の名称は「あべのハルカスのデパ地下グルメお届け便」(以下、お届け便)。今年2月16日に「あべのハルカスのデパ地下グルメ宅配弁当」から改称した。購入できるのは約20ブランド・約100点で、恵方巻など歳時記にちなんだ商品も扱う。商品の価格には10%のサービス料を盛り込み、店頭で4900円の「江戸川」の「うなぎ弁当 特上」は、お届け便で5390円となる。
配達の料金は1件あたり550円で、対象の地域は大阪市の9区。注文した商品は「午前便」(午前10時~正午)か「夕方便」(午後4~6時)、「夜間便」(午後6~8時)で受け取る。午前便は前日の正午までに、夕方便と夜間便は当日の正午までに、それぞれ注文しなければならない。数日先の指定も可能だ。
注文はインターネット通販サイト「近鉄百貨店ネットショップ」内に構える専用のページで受ける。注文は近鉄百貨店ネットショップの担当者が正午の段階でまとめ、伝票に起こして食品売場の事務所に持参。食品売場の担当者が各ブランドのショップに渡し、ショップの販売員は用意した商品を、指定した時間に地下の配送所で待つトラックの運転手に届ける。
トラックは、近鉄百貨店が注文の数を踏まえて近畿配送サービスからチャーターする。多くの百貨店がウーバーイーツや出前館、ウォルト、チョンピーらフードデリバリーサービス事業者と組む中、近鉄百貨店は同じ近鉄グループの企業をパートナーに選んだ。
スタートは、クリスマスや年末年始の需要を見込んで昨年12月15日とした。要望が多いと想定した弁当や寿司、クリスマス用のオードブルをラインナップ。認知度が低い上、オードブルの販売期間は15~17日の3日間と短く、しばらく売れ行きは鈍かったが、外商部を通じて顧客にチラシを渡したり、法人にメールマガジンを送ってもらったりといったPRも効き、1月下旬には毎日数件の注文が入るようになった。
客単価は想定を上回っており、弁当で約6000円。最高額は2万円で、複数人分のまとめ買いが目立つ。ブランドでは「なだ万」や江戸川が好調だ。歳時記にちなんだ商品では、恵方巻が盛況。1月12~25日に販売したが、売り切れが相次いだ。歳時記は百貨店の強みでもあり、母の日や花見の弁当などを順次販売。収益力を高める。
利用者は50~60代が多く、水谷敏也営業政策本部EC事業部部長は「ネット通販サイトで注文を受けるため、若い人が多いと思ったが、現状では少ない。ただ、それは伸び代でもあり、商材を増やしていけば期待できるのではないか」と予想する。
地域別では東住吉区が注文の半分近くを占める。水谷氏は「(今年1月21日時点で)浪速区はゼロで、中心市街地から離れた地域が食品宅配に向くかもしれない」と分析する。
時間帯では夕方便の利用者が多く、リピーターも徐々に増えてきている。受け取りは最大7日後まで対応するが、4~5日後を指定する利用者が珍しくないという。
今年2月16日には、品揃えを増やすとともに、対象地域を拡大した。水谷氏は「鮮魚や精肉、惣菜、パンなどは同業他社の食品宅配でも売れ筋。以降も準備が整い次第、段階的に品揃えを拡充し、2022年度(22年3月~23年2月)中に300点を目指す。アフター・コロナでは『もっと早く』、『もっと便利』が求められるはずで、1時間以内の配達などもできないと売上げは伸びていかない。近鉄グループ以外との企業連携も視野に入れながら、食品宅配を強化していきたい」と構想を明かす。
近鉄百貨店の食品宅配は発展途上。それゆえに、可能性は無限大だ。
(野間智朗)