三井不動産Gと野村不動産Gが“森創り”推進
三井不動産グループと野村不動産グループが“森創り”に取り組んでいる。北海道の道北地方を中心に31市町村にまたがる約5000ha(東京ドーム約1063個分)の森林を保有する三井不動産グループは「植える」、「育てる」、「使う」のサイクルを回しながら森創りを推進。野村不動産グループは東京都西多摩郡奥多摩町が同町内に保有する約130haの森林について、30年間に亘り保有する地上権設定を9月に締結し、「森を、つなぐ」東京プロジェクトを始動させた。
三井不動産Gが未来に続く森創りサイクルで進める「植える」は2008年から毎年、従業員による植林を実施。若手からベテランまで、普段様々な業務を受け持つ従業員が参加する。苗木を1本ずつ植え、一人一人が森創りの一員であり、未来の環境をつくる存在であることを体感する場だ。
22年度の植林研修は10月21日、北海道上川郡美瑛町の保有林で開催。TEAM JAPANゴールド街づくりパートナーである三井不動産が、一般社団法人冬季産業再生機構・JOCアスリート委員会が取り組む「SAVE THE SNOW~be active~」プロジェクトと共同で実施。スキー・アルペンの皆川賢太郎氏、スキー・フリースタイルの上村愛子さん、フィギュアスケートの高橋成美さんなど8人のオリンピアンも参加。三井不動産従業員などと共に約500本のグイマツを植えた。
「育てる」(=下刈りや間伐などの手入れ)では、三井不動産グループ保有林で森林管理を担当する港エステートの関係者が、森林管理の工程について次のように語った。
「森林管理は植林から始まる。この時に大切なのは、地域の環境にあった樹種を選定すること。続いて植林したての幼い苗木が他の草や木に負けないようにする下刈り。これは苗木がしっかり背を伸ばすまで毎年実施する。樹木が成長して15~20年生になると、つる切り除伐が始まり、その後は30 ~50年生の間に2回ほど間伐を行う。何本かの木を切り倒して間引き、優良木がのびのび育つ空間を確保する作業。そして残った樹木が伐期に到達すると、一定面積を全面伐採し収穫する皆伐となり、伐採跡地に再び植林すると新たなサイクルのスタートになる」
「使う」(=間伐・伐採適齢期を迎えた木材の建築資源への活用)では、三井不動産グループ挙げての森林の保有・管理による脱炭素社会への貢献にとどまらず、主軸の不動産事業において国産木材を積極的に活用。市場における需要を増やすことで、サステナブルな森創りと環境保全に取り組む。
すでに、保有林で産出した木材をビルや住宅の開発に活用し始めた。これまで内装材やノベルティに使われる程度だった保有林の木材を、ビルや住宅の建材として活用できるようになり、使う木材量が増えている。
23年8月に竣工予定のオール木造賃貸住宅「パークアクシス北千束モクシオン」では、1階の共用部にグループ保有林の木材が使用される予定であり、日本橋で現存する木造高層建築物として国内最大級となる木造賃貸オフィスビルの計画も進む。同ビルは事務所、店舗のほか、三井不動産が日本橋で展開しているライフサイエンス事業の拠点として活用される計画。こうした取り組みが進み、伐採適齢期を迎えた保有林での皆伐が可能になり、森林保全の健全なサイクルが回り始めている。
森を、つなぐ東京プロジェクトをスタートさせた野村不動産Gは、持続的な事業規模の拡大と社会の発展に向けて、事業活動におけるサステナビリティを推進する。「脱炭素」においては建物の「省エネ」、「低炭素化」および「再エネ」の推進など、二酸化炭素総排出量の削減に向けた多様な取り組みを行ってきたが、「生物多様性」においても加速させるべく、川や海とつながり、自然の環境の中で重要な役割を果たす「森」を活動フィールドとして保有することになった。
また「2050年のありたい姿」としてサステナビリティポリシー「Earth Pride-地球、つなぐ-」を策定した上で、2030年までのマテリアリティ(=重点課題)を発表。マテリアリティには「ダイバーシティ&インクルージョン」、「人権」、「脱炭素」、「生物多様性」、「サーキュラーデザイン」の5つを特定した。そのうち「森を、つなぐ」東京プロジェクトは主に脱炭素、生物多様性、サーキュラーデザインに貢献するプロジェクトという位置付けとなる。
森を、つなぐ東京プロジェクトでは、面積の94%を森林が占める東京都を代表する自然環境に恵まれた奥多摩町で「つなぐ森」を保有。循環する森づくりを行うとともに、締結した同町との持続可能な社会の実現に関する包括連携協定の下、地元の産業や雇用の創出などにも当たっていく。これから森林の管理を委託する東京都森林組合をはじめ、地元製材加工所、建材メーカー、施工会社など、複数の共創パートナーと連携しながら、森林の川上・川中・川下までのサプライチェーンを構築。野村不動産Gの主要な事業展開エリアである首都圏において、東京都の森林資源を活用し、「地産地消の循環する森づくり」への第一歩を進めていく。
地産地消の循環する森づくりを進める上で要となるのが、管理では「森をつなぐ合同会社」を設立し、東京都森林組合員として管理を同森林組合に委託する。収穫では森林の成長量の範囲で伐採を進め、森林作業道を整備し木材の生産性を向上させる。また、一度に広範囲の皆伐を行わず、毎年離れたエリアを小規模な範囲で順番に皆伐していく、生物多様性を重視した「小規模モザイク状皆伐」で行う。
製材は奥多摩町唯一の製材加工所を運営する東京・森と市庭が担う。木材の活用については、25年に野村グループ本社を移転する「芝浦プロジェクト」のトライアルオフィスの床につなぐ森の木材を活用するほか、グループの事務所や店舗などに活用。住宅、オフィスなどにも活用していく計画だ。植林では現在、面積の大半を針葉樹(スギ・ヒノキが74.2%、広葉樹が25.8%)が占めるつなぐ森を、皆伐、植林などを行う過程で一部に広葉樹の苗木を植え育て、将来的に異なる高さの樹木で構成される複層林となることを目指す。
30年間で想定しているCO2の森林吸収量は森林放置時の1・4倍にあたる約1万6600t-CO2、炭素貯蔵量は約1万1000t-CO2。
(塚井明彦)