2022年 百貨店首脳 年頭所感・参
<掲載企業>
大丸松坂屋百貨店 社長 澤田 太郎
「ウィズ・コロナ」2年目となった昨年は、コロナ禍によって一足飛びに到来した「10年先の未来」を前に、いかに成長の道を切り開くかを模索した1年でした。そして次の時代に向けて、いくつかの布石を打つことができたと感じております。
今、当社にとっての生命線は、営業時間という時間の制約、店舗という場所の制約を克服することです。そのため、タッチポイントのオンライン化と当社流のオンラインビジネスの創出に取り組み始めました。特に百貨店の得意領域である化粧品やアートにおいて、OMO(オンラインとオフライン)を加速しています。
デパートコスメの情報サイト「デパコ」は、自社に編集部を設け、メディアとしての魅力を高めました。本年はEC機能、オンライン接客の予約機能などを順次搭載し、店頭でもオンラインでも情報収集、カウンセリング、購入といった買い物体験をシームレスに提供して参ります。
マーケットが急拡大している現代アートに対しても、オンラインでの作品紹介や接客、抽選販売などのPOC(概念実証)を行い、これまでリーチできていなかったお客様にも購入して頂くなど、好結果を出すことができました。本年は新しいアートのOMOの仕組みをローンチいたします。
また新たなオンラインビジネスとしては、ファッションサブスクリプションの「アナザーアドレス」を立ち上げました。大変好評を頂いており、このサブスクを通じてブランドのファンになり、店舗で商品を買って頂くことも期待しております。
一方で、店舗の魅力化も大きな課題です。昨春に大丸須磨店に名谷図書館を誘致しましたが、これまで来店されたことのないお客様が訪れ、店内の景色が一変しています。今春全館リニューアルを実施する松坂屋静岡店にも、都市型アクアリウムやビューティー&ウェルネスのフロアを導入します。百貨店の枠を超えたコンテンツを展開し、地域の活性化に貢献して参ります。
大丸東京店ではD2Cブランドのショールーミングスペース「明日見世」をオープンし、「売らない店」として関心を寄せて頂いております。当社社員の「アンバサダー」がブランドの持つ世界観やストーリーを丁寧に伝え、ブランドにはお客様の反応をフィードバックするというビジネスモデルで、「人」を介してブランドとお客様を繋ぐ新たなトライアルに手応えを得ています。
当社が創業以来提供してきた本質的な価値、それは「人」だと思います。これからは「人」が提供してきた価値を、デジタルの力でさらに顕在化、拡張させることに注力いたします。「人」の力を最大限に活用しながら、店舗とオンラインでお客様に「あたらしい幸せ」を提案して参ります。
今や、社会との共存なくして企業の発展はありません。本年も地球や環境への負荷が少ない商品、サービスを提案する活動「ThinkGREEN」と、地域との共生を目指した活動「ThinkLOCAL」を中心に、成果の見えるサステナビリティ経営を推進いたします。
最重要マテリアリティと位置付けている「脱炭素社会の実現」については、取引先とScope3削減に向けた対話を重ね、協働の道筋を追求して参ります。コロナ禍にあってもサステナビリティ経営の手を緩めることなく、社会課題に向けて弛まぬ努力を重ねて参る所存です。
東急百貨店 社長 大石 次則
2021年は前年に引き続きコロナ禍に大きな影響を受けました。生活必需品以外の売場の営業自粛や地下食品フロアへの入場制限要請など、厳しい状況を乗り越えてきました。10月の緊急事態宣言明けからは来店客数も戻り始めていますが、変異株の影響もあり、事業環境は予断を許さない状況が続いております。変化への対応がより一層強く求められています。
当社は昨年「事業構造の転換」、「新たな価値の提供」を骨子とする新中期三カ年経営計画を策定し、「いつでも、どこでも。ひとりひとり上質な暮らしのパートナー」をビジョンに掲げました。変化に対応し、新たな価値の提供を目指す店舗戦略や店舗、各事業をデジタルで繋ぎシームレス、タイムレスに顧客の利便性を向上させる顧客戦略などを重点施策として取り組み、当社独自のビジネスモデル「融合型リテーラー」のさらなる進化を目指しております。
初年度は、百貨店では初となるBOPISとデリバリーを1つにした自社アプリの運用のスタート、化粧品のBOPISの拡大、コンシェルジュによるリモート接客サービスの開始など、デジタル技術の活用による利便性向上、楽天ポイントの受け入れによる顧客層の拡大、「池上 東急フードショースライス」のオープンおよび「渋谷 東急フードショー」のグランドオープンなど、それぞれの戦略において取り組みを着実に実行して参りました。
本年はさらに中期経営計画を推進し、形にする1年となります。変化するお客様のニーズや生活スタイル、社会環境や地域の特性に合わせ、吉祥寺店とたまプラーザ店の改装を予定しております。
また、自社アプリやネットショッピングにおけるSKUの拡充や利便性の向上、デジタル接点の拡大による「いつでも、どこでも」のさらなる具現化を目指します。楽天ポイントの受け入れにより、顧客層が拡大していますので、従来のTOKYU CARD Club Qカード顧客はもちろん、新規顧客向けにデータ分析に基づいたMD並びにサービスの提案も検討しております。
2023年1月の本店の営業終了に向けては、ご愛顧に対する感謝を込めた様々な施策を準備するとともに、大切なお客様に引き続き当社を利用頂けるよう、デジタルによるアプローチや新たな営業スタイルの構築、各店、各事業との連携によりリテンションを図ります。
「いつでも、どこでも」。この言葉通り、私達はあらゆる場面で顧客接点を拡大し、本年もお客様の豊かで上質な暮らしづくりに貢献できるよう努めて参ります。
東武百貨店 社長 國津 則彦
2021年はコロナウイルス感染拡大とともに幕を開け、特に上半期は国民が大変不安な思いで過ごすこととなりました。しかしワクチン接種が進み東京オリンピック・パラリンピック開催が現実となると、社会のムードは前向きに変化し始めたと感じます。10月の非常事態宣言解除後は人々の行動も通常に戻りつつありますが、経済情勢は今後も予断を許さない状況であり、百貨店を取り巻く環境の厳しさは増しています。
昨年の緊急事態宣言下で「生活必需品とは何か」という社会的な議論が起こりました。東武百貨店は経営方針で「地域沿線顧客のマイストア」として貢献することを目指しています。今回の議論は当社にとって原点に立ち返り役割を見つめ直す大きな契機となり、真の「マイストア」がどうあるべきかを考え、実行に移す1年となりました。「地域のお客様の日常に本当に必要な品揃え」を実現するため池袋本店、船橋店の両店で、これまでなかった「くらし」や「じぶん」に焦点を当てた売場の構築や専門店の導入に力を入れました。
テレワークの普及などライフスタイルの変化による「イエナカ需要」を追求し、家具や家電、アウトドアや趣味など、ファミリー層、男性にも楽しんで頂ける品揃えの幅が広がりました。この結果、当社の強みは「食」、「物産」に加え「暮らしのカテゴリー」の充実へと進んだと思います。
催事も「大北海道展」をはじめとする人気物産展とともに、次世代の来場の多い「IKEBUKUROパン祭」や富裕層に向けた「ワールドウォッチフェア」、アート、家具の催事に力を入れ、成果を上げております。
また、リアルな買い物体験の質の向上はもちろんですが、度重なる営業時間短縮や臨時休業を経験し、店頭以外の強化策として昨年外販事業部の中にEC・通販部を新設しました。テレビショッピングなどにもチャレンジし、買い物チャネルの拡充に取り組んでいます。
当社は東武グループのサスティナビリティ経営方針の下、環境問題はもちろん、ダイバーシティ推進や地域貢献に取り組んでいます。地域とともに持続的に発展する企業価値の向上を目指します。
船橋店では千葉県のスポーツクラブとのコラボや地元産品の販売会などを活発に行っていますし、池袋本店でも東武グループと農林水産省とが連携する都市農業イベントや販売会に参画しており、地域沿線との結び付きを強めています。
また東武グループ共通ポイント「トブポ」も地域利用者のお客様の利便性がより向上しています。
22年、東武百貨店は池袋本店が開店60周年、船橋店が45周年を迎えます。人々のライフスタイルが刻々と変わる節目の今、多くのお客様に協力頂いてアンケートを実施し、全社員で課題を共有し議論しています。売場の社員だけでなく管理部門の社員も積極的に現場に出て、お客様と話すようになってきています。
池袋西口再開発については業界内外の皆様と同様に従業員も大いに注目していますが、22年度末の都市計画決定に向けて再開発準備組合で協議が進んでいると聞いています。変化するお客様のニーズに応え、将来まで近隣の3世代の皆様に来店頂ける新時代の「マイストア」となることを目指し、これからは当社にとって準備と変革の時期だと考えています。
東武宇都宮百貨店 社長 守 徹
2021年は「新型コロナウイルス」の変異株が出現し、第4波、第5波の感染拡大により、社会、経済に大きな影響を及ぼし、消費活動全体も引き続き厳しい状況でしたが、10月以降、全国のワクチン接種率も75%を超え、感染者が激減し、その後も低い感染者数で留まっている現状です。
この現状を踏まえ、感染拡大で規制されてきた飲食店やイベントの人数制限も緩和され、プレミアム商品券などの消費促進活動も実施され、ようやく人々が動き出し、私達の望む生活、日常が取り戻せる日々が来るのではないかという期待が膨らみ始めた師走となりました。
そして22年がスタートしました。新型コロナウイルスの感染拡大の心配は依然としてあるものの、飲食やイベントなどの行動制限が緩和され、人の移動や人が集まることが可能となり、消費活動やライブ活動が活発になっていくのではないかという期待感が大きくなってきています。
これからは「ウィズ・コロナ」社会の中で、新型コロナウイルスと共存共栄していく社会をつくっていかなければなりません。時代が求める新たなニーズや価値観が生まれ、私達はこの変化に対応していくことが求められています。
当社はこの新たな変化に対応し、お客様に安心して来店頂き、お客様の期待以上に「信頼と感動」を提供するべく、リアル店舗の価値、魅力を高めていきます。ネットを介してのオンライン消費は確実に増えていきますが、私たちの強みはリアル店舗です。お客様の新たなニーズに応えるために、お客様に興味、関心を持って頂ける「新たな芽、種」を発見するために、適格で旬な品揃え、楽しいイベント、一流の接客、清潔な店内環境など「モノ、コト、ヒト、ミセ」にさらに磨きをかけて参ります。
名鉄百貨店 社長 柴田 浩
昨年は緊急事態宣言が解除された9月末までの大半の期間に亘り、私達は自粛生活を強いられることとなりました。しかしながら、秋口以降の人流は明確な回復傾向となり、消費動向にもこれまでの巣ごもり消費からソト消費へと変化の兆しがみられます。
こうした中、当社ではアフター・コロナの新しい日常を見据えた「より便利で快適な百貨店」を具現化するため、2015年以来となる本店の大規模なリモデルを実施し、12月1日にはリニューアルオープンを迎えることができました。
婦人服のブランドの再編、リビング売場の移設・改装、次いで和洋菓子に新規ブランドが入店したほか、東海エリアで初となる高級グローサリーショップ「紀ノ國屋」、シェアラウンジを併設した「TSUTAYA BOOKSTORE 名鉄名古屋」を導入し、メインターゲットの「おとなの女性」に加え、名古屋駅を利用される幅広い年代のお客様に利用頂けるようになりました。
本年はリモデル後の環境を生かし「おとなの女性」が自分らしい暮らしを楽しむためのライフスタイルの提案を強化するとともに、地元の逸品を紹介する「東海の美力フェア」、社員から選抜された「ナナちゃんマスター」がお客様の悩みをお聞きしながら商品の使い方やメンテナンス方法を説明する「コンサルティングフェア」など、当社ならではの特色を生かした企画、イベントの実施に取り組みます。
そして、お客様がその時、その場でしか味わえない「ワクワク」した気持ちで買い物を楽しめるほか、名鉄百貨店が上質な時間と空間を提案する情報発信基地となるよう、ターミナルデパートならではの新しい「価値」を創り出して参りたいと考えています。
一方、一宮店は昨年4月に中核市となった歴史ある一宮市に立地しており、地元の企業や商店と手を携えて、百貨店ならではの企画やイベントに注力してきました。引き続き、地元密着の百貨店として地域の「衣」、「食」、「住」の魅力を再発見できる場を提供し、新たな賑わいづくりに挑戦し続けます。
コロナウイルス感染防止のため、従業員は皆、マスク姿ではありますが、マスクの下は満面の笑顔で、接客させて頂きます。お客様に「名鉄百貨店があってよかった」と思って頂けるよう、今後も努力を重ねて参ります。
津松菱 社長 谷 政憲
2021年は1月早々にコロナが東京をはじめ再び感染拡大に転じ、緊急事態宣言が発令されるなど、年初から厳しい商戦を余儀なくされました。その後、3月にはコロナ終息の兆しから一旦売上げが上向いたものの、夏頃に再び新たな変異株であるデルタ型が猛威を振るい、県内においても緊急事態宣言が発令され、過去最大の感染者数を連日更新しました。また大手百貨店のクラスター発生の報道もあって、外出自粛ムードが一気に拡がりました。
しかしながら、高齢者を中心にワクチンの接種は着実に普及し、9月以降は感染者数が激減。緊急事態宣言が解除されたものの、期待したほどのリバウンド消費もなく、その後ゆっくりと回復に向かっている状況です。
部門別で見ますと、食品はコロナ禍にあっても概ね好調に推移しました。中元・歳暮は前年並みでしたが、年末のおせち料理は好調であった前年以上に売れています。各地方の物産展は旅行が不自由な環境下において、依然人気が高く、過去最高売上げを記録するものもあり、総じて好調でした。
行列の制限など感染防止対策を徹底して行い、安全・安心の会場運営を心掛けただけでなく、会場に足を運ばないお客様には、テイクアウトサービスの「らくらくお持ち帰り」、提携タクシーによる宅配の「マッピーデリバリー」など、ネットを使った新しいサービスで百貨店の魅力を提供してきました。
アパレル・ファッション部門は、退店の影響もあり苦戦が続きましたが、個別に見ると好調なブランドや前年を超えるショップも秋以降に増えてきました。生活雑貨はコロナ禍のステイホームの時流にあって堅調に推移しており、これはコロナが鎮静化した現在でも継続しています。
新規の地域商社事業として、県内の生産者と県外の百貨店との仲介を行う「三重の食フェア」を9月から首都圏百貨店の食品催事場で行いました。販売員を出せない生産者の商材については仲介だけでなく販売代行も行い、これまで県外に出る機会がなかった県内の商材を広く知らしめることに貢献しました。
この事業は単なる仲介ビジネスではなく、当社と地元の生産者がタッグを組み、他県の百貨店を通じて販路を拡大していく地域貢献であると位置付けており、今後も積極的に取り組んで参ります。
この一年も厳しいコロナの環境下でしたが、百貨店の地域における必要性、地域の人々が豊かで文化的な都市生活を送るためのインフラとしての当社の役割を強く感じました。当社は津市で創業し66年。これからも地域の皆様に愛され、必要とされる、無くてはならない存在であり続けることが使命であると再認識した次第です。
一方で、お客様のニーズも多様化しております。時代に合った商材やサービスの導入が急務であり、22年はこれまでコロナで遅れていた事業の再構築を積極的に推進していく計画です。