増える、本と楽しい商業施設 カルチュア・コンビニエンス・クラブの指定管理事業(下)
カルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下CCC)が指定管理者となった公共図書館は、従来の図書館のイメージを一新させるものとなった。休館日から開館時間、館内・空間の使い方まで変え、本を借りて帰る図書館を、ゆっくりくつろげたり、コーヒーを飲みながら本を読んだり、学習室で勉強したり、イベントに興じたりできる、滞在型図書館としての色合いを強くした。
CCCは今から約10年前に初の指定管理者となり「武雄市図書館」の運営管理を始めた。本年4月のリニューアルオープンに合わせて指定管理者となった熊本県宇城市の「不知火美術館・図書館」までを合わせると、図書館を中心に9つの公共施設に携わっている。CCCはこれらにイノベーションを敢行した。
公共図書館で当たり前だった休館日をなくして365日年中無休とし、開館時間は平日や土日祝に関係なく午前9時~午後9時あるいは午前9時~午後9時30分とした(周南市立徳山駅前図書館は午前9時30分~午後10時、延岡市駅前複合施設のエンクロスは午前8時~午後9時)。
大方の図書館で館内での飲食が禁止になっている中、蔦屋書店とスターバックスを館内に融合させたことも大きなインパクトとなった。スターバックスで購入したコーヒーを飲みながら、図書館の本も蔦屋書店の本も読むことができる。図書館を補完する機能(書籍・雑誌や文具雑貨の購入)として加えた蔦屋書店とスターバックスの組み合わせは、受託している図書館を中心に展開されている。
座席数も増やし、Wi-Fiを完備。電源の付いた席も増やした。海老名市立図書館は120席だった席数を296席(テラス含み428席)に、多賀城市立図書館は299席(複合施設全体で400席)、高梁市立図書館は館内席数356席、周南市立徳山駅前図書館は館内席数550席(電源付きの席が約130席)、和歌山市民図書館は約670席(電源付きの席が約130席)といった状況だ。
母子が一緒になって遊んだり楽しんだりできる、子育て支援第一の図書館づくりも進める。海老名市立図書館は「こどもとしょかん」(キッズライブラリー)専用フロアをつくり、多賀城市立図書館には「キッズライブラリー」を開設。高梁市立図書館は4階に「子どもの図書館」を独立させた。
武雄市図書館の場合は、市が図書館をリニューアルオープンした4年後に子供向けを独立させ「武雄市こども図書館」を新設している。同図書館の指定管理者であるCCCは絵本を中心とした約2万冊の蔵書を揃え、子供達が365日いつでも楽しみ、学べる新しい場をつくり上げた。館内にある「えほんの山」では「おはなし会」が行われ、屋外の「しばふ広場」ではイベントが開催される。
CCCの公共施設の指定管理・委託事業は図書館の運営管理に集中しているように映るが、中林奨公共サービス企画Company 企画営業本部長は「確かに我々の事業の中で図書館のイメージが強いかもしれないが、実際には図書館以外にも取り組んでいる事業は数多い。市民活動や中心市街地活性化の公共施設の管理から、市との共同によるイベントの開催、観光案内所の運営、観光物産の販売、単発の事業でもリスキリング教育支援、クラウドファンディングや、出版社をもつグループのネットワークを生かして地域のガイドブックづくりもしている」という。だからこそ「自治体や地域が抱える困り事に対して問題解決に役立つCCCでありたいというスタンスで臨んでいる」。
実際には、これらの事業を5つの領域でくくり、指定管理・委託事業を推進する。「図書館」、「市民活動支援」、「美術館」、「賑わい交流施設」、「創業支援」で、指定管理している図書館は武雄市図書館・武雄市こども図書館、海老名市立図書館、多賀城市立図書館、高梁市立図書館、周南市立徳山駅前図書館、和歌山市民図書館、不知火図書館の7つ。美術館は、リニューアルオープンした熊本県宇城市の「不知火美術館」がCCCにとって初めての運営となる。不知火美術館・図書館は同じ建物内にあり、美術館には宇城市ゆかりの世界的に著名な芸術家を中心に約400点の作品を所蔵。館内で企画展も開催している。
コンパクトシティの推進や中心市街地活性化の核となる公共施設を対象としているのが賑わい交流施設で、「周南市徳山駅前賑わい交流施設」と「延岡市駅前複合施設“エンクロス”」、「丸亀市市民交流センター“マルタス”」がそれに当たる。周南市徳山駅前賑わい交流施設は、周南市立徳山駅前図書館と同じ建物でCCCが一緒に運営している複合施設だ。建物はJR徳山駅舎にも接続している。「このまちへ来る人へのおもてなしの場」、「このまちに住んでいる人たちの居場所」、「人が集い楽しむこのまちの賑わいと交流の場」をコンセプトに、中心市街地活性化に注力。交流施設内には大小3つの交流室があり、イベントや会議などに利用されている。
延岡市のエンクロスも、中心市街地活性化の起爆剤となる施設として誕生した。CCCが市から受託して運営しているが、ここは賑わいづくりの手法として市民活動を用いているところに特徴がある。CCCは市民活動支援の業務として、活動の企画や情報発信などのサポートを行い、市民活動者と一緒に地域を元気にする様々な活動を実施している。住民が自分達の持つスキルやリソースを社会のために活用していくことへの支援・サポートを行っているのが市民活動支援である。
丸亀市のマルタスは「人づくり」の拠点として誕生した。図書閲覧機能やカフェのほか、大小6つの会議室、最大200人規模で利用できる多目的ホールを備え、エンクロスと同じく多種多様な市民活動が日々開催されている。さらに、創業を志す人の相談を受ける創業支援業務も請け負っており、現在、福岡市と東京都でスタートアップのサポートを行っている。
これらの公共施設事業でCCCが強みとしていることが3つある。「空間づくり」、「イベント」、「利用者目線」だ。空間づくりでは、コーヒーを飲みながら本を読めたり、豊富な種類の座席を備えたり、Wi-Fiや電源を付けたりして館内での利用を増やし、本を借りて帰るだけのイメージが強かった図書館を、館内で過ごす滞在型図書館へと変えた。
イベントは、CCCの得意分野。指定管理者となっている公共施設において、CCC主導でワークショップ、トークショー、マルシェなどの多彩なイベントが展開されている。利用者目線は、図書館を利用する側の目線に立って書籍の見せ方から空間までをつくり上げる。多くの人から利用されるようにインタビューやアンケート、市場調査などを欠かさない。
次に指定管理者となる公共施設も決まっている。それが「現門真市立図書館及び(仮称)門真市立生涯学習複合施設」。公募によってCCCが管理運営者に選定され、門真市による駅前再開発によって、タワーマンションなどとともに図書館と文化会館が25年の完成に向けて開発される。さらに、沖縄の読谷村では初のPFI(社会資本整備)によって図書館の運営者に選定された模様だ。
「我々CCCが管理している公共施設の9館という数は、まだまだ少ない。図書館をはじめ市民活動の施設など、地域の皆さんから『街中にあったらいいのに』と言って頂ける、街にとってサードプレイスとなるような施設を、47都道府県に1カ所ずつ設けられるような意気込みを持って取り組んでいきたい。しかも、ただ運営管理する公共施設を増やしていくのでなく、行政のパートナーとなって街の活性化に役立つ役割を果たしていきたい」
中林氏は強調する。
街中からは書店が減り続けているが、公共図書館を中心とした指定管理事業は拡大していくのだろうか――。中林氏は「街から書店が減っているからこそ、図書館の存在意義が高まる」とみている。しかも「大型商業施設が撤退したり、商店街が廃れたりして閑散としている中心市街地が、あちこちにみられる。だからこそ、行政は駅前などに公共施設を新設・移設して、中心市街地を活性化させる動きを強めている」と指摘する。
確かに、駅前などに商業施設や図書館、役所、コミュニティセンター、交流センター、子育て支援などの公共機関が入った複合ビルがオープンしたり、ショッピングモールなどにも図書館や行政の出先機関などが入ったりする傾向は顕著だ。
これに伴い、区や市も指定管理者制度を導入して公民連携で賑わいを創出し、中心市街地の活性化に繋げようとする。これからも、公共施設の指定管理事業は可能性が大きいといえるかもしれない。
ただ、公共施設などの指定管理者になったからといって安泰ではない。多くの図書館が指定期間を5年ほどに設定しているからだ。5年前に運営管理の更新を終えた武雄市図書館にしても、10年になろうとしている今年は公募があり、継続するためには他に打ち勝たなければならない。そしてCCCには、その自信がある。
(聞き手:塚井明彦)