2024年11月19日

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大丸松坂屋百貨店、オウンドメディアを立ち上げアートの啓蒙と拡販に本腰

大丸松坂屋百貨店が1月7日に開いた「アートヴィラ」。百貨店がアートのオウンドメディアを運用するのは珍しい

アート(絵画)を、より身近に――。アートの啓蒙や拡販に力を入れる大丸松坂屋百貨店が立ち上げた情報発信拠点が「ARToVILLA(アートヴィラ)」だ。ウェブサイトやコンテンツ、空間などをデザインする株式会社ロフトワーク、企業やブランド、製品などのアートディレクションを担う株式会社キギ、メディアやコミュニティを手掛ける株式会社ミーアンドユーと協業。今年1月7日にアートヴィラと名付けたオウンドメディアを開き、アートに関する情報などを提供するとともに、リアル店舗で展覧会を実施。アートを“知る”から“学ぶ”、“買う”までの道筋を整え、その振興と大丸松坂屋百貨店の収益力の強化に繋げる。

一般社団法人アート東京の「日本のアート産業に関する市場調査」によれば、2020年の国内の美術品の市場規模は2363億円にのぼった。販路別のトップは百貨店で、コロナ禍でも前年の567億円から673億円に伸ばし、画廊・ギャラリーを上回った。まさに上げ潮だが、大丸松坂屋百貨店の村田俊介本社経営戦略本部DX推進部デジタル事業開発担当は「日本においてアートを見る人は多いが、買う人はまだまだ少ない」と分析。「コロナ禍で『イエナカ消費』が増え、アートにも追い風が吹く。そして、アートは自己表現にもなる。例えばリモート会議で背景にアートが映れば、周りは個性として受け取るからだ。ターゲットはアートの初心者や中級者で、まずは身近に感じてもらいたい」と、アートヴィラを開いた。

紹介するアートは、コンテンポラリーを軸に、工芸品やサブカルチャーも対象。アートを身近に感じてもらうためには、専門家だけでなく多種多様な視点と情報が必要と判断し、経営者の遠山正道氏、建築家の永山祐子さん、アイドルの和田彩花さん、クリエイティブディレクターの植原亮輔氏、アートテラーのとに~氏らを「#DOORS」と呼ぶパートナーに迎えた。

アートヴィラには、#DOORSのメンバーのエッセイやインタビューが並び、内容は良い意味でバラバラだ。村田氏は「アート業界からの一方通行でなく、経営者や建築家、アイドルなど細かいセグメントの集合体で情報を発信すれば、接点が広がる。身近な敬意の対象の人の話なら、アートに詳しくなくてもスッと入ってくる」と狙いを明かす。

オウンドメディアの運営は、大丸松坂屋百貨店、ロフトワーク、キギ、ミーアンドユーの4社で分担。ロフトワークを中心に、週に2回ほどの頻度でデザインやコンテンツなどについて話し合う。村田氏は「皆がアートヴィラの目的に共感して参加しており、ポジティブに関わってくれる。コミュニケーションはスムーズ」と自信を示す。

オウンドメディアの運営と並行して、リアル店舗で展覧会を行う。実物を見て、学び、買える機会は、最高の接点だからだ。第1弾は「武田双雲展 ―飛翔―」で、GINZA SIXの5階「アールグロリュー ギャラリー オブ トーキョー」(以下、アールグロリュー)を会場に、1月13~26日まで開催中。VRゴーグルを身に付け、武田氏の書の世界観を体験できるブースも設けた。武田氏の書がVRのコンテンツになるのは初めてという。

GINZA SIXの「アールグロリュー ギャラリー オブ トーキョー」で1月26日まで開催する「武田双雲展 ―飛翔―」

リアル店舗での展覧会やイベントは、月に1~2回を目途に実施。大丸東京店や同梅田店で行う際は、アートの見方だけでなく歴史などを耳で楽しめるコンテンツを用意する。アートホステルの専門家によるウェビナーも計画中だ。

今後の目標について、村田氏は「(アートヴィラで)閲覧者が上位のエッセイは、現時点で当社が取り扱う商品と全く関係ない。いずれは記事から買える場所に飛べるようにしたい。モノをつくり、広告をつくり、買ってもらうという百貨店の従来の商売でなく、コンテンツをつくり、そこからモノが売れるという順番が理想。アートのつくり手が『アートヴィラにインタビューされたい』となるように、あるいは『売れる場所』と認知してくれるように、育て上げたい」と意欲を燃やす。

アートヴィラの実証実験として過去に2回、アールグロリューで現代アートを販売したが、結果は上々。大半が売れ、購入客の6割は30~40代だった。百貨店業界にとっての次世代顧客だ。次世代顧客を取り込むための入口としても、アートヴィラが果たす役割は大きい。