2024年11月19日

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長寿支える顧客目線 強い自主から学ぶ婦人服

“長寿”の自主編集売場に学べ――。百貨店業界で婦人服の売上げが低空飛行を続け、面積の縮小や自主編集売場の廃止なども加速する中、京王百貨店新宿店が1988年に開いた「ハーモニー」、松屋銀座本店が2001年に構えた「リタズダイアリー」の奮闘が目覚ましい。ハーモニーは“30年選手”、リタズダイアリーも“20年選手”に迫る。長寿の秘訣は、顧客目線だ。販売員を通じて得た顧客の声を、品揃えに反映。検証や修正を繰り返して精度を上げてきた。奇手妙手でなく、丹念なPDCAがファンを増やし、収益力を培う。基本であり、不変の真理だ。

 

 「訪れる価値」も追求

百貨店の婦人服売場は依然、改革の途上だ。日本百貨店協会の調査(対象は76社・208店舗)によれば、2019年の「婦人服・洋品」の売上高は1兆791億円余りで、前年比3.6%減。マイナスは6年連続だ。日本チェーンストア協会の調べ(対象は55社・1万550店舗)でも、19年の「婦人衣料」は同8.9%減の2393億円余りで、前年の同7.9%減より悪化しており、百貨店業界に限った低迷ではないものの、利益率が高い婦人服の立て直しは喫緊の課題だ。

実際、百貨店業界では婦人服売場の“最適化”が進む。面積を減らし、化粧品や雑貨、食料品などを組み込んでいく。不振のショップや売場を廃止して採算性を改善するとともに、他のカテゴリーから婦人服への買い回りを促す算段だ。ただ、婦人服の品揃えが魅力を欠いては、最適化も画餅に終わる。とりわけ、婦人服はブランドのラインナップが画一化しやすい。魅力を確立するためには、自主編集売場が鍵となる。

 

もちろん、全てを自主編集売場で構成するのは人員や在庫などのリスクが大きく非現実的だが、インターネット通販の隆盛に加え、メーカーの余剰在庫や処分品を買い取って安く販売する新業態「オフプライスストア」が台頭するなど、競合は激化の一途を辿る。わざわざ足を運ぶ価値を提供する上で、モノだけでなくコトも自由に提供できる自主編集売場は、大きな可能性を秘める。

 

ただ、自主編集売場を漫然と構えても成功は覚束ない。求められるのは、“顧客目線”だ。顧客が望めば叶え、不要と判断すれば変える。それを素早く、徹底した先に“長寿”への道が拓く。京王百貨店新宿店の「ハーモニー」、松屋銀座本店の「リタズダイアリー」も、ひたすらに顧客目線を貫く。

 

 

例えばハーモニーは、20年度(20年4月~21年3月)に秋冬の品揃えを見直すほか、短サイクルで生産できるメーカーと組んで別注商品の拡充、1年間を通じて売れる定番商品の開発に踏み切る。いずれも、顧客のニーズの変化を捉えるためだ。

 

秋冬の品揃えを見直すのは、気候への対応でもある。獨古安洋婦人服部商品担当統括マネージャーは「残暑は長く、冬も寒くならない。もはや『秋色夏素材』でも弱く、夏寄りの商品を増やすほか、ボアアウターやフェイクムートンなどの中衣料も強化する。10月末頃から手厚くしてきたカシミヤも、11月半ばに遅らせる。先買いは減り、ジャストのタイミングで商品が売れる時代。それに合わせなければならない」と狙いを明かす。

別注商品の拡充は、品揃えと顧客のニーズの乖離を埋めるため、19年度の秋冬に着手。「エイジレスなデザインで、価値を上回る価格」(獨古氏)を追求し、ショート丈のダウン(1万9000円)やフェイクムートンのジャケット(同)など8型を打ち出し、うち4型は常備消化率が5割を超えた。手応えを掴み、20年度の春夏は10型を展開する。

定番商品は「インナー用のタンクトップ、綿素材を使ったタートルネックのカットソー、汎用性が高いシャツなどを想定し、春夏や秋冬を問わずレインウエアも増やしたい」(吉田祐子婦人服部商品担当バイヤー)意向だ。

 

ハーモニーは17年の秋に刷新され、セレクトショップが扱うような旬のブランドを導入したが、売れ行きが鈍いと見れば、軌道修正。19年の秋冬までに3分の2を入れ替えた。こうしたリスクや変化を厭わない姿勢が、30年以上の歴史を支えてきた。

 

19年度(19年3月~20年2月)の売上げが前年と同等だったリタズダイアリーも、当初のコンセプトを守りつつ、ブランドの入れ替えや限定品の開発などで“鮮度”を高め、新客の獲得と既存顧客の囲い込みに繋げてきた。

 

「女性もモノの背景、物語などを重視するようになった」(浅尾浩代営業三部婦人三課バイヤー)と分析すれば、20年度は新規に「ニアーニッポン」を導入。語れる商品を手厚く揃える。既存のブランドとは半期に1度の頻度でイベントを開き、限定品も販売。限定品は19年度の下期から細部までこだわり、時に取引先と衝突しても、販売員の意見を基に顧客の志向を反映させる。「お客様の目は肥えている。期待を裏切れない」(浅尾さん)からだ。限定品を深化させた19年度の下期、そのヒットが相次ぎ、リタズダイアリーの売上げは前年と同等だった。顧客目線の重要性を雄弁に語る。

 

自主編集売場は、百貨店にとって独自性の象徴であり、最後の砦だ。いや、それだけではない。人材を人財に換える“虎の穴”でもある。モノでもコトでもヒトでも“訪れたくなる価値”を有する自主編集売場を育て、集客装置として婦人服売場を活性化させる――。そんな方法も探究すべきだ。

 

京王百貨店「ハーモニー」 変化に素早く対応 精度向上へ別注を拡充

1988年に産声を上げた京王百貨店新宿店の「ハーモニー」は、周辺で働く女性をメインターゲットに据える。2017年の秋に売場を刷新して以降は、子育て中のママも含めた30~40代にフォーカス。セレクトショップが扱うような旬のブランドを加え、汎用性が高く値頃な自主企画商品も増やし、客層の若返りを目指してきた。2020年3月10日時点で、30~40代の売上げ比率は約15%。依然として50~60代が約55%を占めるが、30~40代もシェアを上げつつある。

売場は2階に位置し、面積は約42坪。主に4つのゾーンからなり、それぞれでは自主企画商品、「セントジェームス」や「スリードッツ」といったセレクトショップ系の約20ブランド、「カピス」などコーディネートに長けた6ブランド、「サムシング」らジーンズを販売する。売上げ比率は、自主が約30%、セレクトが約22%、コーディネートが約21%、ジーンズが約27%。売場を一新して以降、自主とセレクトが伸び悩み、苦戦を強いられたが、18年秋冬に両ゾーンを再びテコ入れすると、上向いた。

 

自主企画商品は、18年秋冬からメインのメーカーを変更。価値と価格、サイズのバランスが良化し、消化率が改善された。例えば19年度(19年4月~20年3月)は、シンプルで何にでも合わせやすいステンカラーのスプリングコート(2万3000円)やウールコート(2万7000円)を提案。常備消化率は5割に達した。自主企画商品全体の常備消化率は約2割で、当面の目標は4割だ。

セレクトは「従来のお客様と感度にギャップがあった」(獨古安洋婦人服部商品担当統括マネージャー)ため、半分近いブランドを入れ替えて18年秋冬にリスタート。ラインナップを「今っぽさのあるコンサバ」(獨古氏)に振ったが、セントジェームスの売上げが19年度に前年の倍に膨らむなど、上昇曲線を描く。

20年度は、中衣料の拡充などで年々延びる残暑に対応するとともに、コーディネートゾーンで別注を強化。品揃えの精度を、さらに追求する。

 

 

 松屋「リタズダイアリー」独自の世界観 深耕 限定品、こだわり一段と

松屋銀座本店が2001年に立ち上げた「リタズダイアリー」は、確固たる世界観に基づく品揃えが40~50代を中心とする女性に支持され、百貨店業界の婦人服不況や消費増税、新型コロナウイルスの蔓延などの逆風を跳ね除け、2019年度(19年3月~20年2月)に前年並みの売上げを確保した。

売場は3階で、面積は約27坪。架空の女性・リタの部屋をイメージし、彼女が好む衣料品や雑貨などを揃える。「アイテムではワンピースやスカート、デザインでは花柄やレース、色では柔らかいピンクや青など『可愛い』を基軸に、エッジの効いたブランドも組み込む」(浅尾浩代営業三部婦人三課バイヤー)。ブランドは「ミナペルホネン」や「ミントデザインズ」、「アンティパスト」など30前後を数え、それぞれの商品は混在させて“宝探し”を表現する。

売場の一角には、フリースペースを設置。2週間単位でイベントを開き、既存のブランドの周知、新客の獲得に役立てる。各ブランドが半期に1回は登場する間隔だ。イベントには、限定商品を用意。単なる色や形状の違いでなく、販売員に意見を求めながら、ディテールまでこだわる。時には取引先と衝突するが、浅尾さんは「お客様の目は肥えている。それを裏切れない」と妥協しない。

直近の成功例は、昨年の9月25日~10月8日に行ったミントデザインズのイベントだ。ブランドを象徴する「ドール柄」がモチーフのオリジナルのレースを施したワンピースやブラウス、カットソーなどを販売するとともに、好きな生地を選んで手鏡や缶バッジを作れるワークショップも実施。限定商品と体験型のコトを掛け合わせると、「限定商品は全て当たり、インスタグラムを見た人にも売れた。手鏡や缶バッジも、準備した200個がすぐになくなった」と浅尾さんが驚くほどの活況を呈した。

他のブランドでも好結果を積み上げており、半期に1度の売上げのヤマが形成されてきた。必然的に、顧客の年間購入額も上昇。19年度下期は増収を達成した。百貨店業界では快挙と言っても過言ではない。