勢い続く大規模再開発-浜松町・品川エリア編(後編)
浜松町周辺エリアでは複数の大型開発プロジェクトが進行している。湾岸エリアの竹芝は、すでに「東京ポートシティ竹芝」と「ウォーターズ竹芝」が完成。現在開発が進んでいるのが、高さ約235mのツインタワーを10年がかりで完成させる「芝浦プロジェクト」で、浜松町駅前では「浜松町二丁目4地区」と「浜松町二丁目地区第一種市街地再開発事業」の大型開発事業が進行中だ。
浜松町周辺エリアの大規模開発で先駆けとなったのが、2020年に開業した東京ポートシティ竹芝とウォーターズ竹芝。9月に開いた東京ポートシティ竹芝は、オフィスタワー(地下2階~地上40階、高さ約208m)とレジデンスタワー(地上18階、戸数262戸)で構成された延床面積約20万㎡の大規模複合施設。国家戦略特区の法定事業にも認定された事業として都有地を活用し、コンテンツ産業育成に資する民間施設と都立貿易産業センターを一体的に整備した。同事業に併せ浜松町駅から竹芝駅を繋ぐ歩行者デッキも整備されている。
そのオフィスタワーに開発された注目の施設が、2~6階部分の緑に囲まれた憩いの空間「スキップテラス」。階段状に配置されたスキップテラスは多様なオープンスペースと緑を施し、「雨・水・島・水田・香・菜園・蜂・空」の8つの景からなる「竹芝新八景」を展開。緑豊かな環境づくりを行うとともに、日本の都市における生物多様性の取り組みを発信している。オフィスタワーの1~3階(一部6階)にはレストラン、カフェに加え、仕事帰りに立ち寄れる「みなと横丁」を中心に21店舗からなる商業ゾーン「竹芝グルメリウム」がある。
一方のウォーターズ竹芝は、浜離宮恩賜庭園に近接して水辺に誕生した大型複合施設。地上26階建てのタワー棟、シアター棟、パーキングからなり、総延床面積は約10万2600㎡。タワー棟にラグジュアリーホテル(メズム東京、オートグラフ コレクション)、オフィスなど、シアター棟にJR東日本四季劇場「春」、「秋」などが入り、商業施設の「アトレ竹芝」はタワー棟とシアター棟にまたがって展開されている。
ウォーターフロントの立地を生かし、プラザ(広場)、船着場、干潟なども完備。ウォーターズ竹芝前の「竹芝地区船着場」から、浅草、お台場、両国、葛西、豊洲方面への水上バスやクルーズ船が運行している。
浜松町駅西口駅前では、大規模再開発で「日本生命浜松町クレアタワー」(2018年8月竣工)や「世界貿易センタービルディング南館」(2021年3月竣工)が誕生している。今、解体工事に入っている「世界貿易センタービル」も解体後には高さ約235mの新ビルが立ち上がる。1970年に完成した旧世界貿易センタービルは、最高高さ162mの高層ビル(地上40階・地下3階)で、「霞が関ビル」(高さ約147m)を抜き、当時としては日本一の高さを誇っていた。
世界貿易センタービルのように、1970年代に建設された超高層ビルが解体やリニューアルの時期を迎えている。都市部にある超高層ビルは公共交通機関やインフラ設備が隣接していることが多く、解体工事には高い安全性や環境配慮が求められる。解体のために2021年1月末で閉鎖になった世界貿易センタービルは、鹿島建設が「鹿島スラッシュカット法」という工法で進めている。超高層ビルの主要な解体工法には、重機を最上階に乗せて解体する「階上解体工法」と、建物をブロック状に解体して吊り取っていく「ブロック解体法」があるが、ともに解体ガラの落下や粉塵の飛散、工事期間が長引くなどの課題を抱える。
鹿島スラッシュカット工法は、工期の短縮に加え、超高層ビルの解体工事に欠かせない強風や地震の対策、第三者リスクの排除に寄与し、騒音の大幅な低減や施行中の二酸化炭素(CO2)排出量の削減をもたらすという。
具体的には、密閉された建物内部で斜め切断カッターにより、スラブを先行解体。躯体を切断して大割ブロック化し、それを建物内部の大型揚重開口より吊り下ろして地上階で小割解体、せり下げ足場を逆クライミングして次の下層フロアを解体するというフローとなる。
世界貿易センタービル跡地を含む「浜松町二丁目4地区(A街区)」の開発を手掛けているのが、世界貿易センタービルディング、鹿島建設、東京モノレール、東日本旅客鉄道。A街区の開発規模は敷地面積約2万1000㎡、延床面積約31万4000㎡で、現在解体中の世界貿易センタービル跡地にオープンするのが、地下3階~地上46階、高さ約235mの世界貿易センタービルディング本館(A-1棟)だ。
ターミナル(A-2棟)は地下3階~地上8階、(A-3棟)はすでに完成している世界貿易センタービルディング南館(地下3階~地上39階、高さ約200m)で、モノレール棟が地上5階建てとなる。
これらの開発によってビジネスセンター機能だけでなく、浜松町駅改良と併せた歩行者ネットワークや、バスターミナル整備による交通結節機能が強化されるほか、カンファレンスや交通観光サポート機能の導入、ホテル機能、都心型MICE拠点整備など、国際交流拠点が形成される。
浜松町二丁目4地区と隣接した街区で進められているのが、「浜松町二丁目地区第一種市街地再開発事業」。世界貿易センタービルディング、鹿島建設、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンスが組合員として事業に参画。地下2階~地上46階、高さ約185mの超高層ビルが建てられ、24年11月に高層部(共同住宅、事務所など)が完成し、26年12月に全体竣工(港区文化芸術ホール、商業施設等)する予定だ。
JR東日本は、高輪ゲートウェイ駅周辺で進めている品川開発プロジェクト(第Ⅰ期)となる「高輪ゲートウェイシティ(仮称)」のまちづくりの概要を明らかにした。区域面積約9.5ha、敷地面積約7万2000㎡、延面積約85万1000㎡に上る大規模プロジェクトで、「Global Gateway」を開発コンセプトに、「100年先の心豊かなくらしのための実験場」となる街を目指す。また、国史跡指定された高輪築堤を現地で保存した上で、まちづくりの中で生かしていく。
第Ⅰ期の高輪ゲートウェイシティのまちづくりでは、4つの街区に5つの棟が建設される。4街区に「複合棟Ⅰ」(North、South)、3街区に「複合棟Ⅱ」、2街区に「文化創造棟」、1街区に「住宅棟」が建つ。高輪ゲートウェイ駅前に建設される複合棟Ⅰ(North、South)は、国際交流拠点の象徴となるツインタワー(延床面積約46万177㎡)。駅直結の立地を生かし、国際的な大企業本社機能の入居を想定したハイグレードオフィスを有するほか、国際会議の誘致を想定した大規模コンベンション・カンファレンス機能を整備。South棟(地下3階~地上30階、高さ約158m)の高層にラグジュアリーホテル、North棟(地下3階~地上29階、高さ約161m)の高層にルーフトップレストラン、低層部に商業施設などで構成する。
複合棟Ⅱ(地下5階~地上31階、高さ約166m、延床面積約20万8164㎡)は、泉岳寺駅に隣接する大規模複合棟。フレキシビリティの高いオフィスフロアに加え、商業施設やクリニック、フィットネスを完備し、街のレジリエンス(回復力)を支えるエネルギーセンター、地域冷暖房設備を有し、街全体に環境性能の高いエネルギーを供給する。住宅棟(地下2階~地上44階、高さ約172m、延床面積約14万8294㎡)は、エクスパッツ(外国人ビジネスワーカー)にも対応した国際水準の高層高級賃貸住宅やテラス型住戸を含むレジデンス、低層部のインターナショナルスクールなどが主用途となる。
低層建物で公園と一体となった形となる文化創造棟(地下3階~地上6階、延床面積約2万8952㎡)は、外装デザインアーキテクトに隈研吾氏を迎え、緑と木によって形づくられたスパイラルにより建物全体で日本の四季を表現。街のシンボルとなる施設として、約1200席のライブホール、約1500㎡の展示室のほか、約300㎡のオルタナティブスペース、約200㎡の畳空間、足湯と水盤のある屋上庭園なども設け、次世代に向けた文化育成、交流、発信の拠点とする。文化創造棟におけるプログラムを企画・運営するための組織として「一般財団法人JR東日本文化創造財団」が設立されている。
このまちづくりにはJR東日本グループが一体となった運営体制がとられ、オフィスに「ジェイアール東日本ビルディング」、商業に「ルミネ」、住宅に「ジェイアール東日本都市開発」、フィットネスに「JR東日本スポーツ」が参画する。
なお、24年度末(25年3月)に複合棟Ⅰ・高輪ゲートウェイ駅周辺エリアが開業(駅周辺の広場・歩行者デッキなどの開業と、高輪ゲートウェイ駅の全面開業)。そのほかの棟(複合棟Ⅱ、文化創造棟、住宅棟)と各棟周辺エリアは25年度中に開業予定となっている。
高輪ゲートウェイ駅近くで動き出す再開発事業がある。特定建築者に選定された東急不動産と京浜急行電鉄によるコンソーシアムが手掛ける「東京都市計画事業泉岳寺駅地区第二種市街地再開発事業」と「品川駅北周辺地区市街地再開発事業(仮称)」だ。前者は、港区高輪2丁目に住宅や業務施設、商業施設、駅舎、駐車場などが入る駅直結型の再開発ビルを整備。完成は28年3月頃を予定する。後者は港区高輪2丁目および港南2丁目に計画されており、事業協力者としてJR東日本と日鉄興和不動産が参画している。
品川駅周辺での大規模開発は、品川駅西地区だ。西武グループは、品川駅西口のグランドプリンスホテル新高輪などの高輪エリアに約8万3000㎡(敷地面積)、品川プリンスホテルなどの品川エリアに約4万5000㎡(同)のエリア最大級の不動産を保有している。同グループは「世界の人々を迎え入れる『品格ある迎賓都市・開かれたまち』への転換」をまちづくりのコンセプトにした品川駅西口地区(高輪3丁目地区)について、「品川駅西口地区まちづくり指針(高輪三丁目地区)」を策定し、これに基づき段階的まちづくりを推進していく方針を打ち出している。
京浜急行電鉄は品川・羽田・横浜を成長トライアングルゾーンと位置づけ、品川は駅周辺を核とした街づくりを推進する。その1つである品川駅西口前にあるホテル「シナガワグース」(21年3月末閉鎖)を解体し、その跡地にトヨタ自動車を共同事業者として複合ビルを建設する。
(塚井明彦)