2024年11月19日

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【連載】富裕層ビジネスの世界 節税策を提供していたコンサル逮捕で落胆する富裕層たち

今年6月、富裕層の間でもっぱら話題になった事件がある。顧客に脱税を指南したとして、ドバイに本店を置く貿易会社「KPT General Trading LLC」代表の多和田真一(71歳)と同社日本代理店の吉田毅(48歳)、白木努(43歳)の3容疑者が、法人税法違反などの疑いで東京地検特捜部に逮捕された事件だ。

東京地検によれば、多和田容疑者らは2015~2019年に、実態がないにもかかわらず顧客2社に対してKPT社がコンサルティングをしたように装い、架空のコンサル費計約2億5000万円を経費計上させて所得を圧縮、2社の法人税など計約6300万円を脱税させた疑いが持たれている。

KPT社は節税コンサルとして2015年以降、160を超える法人と個人に節税対策を行い、手数料として約3億円を得ていたという。国税当局は約40の顧客に対し計数十億円の所得隠しを指摘し、顧客らは修正申告している。

なぜこの事件が富裕層の間で話題になるのか。この会社、実は富裕層の間でかなり有名な会社だった。というのもドバイに本拠地を置き、「51%の株をアラブの王族が所有する企業です」などと宣伝して節税プランを富裕層に進めていた会社だからだ。

「事業」として経費計上し節税

KPTが勧めていた節税策のポイントは「事業」であること。コンサルという事業を行ったことにし、その対価として支払い、経費として課税所得を圧縮すれば、国税当局からも目をつけられにくい。そうした点をついたスキームだったというわけだ。

だが、富裕層サービスを展開している運営者は、「KPT社のスキームは、こうした節税策以外にも用いられていた」と明かす。

「富裕層はかねてより海外に資産をフライトさせていた。日本は相続税や贈与税の税率が高い。そのため相続税がない、もしくは税率の低い国に資産を移して節税していたのだ。しかし、相続人と被相続人双方が10年以上海外に居住しなければならなくなるなど要件が年々厳しくなってきて、そんなに長い期間いられないといった理由で、日本に戻りたいという富裕層が増えていた」

富裕層サービスの運営者は、このように背景を説明した上で次のように明かす。

「しかし一度フライトさせた資産を日本に戻すのは、税務当局にみつかりやすく容易ではない。そこでKPT社はあるスキームを提供していた」

スキームの概略はこうだ。

例えば、シンガポールに資産フライトさせた富裕層が、日本に10億円持ち帰りたいと考えたとしよう。まず、KPT社は世界の国々に支店と銀行口座を保有している。そこで富裕層は、KPT社の海外支店に、事業資金の「融資」もしくは「出資」という形で10億円を送金。融資や出資であれば大きな金額でも違和感はなく、税務当局の目にも留まりにくいところがポイントだ。

支店を通じて資金を手に入れたKPT社が、今度は富裕層の経営する会社に「事業資金」を融資もしくは出資という形で送金する。こうすることで、日本にいる富裕層の手に資産が渡るという仕組みだ。資産を持ち帰ることが目的だから、当然、事業なんて存在しない。あくまで見せかけでいいわけだ。

「手数料としてKPT社とわれわれのような仲介者が合計2億円程度をとるが、税金でガッツリ取られることを考えれば安いもの。融資と事業資金という名目で行う点がポイントだった」と富裕層サービスの運営者は明かす。

フライト資産を日本に戻す手伝いも

さらにKPT社は、税務当局の目をくらませるため、さらに狡猾な手法を用いていたという。

コンサル名目の契約を結んだ顧客に対し、実質的にはなんの価値もないKPT関連株を譲渡、これを担保にコンサル費用とほぼ同額を貸し付けていた。これはコンサル費用を顧客に戻すための「偽装工作」だったと見られている。

関係者は、「セミナーで『コンサル契約を結べば、ドバイで60年間商売をしてきた弊社の株を所有でき、合法的に節税ができる』などと訴えていた」と明かす。

「ちょっと金融をかじったことがある富裕層ならおかしいなとわかりそうなものだが、そうでない富裕層もかなり多い。しかし、稼いだ金を持って行かれるのは嫌だから節税はしたい。そう思った富裕層たちがKPT社の言葉を信じ、言われるがままに金を払ったのだ」と富裕層サービスの運営者は指摘する。

「ほとんどのスキームが税務当局に潰されていく中で、KPT社が提供していたスキームは唯一残された節税策だった。それが今回の逮捕劇で“クロ”だと認定された今、もう富裕層に大きな効果のある節税策は残されていない」

ある富裕層はこう語って落胆する。

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