勢い続く大規模再開発-浜松町・品川エリア編(前編)
野村不動産ホールディングスの沓掛英二社長兼社長執行役員グループCEOは、5月23日に開いた「芝浦プロジェクト」の記者発表会で次のように語った。
「東京湾岸エリアにおいて最大規模の開発となる芝浦プロジェクトは、2008年に東芝不動産が当社のグループに入ったことに始まる。1984年に東芝の本社社屋として芝浦1-1-1の住所に浜松町ビルディング(東芝ビルディング)が竣工。以来、日本経済の成長を支えてきた象徴的な建物と言える。2012年から国家戦略特区の取り組みが始まり、本プロジェクトも2018年3月に容積率1100%超の認可を受けて推進している。この芝浦の地で新たに延床面積約55万㎡、高さ約235mのツインタワーからなる本プロジェクトが、東京の都市力をさらに強めることに寄与し、国際ビジネス、観光の拠点として発展していくことを目指す。そして我々がこのプロジェクトで実現したい強い思いは、新たな中長期経営計画における2030年のグループビジョン『まだ見ぬ、Life&Time Developerへ』を具現化することである」
沓掛氏が語った芝浦プロジェクトとは、浜松町ビルディングの建て替え事業として4.7haの敷地に「S棟」と「N棟」からなるツインタワーが建設される大規模開発。そのスケールは、2棟合わせた延床面積が現在の浜松町ビルディングの3.5棟分にあたる約55万㎡、高さは約235mで1.4倍となる。
21年に着工したS棟(25年2月竣工予定)は地下3階~地上43階、27年度着工となるN棟(30年度竣工)が地下3階~地上45階で、オフィス、ホテル、商業施設、住宅などが主用途で構成される。全体完成は30年度の予定で、約10年間におよぶ巨大事業となる。
芝浦プロジェクトは建物のスケールが大きいだけではない。空、海、緑が感じられる素晴らしい景観が実現されるという。野村不動産ホールディングスの松尾大作副社長兼副社長執行役員グループCOOは「本プロジェクトにおいて立地環境の最大の特徴は、眼前に広がる空と海で圧倒的な開放感が得られ、ツインタワーの足元は運河の親水空間と豊かな緑地空間に囲まれる。東京の利便性と空と海、そして水と緑に囲まれた心休まる環境。その両方を同時に享受できる稀有な街を創造し、世界に開かれた東京からウェルビーイングが可能になる」と強調した。
同プロジェクトで設計を担当した世界的建築家の槇文彦氏も「芝浦運河、日の出桟橋を介して東京湾を一望するこの敷地に建設される2棟の超高層は、東京のどこにもない壮大な景観を享受し得るに違いない。我々はこの場所が浜松町から海や田町方面に至る交通ネットワークの1つの拠点となり、時代とともに緑豊かな環境に包まれ、人と自然が共存しダイナミックに成長していく場になるように心掛けてきた」とメッセージを寄せた。
ツインタワーの足元が水と緑に囲まれる。東側には長さ200mに亘る親水空間を整備。敷地西側に約3000㎡、運河沿いには約2000㎡、そのほか建物を囲むように約3000㎡の合わせて約8000㎡を緑化空間として整備し、加えて線路側の境界に沿って設置するグリーンウォールとツインタワーを壁面緑化することで、合計約1万3500㎡の敷地内緑地空間を誕生させる。敷地北側には約1700㎡の規模で公園も整備される。
ツインタワーは主に4つの用途で構成される。オフィスは貸室面積がS棟、N棟を合わせて約7万2000坪。S棟は高層階にラグジュアリーホテル、低層階に商業施設、N棟は高層階に高級レジデンスが入る予定。S棟のオフィスについては空と海の360度の眺望を最大限に生かすべく、一般的なオフィスビルの2倍以上となる18mの柱スパンを東西南北全ての壁面に採用。基準階の床面積は約1556坪で、都内でも最大級のフロア面積だ。地上140メートルの28階にはワーカー専用のスカイラウンジが設けられる。
松尾氏は「東京に居ながらにして開放感、居心地の良さを享受でき、ストレスを軽減できるウェルビーイングな日常を実現できる。これこそが私どもが提案する“トウキョウ ワーケーション”という働き方」だという。
S棟の高層階に入るホテルは、すでに決定済み。欧州最大手のホテルグループであるアコーのラグジュアリーホテルブランド「フェアモント」が日本初進出する。スイートを含む全219室のゲストルーム、3つのレストランとバー、スパ、フィットネスセンター、プール、バンケット、カンファレンス、チャペルを備え、25年度に開業予定。
商業施設についてはS棟、N棟合わせて東京ミッドタウン日比谷の規模に相当する約5500坪で、緑道や運河沿いなどには地域の人も利用できるカフェやレストランが設けられ、運河側には賑わい空間となる約550坪の広場ができる。N棟の高層棟に配置されるレジデンスは野村不動産グループが培ってきた住宅事業の経験と本プロジェクトがもつ眺望を生かし、高品質な居住性を実現する。
地震、非常時電力供給、水害、感染症などのBCP対策にも怠りない。地震対策は建物全体を制振構造とし、免震装置も加えたハイブリッド構造。その免震構造は、オフィスフロアとホテルフロアの切替階となる34階の上階に免震層を設置して、免震層上部が振動に対してカウンターバランスを取ることで、低層から高層階まで建物全体の振動エネルギーを吸収する。
制振構造となる120台のオイルダンパーが設置され、外部鋼板と内部鋼板の運動により振動エネルギーを吸収する粘性壁を8台設置。さらに摩擦材による摩擦抵抗力を利用して振動エネルギーを吸収する摩擦ダンバーは、ブレース型を66台、鋳型を16台設置する。加えて、太陽光発電とカーボンニュートラル都市ガスの導入により、街区全体での二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロ実現も掲げている。
野村不動産と東日本旅客鉄道が推進する芝浦プロジェクト、鹿島建設、東京モノレール、東日本旅客鉄道が共同推進する「浜松町駅西口開発計画」に合わせた5社による歩行者ネットワーク構築、交通結節点の機能強化を目的とした「浜松町駅エリアの整備計画」についての発表もあった。
26年度に全面使用開始予定の「北口歩行者ネットワーク」は、浜松町駅北口を中心に、竹芝・汐留方面、芝大門方面の各エリアを繋ぐ歩行者ネットワークを形成する。線路を跨いで東西線を繋ぐ自由通路は、JR浜松町駅、東京モノレール浜松町駅の北口に新たに整備される改札からフラットにアクセスできるようになる。浜松町駅南口に、既存の自由通路に加えて新たな自由通路を整備し、混雑緩和やバリアフリーへの対応を図ることで、浜松町2丁目エリアと芝浦エリアを繋ぐ歩行者ネットワークが強化される。
「竹芝・汐留方面と芝浦方面を繋ぐ歩行者空間の整備」では、浜松町駅東側に旧芝離宮庭園に沿って歩行者専用道路を整備することで、竹芝・汐留方面と、芝浦方面が緑豊かな空間で繋がる。
また、浜松町駅から芝浦プロジェクトにかけて庇(ひさし)が設置され、雨に濡れないアクセスが可能となる。「中央広場を起点とした交通結節点の機能強化」では、浜松町駅中央改札前に広がる中央広場と、ステーションコアと呼ばれる歩行者ネットワークを一体整備することで、JR山手線・京浜東北線、東京モノレール、都営地下鉄、バスターミナル、タクシーの各交通機関とのスムーズな乗り換えが実現される見込みだ。
野村不動産とともに芝浦プロジェクトのパートナー(事業主体)となっている東日本旅客鉄道は、品川エリアも含めた浜松町エリアで進む再開発事業に関わっている。
芝浦プロジェクトの発表会で東日本旅客鉄道の喜勢陽一副社長は「本プロジェクトの地である東京湾岸エリアは1872年に日本で初めて鉄道が敷設されたところで、1909年に開業した浜松町駅は伊豆諸島への連絡エリアの役割を担ってきた。64年には東京モノレールが乗り入れ、航空連絡のターミナル駅となり、2000年には都営地下鉄大江戸線大門駅も開業して陸路、空路、そして海路の結節点となった浜松町駅とともに、多くのオフィスビルが建ち並び、街も大きく発展してきた。私どもJR東日本グループは18年に発表した中期経営計画『変革2027』において、鉄道の起点をインフラとしたサービスの提供から、ヒトの生活における豊かさを起点とした社会への新たな価値創造へとビジネスモデルを大きく転換した。この湾岸エリアでは20年に文化、芸術を核とし、水辺を活かした複合型の街づくり『ウォーターズ竹芝』を開業。今年4月には品川開発プロジェクト第1期『高輪ゲートウェイシティ(仮称)』の街づくりの発表に至った。今年が新橋~横浜間の鉄道が開業してちょうど150年という節目で、東京湾岸エリアを大きく変えるプロジェクトに携われることを光栄に感じている」と語った。
なお、野村不動産グループは1978年に野村ビルが竣工して以来44年間拠点としてきた西新宿を離れ、ツインタワーのS棟の竣工にあわせ2025年に本社を移転することを決めた。本社移転を通じて「ウェルビーイング」、「エンゲージメントハブ」、「ダイバーシティ&インクルージョン」という3つの環境を整え、都心で空・海・緑を感じながら、自ら働き方をデザインする新たな働き方「TOKYO WORKation」の実現を目指す。
(塚井明彦)