三陽商会、ショールーミング型ストアでブランド横断のコンテンツを発信 総合アパレルの強み生かす
大丸東京店に構える三陽商会のショールーミング型店舗「サンヨーフィッティングストア」が、新たな挑戦を始めた。同社のオウンドメディア「サンヨー・スタイル・マガジン」と手を組み、ブランドを横断したコンテンツを発信。4月27日~5月17日は長く愛されている「名品」を紹介し、18日以降はワンマイルウェアとサステナブルな商品を展開している。同ストアは以前から品質や技術の高さを体感できる場としての役割を果たしていたが、今後は加えて、総合アパレルの強みを生かした企画軸の編集型売場として今までにないアプローチも行う。
サンヨーフィッティングストアは20年10月、大丸東京店の6階にオープンした。大丸東京店はビジネスや観光で訪れる人が多いことから、荷物を持ち帰らずに済む買い物方法としてスタート。ECサイトが普及した時代であっても、洋服は実際に試着をしてから買いたいというニーズは根強く、その受け皿としての役割もある。実際に同社のサンヨー・スタイル・マガジンを見た人の6割が、実際の商品を見に来店しているというデータが出ている。
「特に当社の商品は、縫製など質の良さを強みとしているため、直にそれに触れて、体感してほしいという想いがあった」と事業本部コーポレートブランドビジネス部コーポレートブランド課課長の猿渡伸平氏は語る。売場では主に「サンヨーコート」、「エス エッセンシャルズ」を扱ってきたが、それはこれらが同社のものづくりの技術を集結させたブランドであり、それを広く発信できる場になると考えたためである。
ストアの開始以降は、在庫管理などの業務が無いため販売員の負担が少なく、客への接客に集中できる利点の大きさを感じたという。ある時「100年コートを買うのに2年程迷っていたが、ネットにある情報だけでは踏ん切りがつかなかった」という客が来店したが、販売員がインターネットに載っていない情報を説明し、実際に試着をしたことで購入へと至った。販売員の接客力と商品の実物の良さが購入を後押しした、ショールーミング型店舗ならではの好事例だ。
同ストアは特定のブランドのショップではないため、テーマに沿った編集をできるというメリットもある。「全てのお客様がブランドに詳しい訳ではない。ブランドで区切られた売場ではなく、テーマやモノに特化した売場があってもいいのではないかと考えた」と猿渡氏は述べる。総合アパレルである三陽商会のメリットも生かしやすい。こうした経緯から、独自の編集視点を持つサンヨー・スタイル・マガジンのポップアップショップが企画された。
サンヨー・スタイル・マガジンは三陽商会のブランド横断型コンテンツで、18年にウェブマガジンとして始まり、21年秋に紙のカタログも発行した。多くのブランドを擁する同社の強みを活用し、様々なブランドやテイストを組み合わせた提案を行っている。
「インターネットで買い物をすると、自分の好きなものの情報は手に入るが、新しい発見がない。サンヨー・スタイル・マガジンを通じて、新しい発見を提供したい」とマーケティング・コミュニケーション部宣伝・販促第一課課長の小田光孝氏はサンヨー・スタイル・マガジン創設の意図を説明する。サンヨー・アイストアではブランドを超えた買い回りの向上に改善の余地があり、その促進も狙った。
特に紙のカタログは、客とのタッチポイントを増やす試みでもあり、コロナ禍による外出自粛を受けての施策だった。しかし緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などが解除され、リアル店舗で買い物をする人が増えたことから、サンヨー・スタイル・マガジンに携わるチームも「リアル店舗でもこうした提案をできないか」と考えていた。
こうして始まったサンヨー・スタイル・マガジンのポップアップは、第1弾として4月27日から「SANYO名品6」を展開。同誌の2022年春夏号に掲載されている企画で、各ブランドのロングセラー商品6種類を集積。支持されている理由もポップなどで説明しながら、商品一点一点を、ウィンドウに装飾するように贅沢に展示した。
「通常のショップでは、すぐに試着ができるようにサイズ違いも含めて店頭に出すが、商品にフォーカスする企画であることや、ウェブでは物撮り(商品だけの撮影)の反応が良いことから、あえてそういう見せ方をした」(小田氏)。商品の良さを前面に打ち出す、まさに“雑誌”や“ショールーム”らしい表現方法である。
名品6の開催中は、同ストアをきっかけに各ブランドの売場へ送客するケースがいくつかみられた。とある客はマッキントッシュ ロンドンのカットソーを見て「他にもないか」と販売員に尋ね、店内にあるマッキントッシュ ロンドンの売場に紹介すると、そのカットソーや他の商品を購入した。ブランドを超えた商品の買い回りはECサイトだけでなく実店舗でも少ないため、今後の可能性を感じたという。すでにショップ間では、同ストアをきっかけに販売員のコミュニケーションが活発化している。
常設店への送客とは逆に、常設で取り扱っていないブランドの認知度拡大にも繋がる。5月18日からは、「洗練ワンマイルウェア」、「“サステナおしゃれ”を始めよう!」の2つの企画を行っているが、サステナブルの企画では、同店で取り扱いのないブランド「エコアルフ」を展開している。
今後も、サンヨー・スタイル・マガジンと連動した企画を続ける。ウェブマガジンでは今まで季節や歳時記に合わせたコンテンツを発信し、それに対する客の反応のデータも蓄積しているため、消費者のニーズに近いモノ、コトを提供できる。ウェブの即時性の高さも生かし、今夏はまずウェブマガジンで出し、好評なものを同ストアで展開する予定だ。
とはいえ店頭での展開は始めたばかりであり、ウェブとは環境や見せ方など条件が異なるため、内容はトライアンドエラーを重ねてブラッシュアップを目指す。売場の認知度も課題であり、向上に向けて取り組んでいく。
同社は商品を体感できる場としてのリアル店舗を重視しており、「リアル店舗あってのECチャネル」という考えを基に、リアル店舗とECチャネルの双方で各々の特性を生かしたCX(顧客体験)の向上を目指す。サンヨーフィッティングストアは、各ブランドのショップやECサイトなど、様々な販売チャネルに繋がり、客の利便性を高める選択肢の1つという位置付けだ。「百貨店の好立地、集客力がある場所を提供してもらうというのは大きな強みである。今までは場所を取って商品を置くだけで終わっていたが、より立地の良さを生かした見せ方や販売方法がないか、共に取り組み、活性化していきたい」(猿渡氏)。