2024年11月19日

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<ストレポ2月号掲載>百貨店 金融・決済の中核事業化

※画像はイメージです

日本銀行が昨年12月20日に発表した7~9月期の資金循環統計(速報)によると、9月末時点で個人が保有する金融資産は前年同期比5.7%増の1999兆8000億円と過去最高を更新した。株高・円安で個人が保有する株式や投資信託の評価益が膨らんだためだ。12月末までに2000兆円を超えそうな勢いで、「個人金融資産2000兆円時代」に突入する。

※この記事は、月刊ストアーズレポート2022年2月号掲載の特集「百貨店 金融・決済の中核事業化」(全16ページ)の一部を抜粋して紹介します。購読される方は、こちらからご注文ください。(その他2月号の内容はこちらからご確認いただけます)

大手百貨店グループは、コロナ禍の劇的な環境変化を好機に転換し、早期業績回復と再成長戦略を目指した新たな中長期経営計画に移行した。百貨店事業の再生戦略を優先しているものの、並行して中長期視点で中核事業の育成にも取り組んでいる。不動産(デベロッパー)事業と並び、事業ポートフォリオの変革に欠かせない中核事業と位置づけているのが金融・決済(カード)事業である。百貨店で培ってきた「のれん」への信頼・信用、外商やハウスカード、友の会などの優良な顧客基盤、リアル店舗、モノ・コト編集力や接客サービス力、取引先のネットワークといった「グループ資産」を存分に生かせるマーケットだ。

金融・決済事業を手掛けるグループ企業のトップに外部から専門人材を招聘するなど、「個人金融資産2000兆円時代」に呼応するかのように、金融・決済の中核事業化に向けた新たな成長戦略を本格化させている。

 

■エムアイカード

個客に寄り添い最高の体験を提供する「ライフデザインパートナー」を指向

三越伊勢丹グループの中で、㈱エムアイカードの存在価値が高まってきている。2022年度(23年3月期)から始動する新しい中期経営計画では、「高感度上質消費の拡大・席巻、最高の顧客体験の提供」を基本戦略に据えて、「高感度上質戦略」、「『個客』とつながるCRM戦略」、「連邦戦略」という重点戦略を推進していくが、いずれの戦略の実現もエムアイカード会員へのアプローチとそのデータの活用が不可欠だ。さらに中長期視点で金融事業を百貨店、不動産に次ぐ主柱事業に育成しようとしており、この金融事業を手掛けるのが、言うまでもなくエムアイカード社である。2月からスタートする三越伊勢丹グループ百貨店内における新しい特典制度と共に、エムアイカード社の成長戦略が始動する。

三越伊勢丹HDは、金融事業を強化すべく20年4月にみずほ銀行出身でマーケティングやカード・金融業に詳しい梅田貴生氏をエムアイカード社の社長に招聘して、百貨店グループで培った信頼と優良な顧客基盤、デジタル技術の高度化をベースに、主力のカード事業に加え、保険やファイナンス、資産形成などの金融事業の強化にも取り組んでいる。こうしたライフデザインを実現する手段を通じて、「最高のお客様体験を提供する『ライフデザインパートナー』を目指した体制づくり」(エムアイカード梅田貴生社長)を進めている。ライフデザインパートナーの実現が、新中期計画に基づくエムアイカード社の成長戦略の柱になる。

三越伊勢丹HDの重点戦略の中心が「高感度上質戦略」だ。高感度上質消費を「生活にこだわりを持ち、上質で豊かな生活を求めるお客さまの消費のすべて」と「日常のハレの日、月1回でも年1回でも三越伊勢丹グループをご利用いただけるすべてのお客さまの消費」と定義した。この消費の拡大・席巻に向け「高感度上質戦略」とデジタル戦略(DX)で、リアル店舗とオンラインを融合したシームレスな顧客体験価値を提供し、パーソナル(個)マーケティングによる「つながるCRM」でファン化して「グループ生涯個客」を拡大する方向性を打ち出している。パーソナルマーケティングを実践していくためには、言うまでなくエムアイカードの会員の顧客データの活用が欠かせず、さらに新規会員の開拓も重要だ。

2つ目の「『個客』とつながるCRM戦略」では、エムアイカード社が果たすべき役割がさらに大きく、事業の収益向上にも直結する戦略だ。つながる「個客」の母数の拡大、並びに利用額と頻度の向上を目的に、「百貨店レベルCRM」、「グループレベルCRM」、「決済インフラ整備」、「インバウンド戦略」の拡充策に取り組む。このうち百貨店レベルCRMでは、エムアイカードおよび三越伊勢丹アプリの会員獲得、現金・他社クレジット顧客へのエムアイポイントの付与、三越伊勢丹カスタマープログラムの拡大などを推進する。

そしてグループレベルCRMでは、ショッピングセンター内など百貨店外でのエムアイカード会員の開拓、グループ内の相互送客策、金融コンテンツの拡充を図り、さらに外部企業とのアライアンスにより、百貨店MD以外のコンテンツの拡充、グループ外での顧客獲得や利用促進、外部加盟店の拡大などに取り組んでいく。また、決済インフラ整備については、多様な決済ニーズへの対応や制度見直しによる効率化、決済における安全性向上を課題に挙げている。

こうした百貨店並びにグループCRM、外部企業とのアライアンスによって、エムアイカードの会員獲得と利用額・頻度向上に伴うカードの年会費収入と手数料収入の増加に加え、新たな金融商品やデータマーケティング事業などを加えた金融サービスの収入拡大にも取り組む。昨年4月には事業企画部を新設して、新しいビジネスや金融商品の開発などを手掛けている。

 

■髙島屋ファイナンシャル・パートナーズ

百貨店への信頼と顧客基盤を強みにお客様本位の最適なライフプラン提供

髙島屋にとって金融事業は、百貨店事業、商業開発事業に次ぐ第3の収益の柱と位置づけ、中長期の経営計画で重責を担っている成長事業だ。21年度(22年2月期)から始動した3カ年計画では金融事業で最終年度に営業利益55億円を目標にしており、計画通りならばグループ営業利益の2割近くを占める。金融事業の成長戦略を手掛けるのが、20年3月に設立した髙島屋ファイナンシャル・パートナーズ㈱(以下TFP)である。コロナ禍でも矢継ぎ早に新規事業に参入。20年6月に資産形成や相続などの相談を承るファイナンシャルカウンター事業を開始し、次いで昨年4月にソーシャルレンディング(貸付型クラウドファンディング)事業に参入した。加えて昨年3月にタカシマヤカードをオンラインで即時発行できるようにするなど、カード事業の拡大策にも余念がない。

取り扱う金融商品は多種多様で、いわば自主編集の強みを生かした品揃えだ。投資信託では、SBI証券との業務提携によって約2700種類(21年6月時点)を揃えており、業界で最多水準という。さらにこの中から長期資産形成に役立つ良質な運用が期待できる商品を第3者の外部専門家の意見を取り入れて「タカシマヤセレクション投資信託」を選定して、提案している。これも同カウンターならではの価値提供のひとつと言えよう。

さらにタカシマヤカードで投資信託(SBI証券取扱い商品)の積立購入ができるサービスもある。毎月のカード積立金額(1カ月当たり最大5万円)に応じて髙島屋の店舗やオンラインストアで使えるタカシマヤポイントを付与する。ポイント率は1~2年目が0.1%、3~4年目が0.2%、5年目以降は0.3%になる。投資信託をきっかけにタカシマヤカードに入会するケースもあり、TFPにとっては収益源であるカード事業拡大にもつながる。また、TFPのウェブサイトからSBI証券の口座が開設でき、開設後はオンラインシステムを通じて投資ができる。

各店のファイナンシャルカウンターには、個別相談室とセミナールームを設けており、ファイナンシャルセミナーを定期的に開催している。初めての資産運用や家計の見直しなど初心者向けから顧客の関心事に応じた内容のセミナーで、オンラインでも参加できる。

ファイナンシャルカウンターは、コロナ禍で店舗への入店客数が減少した中での開設だったこともあり、「まだ認知度を高めていかなければならない段階にあるものの、成約件数は伸びてきている」(峯山社長)という状況だ。同カウンターはタカシマヤカードのサービスカウンターと隣接しており、相互送客による新規顧客の開拓にもつながっている。育成段階ではあるものの、その役割と成長への手応えを得ている。

 

■JFRカード

新たなポイントプログラムを基軸に重点地域で「QIRA」経済圏を形成へ

J・フロントリテイリング(JFR)でも決済・金融事業をグループの成長余地のある中核事業に位置づけ、21年度から始動している新中期経営計画で業容拡大を進めている。この成長戦略を担うグループ企業がJFRカード㈱だ。その象徴が大丸松坂屋カードの全面リニューアルで、新たなポイントプログラム「QIRA(キラ)ポイント」を付帯して、昨年1月より発行を開始した。新・大丸松坂屋カードはクレジット利用で、大丸松坂屋百貨店だけでなく、提携先の商業施設やオンラインショッピングなどの買物でもポイントが貯まり、利用できる。JFRグループでは重点エリアで、地域と共生しながら個性的な街づくりに取り組むエリア戦略を進めており、この「結節点」にもなるポイントプログラムだ。また20年11月には心斎橋パルコに保険や金融商品の相談と紹介を行う「QIRAフィナンシャルラウンジ」も開設。新中計の始動と共に、「くらしの楽しみ方・暮らし方を支える金融・決済サービスのベストパートナー」を目指したJFRカードの成長戦略が本格スタートしている。

JFRは、決済・金融事業を中核事業に育成していくために、クレジットカード業界の専門人材を外部から採用してきた。JFRカードの社長に二之部守氏を18年3月に迎えて、同社の新たな成長戦略へのプロセスが動き出し、同年に「大丸松坂屋カード」を新カードに大幅に刷新するプロジェクトも始動。2年半の歳月を経て21年1月16日より新・大丸松坂屋カードに切り替わり、新中期経営計画も3月から始動した。新カード発行はJFRカードの新たな成長戦略のスタート台であり、新たなポイント戦略の屋台骨でもある。

新生・大丸松坂屋カード(大丸松坂屋お得意様ゴールドカード、大丸松坂屋ゴールドカード、大丸松坂屋カード、さくらパンダカード)は、大丸松坂屋百貨店の従来のポイントに加え、新たなポイントプログラム「QIRA(キラ)ポイント」が付帯された。サービス内容やカードデザインも一新し、「もっとあなたに寄り添いパートナーとして求められる1枚」を目指して、利便性と汎用性を高めた。特に、百貨店にとって次世代顧客として開拓しなければならない「30代、40代女性」にフォーカスして再設計されている。

QIRAポイントは、大丸松坂屋カードのクレジット利用で、大丸松坂屋百貨店だけでなく他の商業施設でもポイントが貯まり、提携ポイントや商品券に交換することもできる。大丸松坂屋百貨店では大丸松坂屋ポイントとQIRAポイントがダブルで貯まる。100円に付き5ポイントと、大丸松坂屋ゴールドカードで100円に付き(大丸松坂屋カードとさくらパンダカードは200円)QIRA1ポイントの合計6ポイントが付与される。

優待サービスも充実させた。食事を楽しめるようにする「おいしい」、自分磨きをサポートする「きれい」、快適な旅を演出する「あそぶ」という3つのカテゴリーで、日常生活の楽しみが広がるような優待サービスを提供している。領域を特化した優待サービスこそ、他の競合カードと差別化して、選ばれるカードになるための要諦だ。

ただ、リニューアルに伴い年会費を改定。大丸松坂屋カードとさくらパンダカードを2200円(税込)に、大丸松坂屋お得意様ゴールドカードと大丸松坂屋ゴールドカードを1万1000円(同)に引き上げた。既存カード顧客の退会のきっかけにもなるとはいえ、これまで以上に高い価値を提供していくために、年会費の引き上げに踏み切った。

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