2024年11月19日

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【寝具特集】イエナカ・健康志向をフックに、消費の二極化に対応

そごう横浜店は今年4月に「シモンズ」を導入。10月には「サータ」を独立ショップにするなど、ベッドの拡充を進める

コロナ禍によってイエナカ需要や健康志向は高まり、寝装・寝具には追い風が続いている。この好機を生かすために百貨店の寝具売場は様々な販売促進策を実施し、拡販に励む。とりわけ消費の二極化が加速し、富裕層の購買意欲が旺盛になっていることから、富裕層をターゲットとした事例が目立つ。小田急百貨店新宿店はマットレスの無料貸し出しサービスを行い、そごう横浜店は外商個客向け催事での販売やチラシでの訴求などを実施。“特需”を最大限に取り込む構えだ。


西川 西川、寝具のサブスク好調

購入前のトライアルに活用


昭和西川 昭和西川、SDGsへの取り組み強化

サステナブル素材の新作登場


小田急新宿、外商と一般の両軸で 売上げを確保し客層も拡大

小田急百貨店新宿店は、外商顧客と一般客という2つの層に向けた施策を行うことで、売上げを確保すると同時に、顧客の裾野を広げている。以前から外商顧客向けの店外催事などを行っていたが、中でも今夏行った「エアー」の催事は大きな成功を収めた。外商顧客向けにはマットレスを1週間無料で貸し出し、一般客向けには新宿駅コンコースに直結するイベントスペースで「試し寝」を実施。2つのイベントの合計で売上げは予算比110%を達成した。

今年8月に行った「エアー」の催事。新宿駅コンコースに近い場所で行うことで、新客の開拓を狙った

外商顧客向け企画として、8月11日~9月12日にエアーのマットレスの「お試しレンタルキャンペーン」を行った。約10日間無料で貸し出し、気に入った場合はそのまま購入、不要の場合は返却できる。すると、サービスを利用した客の全員が購入に至った。この理由を営業第三部営業推進課(リビング・インテリア担当)マネジャーの山根和也氏は、「サービスを利用するお客様は、買いたい気持ちがあるが『もし身体に合わなかったらどうしよう』という躊躇いがある方が大半。実際に試すことで背中を押せたのだろう」と説明する。

西川も9月からエアーなどのサブスクリプションサービス「Sleep Charge」を始めたが、その多くが2年間の長期貸し出しではなく、14日間の短期コースだという。それも商品を買う前に試す目的が多い。潜在的に高かった需要と「一定期間自宅で試せる」というサービスがマッチしたモデルケースといえるだろう。

一般客向けには、8月11日~17日に新宿駅コンコースに直結する1階のイベントスペースにベッドとマットレスを置き、試し寝をしてもらった。駅の通行客に、エアーや同店の寝具売場に関心を持ってもらうことを狙った。百貨店にはラグジュアリーブランドや化粧品の購入で訪れる客は多いが、上層階の寝具売場まで来る客は少なく、売場の存在自体を知らない客も少なくない。短期的な売上げだけでなく、長期的な顧客の開拓を目指した。

人通りが多い場所のため、「人目を気にして試し寝を避ける人も多いのでは」という懸念もあったが、東京五輪で活躍したアスリートの影響もあってエアーへの関心が高く、多くの客が来訪。用意したチラシと試し寝をした人に進呈するクリアファイルは全て捌けた。

この催事の成功の背景には、外商顧客の旺盛な購買意欲がある。全国の百貨店の宝飾やラグジュアリーブランドは好調が続き、同店でも「外商顧客の招待会は非常に活気に溢れている」(山根氏)状態だ。こうした状況で、今まで取り組んできた施策が実を結んだ事例もある。

同店の外商販売員は、2019年に西川の羽毛布団の工場に見学に行くなど、以前から寝具の勉強を熱心に行っていた。そして今秋、招待会に合わせて10月1日~11月28日に寝具の持ち回り販売を行ったところ、売れ行きは好調。予算を早々に達成した。これは富裕層の購買意欲に加えて、外商販売員が知識を培ったことが大きい。「寝具は機能性が大きな要素となる。高価な商品は『どこが優れているのか』をきちんと説明しなければならず、そこをしっかりと補強したのがよかった」と山根氏は振り返る。

店頭ではベッドの台数を増やし、カバーリングの訴求も強める

外商顧客向けの取り組みと並行し、店頭では一般客向けの施策も講じている。昨春には、ディスプレイ用のベッドを3台から5台に増やし、カバーリングの訴求を強化。コロナ禍によって家の中にいる時間が増えたため、室内環境を楽しむ提案として行った。

同店は国内メーカーに加え、インポート商品を扱う「ベッテンスタジオ」など、幅広い商品を揃える。その強みを生かし、展示する商品は、出来るだけ異なる素材やテイストのものを選んだ。また2週間に一度は必ず取り換え、天気や気候によっても商品を変えている。この施策が奏功し、20年度(19年3月~20年2月)のカバーリングの売上げは前期比120%を達成した。

 

そごう横浜店、寝具やベッドを拡充 外商催事への出品も

そごう横浜店は高まる健康志向に応じ、健康敷寝具やベッドなどの拡販に注力する。今年10月には売場をリニューアルし、品揃えを拡充。売上げは前年を上回り、高価なマットレスが売れることで単価も上昇した。購買意欲が高い外商顧客向けには、ホテル催事や顧客向けの宣伝媒体を通じて訴求し、売上げや認知度の拡大に繋げている。

エアーや「ムアツ」といった健康敷寝具のブームは数年前から続いているが、営業Ⅱ部インテリア雑貨担当担当課長の小麦崎諒氏は「健康志向は昨今、よりいっそう高まっている」と指摘する。自粛期間やテレワークをきっかけに睡眠や自身の健康に関心を持った客が、外商顧客などの富裕層を中心に増えているという。

拡大した「エアー」売場の様子。ソファーも取り扱う

これを受け10月5日、6階の寝具売場の一部をリニューアルした。今までベッド売場で取り扱っていた「サータ」を独立したショップにして移設し、サータの跡地を活用してエアー、ムアツ、「エアウィーヴ」といった健康敷寝具を拡充。品揃えでは機能性だけでなくデザイン性も重視し、スタイリッシュなデザインが特徴のエアーは商品数を約1.5倍にまで拡大した。

エアウィーヴではベッドの数を増やしたのに加え、リアル店舗ならではの設備として、3Dスキャナーを用いた測定器を導入。機械の前に立つと体形データを取得し、睡眠中も理想的な寝姿勢が保たれるような肩・腰・脚の各部の硬さのマットレスを導き出す。今までの接客は販売員の感覚に頼っていたが、データ分析をもとに視覚的かつ客観的に案内できるようになり、コンサルティングの精度が上がった。

サータも移設と共に売場を拡大し、ベッドを4台から7台に増やした。同店はベッドカテゴリーの強化も取り組んでおり、今年4月には「シモンズ」のショップを導入。ベッド11台と寝ているときの姿勢を測定する装置を備える。これには横浜や神奈川近郊は都内に比べてショールームが少ないうえ、最近は都内への買い物を控える客も多いという背景がある。開拓の余地は大きいとにらみ、導入に踏み切った。

一連の改装で品揃えを増やしたことが寄与し、10月の敷寝具の売上げは前年比3割増を達成した。寝具は1つのブランドでも固さや素材などで様々なバリエーションがあり、必ずしも売場に客の体型に合うものが用意されているわけではない。「今までは、『もう少し固いのがいいけれど、売場にないので少し考えます』と言われて逃してしまうケースもあった」(小麦崎氏)が、そうした機会損失を防いでいる。ブランド別で見ても、エアーの売上げは同7割、エアウィーヴは同2割のプラス。これらのブランドは一般的なマットレスより高価なため、寝具全体の単価を引き上げ、同3割プラスとなった。ベッドもショップの開設にともない、客数が増えている。

外商顧客向けの施策としては、今年4月に行った特別招待会で寝具を販売。初の試みだったが、招待会では商品の機能性などをしっかりと説明することが可能で、健康に関心の高い富裕層への商機があると見込んだ。実際、関心を示した客からは高単価な商品を受注。中には寝具売場の存在を知らなかった客も多数いたが、逆に多くの客に売場を知ってもらうきっかけとなった。これに好感触を得て、12月の特別招待会でも寝具を販売する予定だ。

さらに今秋は、外商顧客宛てに送る歳暮のカタログに、エアーなど西川の商品を紹介するチラシを封入した。これも反応がよく、先述したエアーの10月の売上げの一因にもなっている。また、特に機能性が高い商材として、温熱と電位の力で暖め、疲労回復の効果も持つする温熱電位敷布団「ローズテクニー」を外商顧客へ紹介したところ、平均で25万円程度と非常に高価にも拘わらず、注文が入っている。

 

寝具だけでない、包括的な提案が今後の鍵に

イエナカ需要の高まりと拡販の強化によって好調な推移を遂げる寝具領域だが、山根氏は「コロナ禍が収束し、人々の関心が家の外へ向くようになれば、今までのようには行かない。また新たな切り口での提案が必要となる」と見る。現在構想しているのが、寝具のみにとどまらず、室内着やアロマ、音楽など〝睡眠〟に関わるあらゆる商品を集積した自主編集の売場だ。今までオンライン催事などで行っていたが、店頭でも行いたい考え。

そごう横浜店も次の成長への布石として、インテリアコーディネーターによる包括的なコンサルティングを強化する。インテリアコーディネーターはリビング売場に常駐するが、今までは家具の提案を主にしていた。複数のブランドやカテゴリーを紹介できるというメリットを生かし、ファブリックや寝具なども含めたコンサルティングを目指す。まずは気軽に利用して貰うため、今年9月に無料の予約相談会を実施。今後も同様の取り組みを予定する。

百貨店はコロナ禍以前から、単にモノを並べて売るだけのモデルが限界を迎え、「コト」や「トキ」消費の提供や、編集力や提案力を生かした売場への変化が求められていた。イエナカ需要といった好機を生かして“特需”を取り込むだけでなく、長期的な視野に立ち、本来目指すべき売場の追求を続けていきたい。