2024年11月19日

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大丸松坂屋、新客開拓へ世界最大の“バーチャルの祭典”でPR

屋台を模した、大丸松坂屋百貨店のブース。江戸時代の店構えを描いた浮世絵が目を惹く

再び“バーチャルの祭典”でPRだ。百貨店業界の各社がDX(=デジタルトランスフォーメーション)を推し進める中、大丸松坂屋百貨店は14日に始まった世界最大のVR(=仮想現実)イベント「バーチャルマーケット6」に出展。屋台を模したブースでは、百貨店ならではの厳選された食品とその3Dモデルを販売するほか、ページをめくると商品が飛び出す“VRカタログ”を設置したり、自社のマスコットキャラクター「さくらパンダ」や「よざくらパンダ」のお面を無料で配布したり、来場者がアバター(=分身)で入れる温泉を用意しりして、来場者を楽しませる。株式会社HIKKY(ヒッキー)が手掛けるバーチャルマーケットは、昨年12月19日~今年1月10日に開いた「5」に約114万人が来場。大丸松坂屋百貨店は初めて出展し、20~30代の男性をはじめ多くの新客を取り込めたため、継続を決めた。

「さくらパンダ」と「よざくらパンダ」のお面は無料で配布

大丸松坂屋百貨店のブースは、江戸時代の店構えを描いた浮世絵、「大丸」や「松坂屋」の文字を施した提灯などが華やかに彩り、誰でも気軽に入れるように四方を壁で囲わなかった。

ブース内の屋台に並ぶ「はんばぁぐ」(「ハンバーグ王子」の「二大和牛とこだわり素材の生ハンバーグ」、税込み6912円)、「冷たいすぅぷ」(「スープストックトーキョー」の「夏の冷製スープセット」、税込み5400円)、「異国風鯛めし」(「38deli」の「アクアパッツア鯛めし」、税込み5400円)といった商品は、いずれも3Dモデル化。アバターで手に取れば、ラベルの文字など細部まで確かめられる。

3Dモデル化された商品は、アバターで手に取って細部まで眺められる

価格帯は税込みで3000円台後半~9000円台前半と高めだが、前回は税込み5400円のローストビーフが45点も売れており、田中直毅本社営業本部MDコンテンツ開発第2部フーズ担当スタッフギフト企画運営担当は「想定以上で、『いけるぞ』と思った」と手応えを掴む。前回の8点から10点にラインナップを増やして「マネタイズを狙う」(田中氏)。

屋台の間には、さくらパンダの像が立つ。その手中のVRカタログを操作すると「京橋千疋屋」の「フルーツカクテル杏仁」など5種類のスイーツが飛び出し、立体的に見える。そのまま購入も可能だ。VRカタログは大丸松坂屋百貨店のインターネット通販サイトとも連動させ、中元のギフトカタログを掲載。クリックしてネット通販サイトにアクセスすれば、500点以上の商品を15%オフで購入できる。

今回は3Dモデルも初めて販売する。近年は、ゲームの愛好家を中心にバーチャル空間での飲み会「V呑み」が流行中。V呑みで使える飲み物や食べ物の3Dモデルの需要も増加しており、大丸松坂屋はそれに照準を合わせた。はんばぁぐ、らぁめんなど6点からなる「夏のがっつりグルメセット」と、VRカタログに掲載したスイーツの5点をセットにした「カラフル夏の絶品スイーツ」を、それぞれ税込み500円で取り扱う。日本の百貨店が3Dモデルを販売するのは初めてという。前回は、さくらパンダのぬいぐるみの3Dモデルを無料で配布。約600体が持ち帰られており、3Dモデルの販売にも商機を見出す。

ブースの雰囲気も重視した。来場者の“溜まり場”として、温泉を用意。温泉や風呂には定番の「ひよこ」も備え、持って入れるようにした。温泉の上から降る雪も含め、随所にエンターテインメント性を凝らした。

バーチャルマーケットに出る意義を、田中氏は「店頭でアプローチできない人との接点を得られる」と説明し、「まだマニア向けかもしれないが、VRの普及は目覚ましく、間違いなく今後は来場者の層が拡大していく。百貨店にとって、リアル店舗、ネット通販サイトに続く『第3の商空間』になる」と期待を膨らませる。

HIKKY社の広報を担当する大河原あゆみさんは、バーチャルマーケットの強みと出展するメリットを述べる。「今年2月にギネス世界記録に認定された世界最大の来場者数に加え、没入感のある世界観やギミック、アクセス性を有し、企業にとっては様々な実験が可能。ゲームや車を目当てに来場した人が、そぞろ歩きで関心を持ち、なじみのない企業のブースに入るなど、“新たな接点”も提供できる。また、出展した『アウディ』や『ビームス』からは『接客の時間が伸びた』、『(接客の)新人研修に使いたい』といった声が届いた。高額品ほど“人で買う”と言われるが、VRの空間であれば、例えば全国で1人しかいない有名な販売員が場所や時間などの壁を超越して接客できる」。

田中氏は「百貨店が自前でバーチャルマーケットのような空間を運営できるインフラを整えるのは無理。完成された世界へ出て、DXへのブランディング、新しいお客様に対するアイデンティティの発信に役立てたい」と意気込む。次回以降も継続して出展する方針だが、まずは今回の結果を精査。回を重ねるだけでなく、内容を進化させていく。