2021年 百貨店首脳 年頭所感・弐
<掲載企業>
高島屋 社長 村田 善郎
昨年は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた店舗の臨時休業に加え、種々営業条件の制約もあり、大変に厳しい経営環境となりました。加えて、お客様の価値観の多様化はさらに進んでおり、消費行動や生活様式が変容しております。こうしたことから、従来の営業スタイルから脱却し、顧客ニーズに対応していくことの重要性を再認識しております。
感染症拡大については、今なお予断を許さない状況にありますが、本年、当社は改めて百貨店に磨きをかけて光り輝かせていくことに、グループの総力を挙げて取り組んでまいります。当社グループにおいて、百貨店はブランド価値の源泉であり、コア事業であることにいささかも変わりはありません。
私達が百貨店再生に向けてこだわるべきことは、「百貨店でなければ提供できない価値とは何か」を徹底的に追求していくことです。百貨店が持つ立地特性を生かしたワンストップの利便性や編集力、文化発信、百貨店ならではのEC提案など、取引先との協働により時代性、お客様のニーズを捉えた品揃えやサービスを実現してまいります。そして高島屋グループの総力を結集することで、存在感溢れる百貨店へと再生を果たしてまいります。
当社は本年1月、創業190周年を迎えます。当社の伝統は、まさに革新の連続です。創業200年に向けて、コロナを契機に経営や営業の在り方を変革していくとともに、新たな時代を切り開く価値を創造し、提供できるよう挑戦し続けてまいります。
小田急百貨店 社長 樋本 達夫
2020年は新型コロナウイルス感染症の世界的流行という未曽有の事態に見舞われ、臨時休業や営業時間の短縮を余儀なくされるなど、百貨店業界も甚大な影響を受けました。在宅勤務や時差通勤といった新しい働き方の定着、人との接触回避にともなうオンラインコミュニケーションの拡大など新しい生活様式の浸透により、お客様のニーズや購買行動は劇的に変化しており、当社のみならず業界全体としてその対応力が求められています。
そうした中、当社においては、緊急事態宣言中は生活インフラとしての役割を果たすべく各店の食料品売場のみ継続営業し、地域のお客様からの支持獲得に努めました。営業再開後は新宿店でのオンライン接客やライブコマースのトライアル、サテライト店・あつぎでの買い物代行サービスの導入、町田店での優良顧客を対象とした特別販売会の実施などの新たな施策を講じて、顧客接点の維持、拡大を図ってまいりました。
売上げや会員数が拡大しているeコマースでは、サイトの操作性と安全性を向上させるべく大幅刷新した上で、従来のギフトやフード、コスメに加え、ベビー・キッズ、紳士洋品、時計、実店舗で休止した物産展など商品カテゴリーを拡充させたほか、店頭受け取り、画面共有、在庫レス販売など新たなサービスを導入し、着実に成果に結び付いています。また、外部ECモールへの出店にも積極的に取り組み、新規顧客の獲得に繋げています。
さらに、WeChatミニプログラム「橙感(チェンガン)」を通じた中国向け越境EC事業の本格稼働、ギフトをテーマにした自主編集小型店「オクルシタテル」の外部出店、オリジナル米菓ブランド「かぶきあげTOKYO」の卸事業の拡大など、既存店舗事業以外の収益源の開拓を進めており、本年も継続して事業の拡大と強化を推進してまいります。
当社は、いつの時代においても「“集客”により街の魅力を高め、賑わいの核となる商業施設」を提供する企業となることを中長期ビジョンとして掲げ、その実現に向けて「創造への挑戦」をテーマに経営構造改革を推進してまいりました。22年度着工予定の新宿駅西口地区の再開発が目前に控える中、21年は小田急グループ内外における当社の存在価値の実現に向けて非常に重要な年であり、既存の百貨店ビジネスモデルから脱却すべく、より一層強い改革の推進が必要であると捉えております。
未だコロナ禍の収束は見通せませんが、引き続き感染拡大防止に努めながら、本年はリアル店舗に求められる、より高い付加価値の提供を目指します。環境変化に柔軟かつ迅速に対応した営業施策や組織顧客の特性を踏まえた買上げ促進策の実行、デジタル技術を活用した販促による来店動機の創出やデジタルマーケティングの推進など、時代の潮流を捉えた「未来型商業モデル」の構築に向けて、全社一丸となって挑戦してまいります。
京王百貨店 社長 駒田 一郎
昨年は新型コロナウイルスの感染拡大により国内外の経済、社会に大きな影響を与えることになりました。百貨店業界にとりましても、長期に亘る臨時休業や時短営業を余儀なくされたほか、外出自粛や訪日外国人の消滅など未曾有の事態に直面したとともに、先行きについても未だ不透明な状況が続いています。
当社は昨年、中期経営計画の最終年度として、集客力強化と客層拡大による売上高の確保、オペレーション改革による生産性の向上およびコスト構造の見直しによる利益指向経営を、目指してまいりました。しかしながら、コロナ禍にともなうお客様の生活様式やニーズなど新たな状況に対応するため、店頭におけるカテゴリーバランスの見直しや、ECをはじめとする販売チャネルの多角化などの施策に取り組んでまいりました。
迎えた2021年、社会の価値観はさらに変化していくと予想されます。昨年顕在化した課題に対処するとともに、構造改革をさらなるスピード感をもって進めてまいります。具体的には、立地の優位性を生かした店頭売上げに依存するだけでなく、成長するEC事業をさらに強化していきます。
また、CRMによる顧客接点の拡大やシームレスなサービスの提供など、店舗との連携を図ることによって増収に努めます。一方で、利益改善の観点からローコスト運営を継続、推進してまいります。
新宿店ではアフターコロナを見据えたMDの改編、デジタルとの融合による顧客アプローチの強化を行います。聖蹟桜ヶ丘店では、地域密着型の郊外百貨店への顧客回帰を収支改善の機会と捉え、せいせきSCと連携しながら地域の百貨店需要を積極的に取り込んでまいります。
サテライト事業においては、新宿店やECサイトの商品を受け取れる仕組みづくり、常設型だけでない期間限定やカテゴリーに特化した店舗など多様な出店形態を検討します。
当社は引き続き、大きく変化した事業環境(ニューノーマル)に適合し、お客様、取引先、従業員とともに新しい時代を歩んでまいります。
松屋 社長 秋田 正紀
昨年は新型コロナウイルス感染症の拡大により、私達を取り巻く世界は一変しました。過去に経験したことのない世界規模の衝撃は、社会構造や消費構造を大きく変えようとしています。
本来であれば昨夏には東京オリンピック・パラリンピックが開催され、銀座地区は国内外のお客様で大いに賑わうことが期待されていましたが、残念ながら新型コロナウイルス感染症は拡大の一途を辿り、国内はもちろん世界各地で収束の兆しは見えていません。そのため小売業、特に百貨店への影響は長期化することが懸念されます。
こうした中、当社は「デザインによる、豊かな生活。」を実現することを目指し、独自性を磨き上げていくことに注力してまいりました。不要不急の外出を控える顧客動向を見据え、「インスタグラム」による情報発信の強化のほか、「松屋メンズクラブ」などではオンライン接客をスタートさせ、外商部門においてもテレビ通販などを活用し、利便性向上への新たな開拓を推し進めたほか、「LINE WORKS」を活用した1対1のコミュニケーションの強化など、新たな取り組みを実施しました。
一方、今まで以上にリアル店舗が持つ価値も高まっており、展覧会催事では日時指定制で入場客数を抑制し、会場も通路幅を広く確保してお客様同士の接触機会を減らすなど「3密」の回避に注力した上で開催し、限定商品の拡充や通販強化といった様々な工夫により、大きく売上げを伸ばしました。
本年は引き続き、常に「気遣い」を心がけ、一丸となって「デザインによる、豊かな生活。」の実現を推し進めてまいります。銀座店では、年間を通じて百貨店の強みであるギフトプロモーションを強化してまいります。またデザイナーや作り手との協業を進め、日本のモノづくりの応援にも力を入れます。
さらに、昨年実験的に導入した新しい販売手法も益々進化させ、取り組んでまいります。また浅草店は本年開店90周年を迎えます。お客様への感謝企画など、地元密着型の店として絆を大切にした取り組みを進めてまいります。
新型コロナが収束した後の「アフター・コロナ」では、お客様の価値観、行動様式が大きく変化することが予想されます。そして、その変化にどう対応していくかが、今まさに私達に求められています。ECの飛躍的な台頭やICTビジネス活用の進化など、「デジタルの大波」が加速し、従来の百貨店ビジネスは歴史的な分水嶺にあると言っても過言ではありません。
しかしながら、当社グループが150年を超えて繁栄を保ち得ているのは、直面している様々な時代の変化や困難に対して「チャレンジ精神」と「創意工夫」に力を注いできたことにあります。社員全員一丸となって、松屋グループを独自性の強い個性溢れるブランドに磨き上げてまいります。
JR東日本商業開発 社長 小沼 智子
2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大によって人の移動に対する制限や3密回避などを余儀なくされ、経営環境が一変しましたが、当社においては新しい中長期経営計画「100年人生 with GRANDUO」をスタートさせました。今後の人生100年時代に向けて、当社がお客様の豊かな暮らしのパートナーとなるために、お客様の将来への関心事を探求し、小売業の枠にとどまらず、お客様の未来づくりに“よりそう”事業展開に取り組んでまいります。
その1歩として、直面する経営環境の変化を鑑み、安心して利用していただける買い物環境の再整備を進めています。新しい生活様式への魅力的なライフスタイル提案、人混みを避けて買い物したいお客様への買い物代行サービスといった新たな顧客接点の拡充など、「ウィズ・コロナ」に対応した変革を加速させています。
お客様の価値観の変化に対応した商品、サービスおよび提供方法の見直しを通じて、新しい価値をお客様とともに創り出すことが大切だと考えています。
利用が拡大しているECへの対応としては、JR東日本グループが推進する「ネットでエキナカ」での取り扱い商品の拡大を図っています。ネットで商品を注文して、お客様自身が店舗で受け取れるサービスの提供を進めていきます。
直扱事業では、JREMALLに新たに「てみやげマルシェ」ブランドを出店するなど、お客様のウェブルーミングとショールーミングの行動特質への強化を進めてまいります。
リアルについても昨年、蒲田店では生活雑貨の拡充、ワーキングスペースとカフェを組み合わせた新たな利用シーンの提案など、多様化するお客様のライフスタイルの変化に合わせた改装を実施しました。
客層の若返りもあり、館内の回遊性も高まっています。また、この春には西館において食料品、軽飲食の改装開業を予定しており、近隣居住者、駅および周辺施設利用のお客様の利便性を強化してまいります。
立川店では既存人気店の増床、同フロアに機能としてなかったカフェ業態を新規導入することで、これまで取り込めていなかった新規顧客の利用が増え、入店客数の増加に繋がっています。
自主編集売場では「100年人生 with GRANDUO」の実現に向けた「発酵食品」を切り口とする健康ケア系催事を新たに実施しました。また、地域商材の紹介およびディスティネーションとして、JR八王子支社管内にある「山梨県」にフォーカスした地元ワイナリー、ぶどうの生産者などとの連携イベントを開催するなど、地域活性化にも引き続き積極的に取り組んでまいります。
当社は「よりそう〜毎日に笑顔を届けていく~」をビジョンとして掲げています。厳しい状況にあるからこそ、お客様との接点を多様化させ、お客様や地域社会に対して持続可能な社会の実現に向けて、新たな気持ちで変革に挑戦してまいります。
ながの東急百貨店 社長 平石 直哉
百貨店業界におきましては、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、臨時休業や営業時間の短縮、大型イベントの中止が相次ぎ、営業機会の縮小や入店客数の大幅減少に加え、インバウンド需要が激減し、2020年はかつてない厳しい1年となりました。
昨年、当社は地域唯一の百貨店として「生活全般に応えられるバランス良い品揃え」の追求、ファッション感度の向上、新しい「モノ」や「コト」の提案、洗練されたサービスの提供などを通じて「長野になくてはならない店」を目指し、より多くのお客様に来店していただけるよう、営業活動をスタートしました。
しかしながら、新型コロナの急激な拡大を受け、この対応策の一環として、3月からの人気物産展の中止や営業時間の短縮に加え、4月20日から約1カ月に亘り食料品フロアや一部ショップを除くほぼ全売場を臨時休業しました。
その後、5月中旬には政府や自治体の方針を踏まえつつ、長野地区の新型コロナの拡大状況や感染リスクなどを慎重に見極めながら、安心・安全を最優先とする徹底した防止策を実施の上、全館の営業を再開。9月からは開催を見合わせていた物産展などの大型催事も徐々に再開しました。
また、新しい生活様式に対応した販売形態を提案および実施するとともに、7月の「信州企業応援マルシェ」をはじめとする、地元企業との連携による長野県内の特産品、土産品や弁当、惣菜の販売会を企画、開催するなど、地元の消費喚起に向けた取り組みにも力を注いでまいりました。
新しい年を迎え、残念ながら未だコロナ禍の収束が見えない中ではありますが、当社では「最大のリスクは、変わらないこと。何もしないこと」という全社共通認識の下、リスクを最小限に抑えつつ、果敢なチャレンジを継続。「売上げ・利益の拡大」と「徹底した安全・安心への取り組み」をバランス良く両立した「長野モデル」の構築に、全社一丸となって取り組んでまいります。
そして、この取り組みにあたり、「成功への3密(密着・綿密・緊密)」を掲げ、1)地域、お客様に「密着」した商品やサービスの提供、2)用意周到な「綿密」な計画の策定、3)関係者との「緊密」な連携による施策の実行を目指してまいります。
本年は、この「成功への3密」の実践を通じ、皆様の期待に応えてまいります。
岡島 社長 雨宮 潔
コロナパンデミックにより様々な価値観が急激に変化した2020年は、百貨店業にとりましても、令和の時代に対応する抜本的な改革を余儀なくされる大きな曲がり角となりました。観光業のシェアの大きい山梨県においては春頃より地元経済に暗雲が垂れ込め、各種「GoToキャンペーン」の実施に至るまでは、経験のないレベルの不況を味わいました。
そんな中で、百貨店が地域経済のインフラとしての役割を果たすべく、ホテル業界、醸造業界、花火業界、印章業界など地元産業との様々なコラボレーションにより実現した販売企画を商圏内のお客様にアピールし、新たな「応援消費」を喚起したことは、幅広い年齢層の賛同を得る結果に繋がりました。
東京隣接県としては、コロナを避ける結果、富裕層の流出に歯止めがかかり、地元消費にシフトしたことも、この非常事態での大きな下支えとなりました。
一方、当社ではコロナによる1カ月の休業を契機とし、既存広告媒体からSNS広告へのシフトや非効率催事のスクラップなど収益構造の改革に鋭意取り組んだことから、宣伝費の大幅削減に成功し、営業損益は前年を上回る水準を確保する結果となりました。
21年は、コロナ禍で顕在化したこのエシカル消費(応援消費)の定着化を踏まえ、県内各行政機関との連動による地場産業応援企画や山梨オリジナルのライフスタイル提案など、本質的な地域経済活性化を推し進めてまいります。
同時に、アフターコロナを見据え、ブランド撤退などで提案力の落ちたファッションビジネスを再構築すべく、地方百貨店としてグレードの幅を拡大することで、増加傾向にある次世代層の定着化を図ります。
また、アップトレンドにあるスポーツ関連商材の拡大、地元消費の拡大した富裕層への新たなラグジュアリーブランドの提案など、時代性を踏まえた多面的な魅力づくりにも着手いたします。
20年度の新規取り組みとして商工会議所との連動で実施した「チャレンジショップin岡島」(月1万円の家賃で最長6カ月までの出店を募る)につきましては、新たにチョイスできるメニューなどを加えることで、一緒に甲府中心市街地の活性化を図るパートナーをさらに拡大し、リアル店舗ならではの賑わいの感じられる環境の創出に努めます。
デジタル化が飛躍的に進み、小売業の役割がさらに細分化される中で、百貨店が本来果たすべき「上質な生活提案」に磨きをかけるべく、柔軟な発想力と機転の利いた対応力に磨きをかけて、令和の時代に必要不可欠な店づくりに挑戦いたします。