2024年11月19日

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大丸松坂屋、バーチャルマーケットに出展 〝第3の顧客接点〟創出へ

大丸松坂屋百貨店は、12月19日~2021年1月10日にVR(バーチャルリアリティー)空間上で開催されるイベント「バーチャルマーケット5」に出展する。バーチャル店舗を構えるのは初めてで、年末年始に需要が増える、惣菜やワイン、アイスなどの3Dモデルを展示してインターネット通販(EC)サイトでの購入を促す。大丸松坂屋百貨店は数年来、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しており、需要の拡大が見込まれるVRを実店舗、ECサイトに続く〝第3の場所〟と捉え、布石を打つ。

企業出展会場の舞台は「世界」。世界のランドマークをバーチャル上に模して再現する

バーチャルマーケットは、VRのイベントを運営するHIKKYが主催。2018年8月の第1回以降、回を重ねるごとに知名度が上がり、今年4~5月に実施した「バーチャルマーケット4」には50万人以上が来場した。企業や団体が手掛けた、アバターをはじめとする3Dアイテムや実際の商品を売買できるほか、VRの空間上で乗り物に乗ったり、映像を見たり、出展者やほかの来場者とコミュニケーションを取ったりなど、様々な体験が可能だ。期間中は24時間に亘り運営され、日本だけでなく世界中から人が集まる。

大丸松坂屋百貨店は、時代の変化に対応し、新しい体験価値を提供するため、数年前からECサイトも含めてDXを推進。今回の出展も新型コロナの感染が拡大する以前から検討していた。本社営業本部事業推進室WEB事業部スタッフギフト企画運営担当の田中直毅氏は、「まずはバーチャルマーケットに来場する方がどれほど興味を持ってくれるのか、ブランディングとしてどのような効果をもたらすのかを知りたい」と狙いを明かす。来場者はパソコンやインターネットに詳しい人が多いため、20~30代の男性が中心となり、百貨店が開拓したい次世代顧客でもある。

仮想店舗「バーチャル大丸・松坂屋」の様子

トライアルとしての意味合いが強いが、VRの伸び代は大きいとみる。若年層が百貨店を利用するきっかけは、例えば入社のために良いスーツを買ったり、結婚祝いに進物を選んだり〝ハレ〟のシチュエーションに限定されがちだが、VRは新たな〝入口〟になり得る。VRは技術の革新やデバイスの普及などによって今後さらに広がる見込みで、「いずれは実店舗、ECサイトに次ぐ第3のタッチポイントとして成長させていきたい」(田中氏)考えだ。

ほかにもVRならではのメリットがある。今回の仮想店舗「バーチャル大丸・松坂屋」は大丸松坂屋百貨店の江戸時代の資料を参考に当時の屋台風の店舗にしたが、リアルで再現するのはコストや時間の面で困難だ。空間の構築に関する制限は、VRの方が圧倒的に少ない。また、実店舗に行く場合は「(百貨店だから)きちんとした格好をしなくては」と考える人が多いが、VRであればアバターで動けるため心理的障壁が低く、気軽に来店できる。

商品を手に取ることもできる(写真はバーチャルマーケット公式キャラクターの「Vketちゃん」)

試金石となるバーチャル大丸・松坂屋では「産山村 あか牛 ローストビーフ」(5000円)、「賛否両論×オステリアルッカ 二巨匠 ローストチキンレッグ」(5000円)、「ピッツァ アル ターイオ ローマの四角いピッツァ」、「北海道十勝ジャージー牛 フローズンヨーグルト&ミルキーアイスクリーム」(5000円)といった惣菜、アイスなど8商品の3Dモデルを揃える。年末年始の需要が高い〝ご馳走〟から、来場者の中心層である20~30代の男性の好みを考慮して選んだ。

来場者はアバターを通じて商品を手に取ったり、360度あらゆる角度から見たりできる。商品の基本スペックも確認でき、さらに「BUYボタン」を押すとECサイトへと遷移し、購入が可能。来場者への特典として、大丸松坂屋百貨店のマスコットキャラクター「さくらパンダ」の3Dモデルを配布する。

屋台の後ろには、江戸時代の大丸松坂屋百貨店の資料を再現した

バーチャルマーケットには他の百貨店も進出しており、三越伊勢丹は今年4月29日~5月10日に行われたバーチャルマーケット4に参加。3Dモデルの伊勢丹新宿本店内でアバターが着るための3D素材を販売し、ECサイトに誘導して実際の商品も販売した。バーチャルマーケット5には阪神梅田本店も「バーチャル阪神食品館」として登場。来場者に名物「いか焼き」の3Dモデルを進呈したり、販売員がアバター販売員として接客したりする。

総務省が今年8月に発表した「令和2年版情報通信白書」によれば、AR(拡張現実)およびVRの関連ソフトウェアとサービスの支出は今後伸長し、VRゲームのハードウェアも今年以降は販売台数が増加していく。百貨店にとっても、無視できないマーケットだ。