大手百貨店、おせちを発表 おつまみや肉、スイーツなど“進化系”拡充
大手百貨店が相次ぎ2023年のおせちを発表した。高島屋は「カスタマイズ」や「パティスリー」、「高たんぱく」といった“進化系”を充実させ、多様化するニーズに対応。大丸松坂屋百貨店は「おつまみ」や「肉」など前年に好評を博したカテゴリーを強化し、旺盛な需要を取り込む。そごう・西武は和・洋や和・洋・中を組み合わせた三段重の品揃えを前年から約2割増やし、年末年始に親族で集まる人々の購買需要を喚起する。新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、年末年始の帰省や海外旅行などを控え、自宅でおせちを楽しむ人々が増加。大手百貨店はおせちの売上げを伸ばしてきた。今年は行動制限がなく、帰省や海外旅行による“おせち離れ”も懸念されるが、高島屋、大丸松坂屋百貨店、そごう・西武の3社は全て前年を超える売上げを見込む。
高島屋は、ECを含めて1150種類
高島屋は1日に報道陣へ公開。天笠亜佑子MD本部食料品部バイヤーは「おせちの売上げは2000年から右肩上がりで、21年度(21年3月~22年2月)も12%増だった。コロナ禍では『お取り寄せグルメ』として定着しており、行動制限がない22年度は年末年始の外出が増えるだろうが、親族で過ごす人も増えるとみており、目標は同7%増」と意気込むとともに、同業他社との競合に向けて「ポイントは8つ」と説明した。
1つ目は「“自分だけのオリジナル”がつくれる!カスタマイズおせち」。初企画で、30品目から12品目を自由に選べる。全て同じ品目も可能で、価格は組み合わせで変わる。
2つ目は「パティスリーおせち」で、「ピエール・エルメ・パリ」の「スウィーツおせち三段重」(3万6300円)、「トシ・ヨロイヅカ」の「スウィーツおせち二段重」(1万6200円)、「モンサンクレール」の「スウィーツおせち一段」(9001円)からなる。近年、「スイーツおせち」は人気という。
3つ目は「ヘルシートレンド、おいしくて栄養たっぷり!“機能性おせち”」。健康志向の強まりに応える。23年にはラグビーのワールドカップが開催されるため、田中史朗選手が監修した「ラグビー応援おせち 和・洋・中 二段重」(2万8080円)の販売に“トライ”。高たんぱくにこだわった料理を詰め合わせた。管理栄養士がプロデュースした「家族三世代で楽しむ栄養おせち」(3万9960円)は阪急阪神百貨店との共同企画だ。
4つ目は「人気の『肉づくしおせち』!ラインアップが豊富になってバージョンアップ!」。いわゆる「肉おせち」は売れ筋の一角を担いつつあり、初企画の「名古屋名物みそかつ 矢場とん『勝つ』おせち」(3万円)など選択肢を増やした。他のおせちも「肉の比率を上げている」(天笠さん)という。
5つ目は「ハレの日のお正月こそ!“高級お取り寄せグルメ”として楽しむおせち」。21年度は10万円を超える価格帯の動きが良く、日本料理「銀座 和久多」、イタリア料理「アル・ケッチァーノ」、中華料理「中國名菜 孫」が協業した「『夢の饗宴おせち』和・洋・中 三段重」(9万7200円)などを提案する。
6つ目は「ファミリーで集うお正月は、家族3世代で一緒に楽しめるおせちを!」。「『高島屋×セサミストリート』和・洋 おこさま 二段重」(2万1600円)、「鉄道で日本を旅するおせち 二段重」(2万9160円)、「ペットと一緒にお正月を祝うおせち」(1万6956円)などを取り扱う。
7つ目は「おいしくサステナブル!を意識したおせち」。「SDGs」や「サステナブル」といった言葉への関心の強まりを捉え、プライベートブランドの商品に使うカップの多くをプラスチックから紙へ変更した。
8つ目は「年末にも、年始にも!人気のオードブル特集」。「行動制限がなく、帰省などで大勢が集う機会が増え、オードブルのニーズが増えるのではないか」(天笠さん)と仮説を立て、「『一富士』洋・中 一段」(1万4040円)など「オードブル風おせち」をカタログなどで特集した。
高島屋は22年度、全店で約900種類、インターネット通販サイト「高島屋オンラインストア」で約1150種類のおせちを展開する。
大丸松坂屋は、のべ1700種類
大丸松坂屋百貨店は8月30日、ショーのような形式で報道陣に発表。まず、内藤真光本社営業本部MDコンテンツ開発第2部フーズ担当が登壇し、スライドを交えて近年の売上げや22年度(22年3月~23年2月)の品揃えなどを説明した。
売上げは「コロナ禍の前から2~3%増と伸びており、5年間で約1.3倍。おせちが『作る』から『買う』に変わった証だ。けん引役はネット通販で、売上げは17~21年度にかけて約2.7倍。シェアは店舗の36%を超え、45%に達した。年代別では50代以下が大きく伸び、40~50代のボリュームが増加。伸長率では30代が高い。22年度の売上げ目標は前年比16.5%増。ネット通販は同29%増、シェアで50%を見込む」(内藤氏)という。
品揃えについては①差別化商品の企画強化②年末年始の食卓をコーディネート③EC受注をさらに伸ばすため、YouTubeを使用した商品紹介の強化――を挙げた。
①の代表例として、料理研究家の大原千鶴さん、「酒場詩人」として知られる吉田類氏、雑誌「あまから手帖」の門上武司編集顧問、大丸松坂屋の本田大助本社営業本部MDコンテンツ開発第2部フーズ担当らが監修したおせちをPR。大原さんのおせちは21年度まで4年連続で売上げが1位(プロが監修する「特別企画おせち」内で)で、その額も前年比で2桁増が続く。21年度は約9000台を売上げた。吉田氏のおせちも21年度に約8200台を売上げるなど人気だ。同氏が好むおつまみと、それに合う酒が提案されており、元日以外に食べる人も多いという。
②は、21年度に売上げが前年の3倍を記録した肉おせちをはじめ、スイーツおせち、カロリーのバランスに配慮した「ヘルシーおせち」などで「12月29日~1月3日のニーズを取り込む」(内藤氏)。
③に関しては、約4年前からYouTubeを使っており、21年度は内藤氏が初めておせちを購入する人にレクチャーした動画が約25万回も再生された。拡販につながるとみて、22年度は「商材に特化した商品紹介と、初めて購入する方へのアプローチおよび人気カテゴリーに特化した商品紹介の2軸」(内藤氏)で動画を活用する。
内藤氏のプレゼンテーションに続き、大原さん、吉田氏、本田氏のトークショーを実施。おせちのポイントを語ったり、メッセージを送ったりした。
大原さんは「おいしいのは当たり前で、大人も子供も楽しめるように工夫した。お重を紙製に変えるなど、SDGsの観点も採り入れたが、家族で集まってワイワイしながら、食材やお重を通じてSDGsも意識してもらい、未来に向けた“持続可能な家族”を目指してほしい」とコメント。吉田氏は「テーマは『玉手箱』。開けた時に喜んでくれ、どんどん箸が進み、みんながほろ酔いになってくれたらと考えた。最初に意識したのは色合いや華やかさで、味以外では食べた後の爽快感、気持ち良さにこだわった。『ハッピーになるためのおつまみ』と捉え、家族で正月の前から楽しんでほしい」と述べた。
大丸松坂屋の全店舗の北海道物産展を手掛け、北海道に移住して18年になる本田氏は「(21年度のおせちに比べて)より素材感を追求し、豪華、豪快に仕上げた。コロナ禍で北海道旅行を自重する人々にも、自宅で楽しんでもらいたい。北海道は12月31日におせちを食べる。年末の締めくくりと、新年を祝う豪華さを提供したい」と力を込めた。
大丸松坂屋は22年度、のべ約1700種類のおせちを販売する。
そごう・西武は、約300種類
そごう・西武は8月30日に報道陣に披露した。「集い」をテーマに、子供から年配まで楽しめるおせちを拡充。和洋や和・洋・中の三段重を前年から約2割増やし、海老や肉などを一段に詰めたおせちを新たに拡充する。
子供から年配まで楽しめるおせちは、人気の海老料理を詰めた「<美味づくし>和洋三段重『福』」(3万2400円)、和牛や豚などロースト肉のうま味を敷き詰めた「<美味づくし>和洋中三段重『豊』」(3万2400円)、定番に加えて洋・中の味を詰めた「<美味づくし>和洋中三段重『華』」(3万2400円)など、全て新規の7種類で構成する。
前年人気だった「料亭・名店おせち」や「おばあちゃんのおせち」も強化。前者は「祇園丸山『特製和風三段重(京風白味噌雑煮付)』」(16万2000円)など3種類増やして59種類とし、後者は「京都のおばあちゃんのおせち三段重」(2万1600円)など三段重をリニューアルし、前年から品目を増やした。
今や家族は人間に限らない。ペットも、だ。「ワンちゃんのご褒美おせち」を前年の1種類から3種類とした。昨年までは二段重だったが、大型犬や多頭飼いだと足りない場合もあるため、三段重も用意した。
そごう・西武の22年度(22年3月~23年2月)のおせちは約300種類からなり、前年の1.1倍の売上げを目指す。
(野間智朗/北田幹太)