2024年11月19日

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大丸松坂屋百貨店、ショールーミングストア「明日見世」を新装オープン NTTドコモと顔認証実験も

大丸松坂屋百貨店が大丸東京店の4階に構える「明日見世」。1月12日からは「私とあなたの個性と出会う」をテーマに、19のブランドを揃える

“第2章”の幕開けだ――。大丸松坂屋百貨店は12日、昨年10月6日から大丸東京店の4階に構えるショールーミングストア「明日見世(asumise)」を新装オープンした。19のブランドを全て入れ替えるとともに、フェムケアや生活雑貨、革小物、宝飾品など従来はなかったカテゴリーを追加。NTTドコモと組み、AI(人工知能)による顔認証を活用した客の年齢や性別、売場の歩き方などの分析も始めた。

明日見世は、いわゆる“売らない店舗”だ。D2Cブランドの商品を集積し、その背景や特徴などを説明する「アンバサダー」が常駐するものの、購入は各ブランドのインターネット通販サイトを介す。ブランドは特定のテーマに基づいて約3カ月で刷新。常に鮮度を保つ。

そごう・西武が昨年9月2日に西武渋谷店に開いた「CHOOSEBASE SHIBUYA(チューズベース シブヤ)」とともに百貨店業界の枠を超えて話題を集め、多くの新客を誘引。明日見世で実施したアンケートによれば、大丸松坂屋百貨店のカードやアプリを持たない客は7割近くにのぼる。客の4割を20代と30代で占めるなど、百貨店業界が取り込みを急ぐ世代の獲得にも繋がった。

「アンバサダーはお客様に好評で、手応えがある。D2Cブランドも『商品の背景や特徴などをきちんと説明してくれるアンバサダーがいるから』と出てくれる。接客や昨年11月から行うイベントで得たお客様の声は各ブランドにフィードバックするが、それも『商品開発のヒントになる』と歓迎されており、例えば化粧品の『セイブミー』はトライアルキットを開発中。売上げはまだまだだが、取引先は大丸東京店に出たことに意義を感じてくれた。順調なスタートを切ったと言える」

明日見世を主導する、廣澤健太本社経営戦略本部DX推進部スタッフデジタル事業開発担当は、昨年10月6日~今年1月11日までの“第1章”を総括する。

迎えた第2章は「私とあなたの個性と出会う」がテーマ。第1章は19のブランドのうち11が化粧品だったが、時流や客の要望を踏まえて品揃えの幅を広げた。廣澤氏は「『サステナブル』は引き続き重視したが、最も大きな違いはフェムケア。近年、熱視線を浴びる分野であり、明日見世を担当する女性のバイヤーが『強化したい』と考えた。お客様の要望を踏まえ、前回はなかった生活雑貨やアート系の雑貨、革小物、ジュエリーを加え、ネット通販では試せないフレグランスも用意。大手メーカーのD2Cブランドも支持されるか見極めるため、ユニリーバ・ジャパンのヘアケア『ラボリカ』もトライアルする」と狙いを説明する。

老舗製本所が手掛ける上製本のノート「ホンセプト」

フェムケアでは靴下やインナーウェアなどの「トトノ」、インナーウェアの「シーピース」、デリケートゾーンケア用品の「明日 わたしは柿の木にのぼる」、ショーツの「オンドミュウ」などを、生活雑貨では「モノコ」や老舗製本所が手掛ける上製本のノート「ホンセプト」などを、アート系の雑貨では「ヒノキノヒ」などを、革小物ではサボテンに由来する素材から生まれた革製品を扱う「カクタストーキョー」などを、ジュエリーでは神輿の金具でアクセサリーをつくる「キップ」などを、フレグランスでは「ディメーター」などを、それぞれラインナップした。

アート的な雰囲気を演出する時計、コースターなどを扱う「ヒノキノヒ」

2020年12月に誕生した「オンドミュウ」のショーツは、「冷え」に悩む女性の支持が厚い。通常はサブスクのみだが、明日見世では単品も買える

新たな試みは、品揃えだけではない。NTTドコモと共同で、AI(人工知能)による顔認証を活用した客の分析を開始した。「ドコモ画像認識プラットフォーム」に、リアルネットワークスのAI顔認証ソフトウェア「SAFR」を搭載。個人情報を取得せずに客の年齢や性別を推定できるほか、滞在時間、再来店かどうかなども把握が可能だ。マサチューセッツ大学の調査によれば、認識精度は99.87%にのぼる。日本では大学の図書館や工場の入退管理に使われているが、商業施設では初めてという。明日見世は、分析を店舗の運営や各ブランドへのフィードバックの改善に役立てる。

NTTドコモと共同で、客の年齢や性別、回遊の分析をスタート。各所にカメラを配した

課題の解消にも乗り出した。知られざるブランドの魅力を伝えるのはもちろん、ブランドのコラボレーションを促し、新たな価値を創造するのも、明日見世の役割だ。しかし、廣澤氏は「ブランドとブランドの“出逢いの場”としての役割を果たし切れなかった」と自省。12日には初めて、大丸東京店のミーティングルームで懇親会を開いた。15のブランドが参加し、交流したという。

多くのチャレンジやテストを盛り込んだ第2章は4月5日まで続く。