2024年11月19日

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バリュエンスジャパン、百貨店との協業を活発化

「なんぼや」(写真はうすい百貨店)や「ブランド コンシェル」を展開するバリュエンスジャパンは、三越伊勢丹の「アイムグリーン」も支援する

三越伊勢丹が手掛ける、不要品の買い取りおよび引き取りサービス「アイムグリーン」を支えるのが、バリュエンスジャパンだ。客が持ち込んだ不要品の価値を見極める鑑定士を派遣する。同社は買い取り専門店の「なんぼや」や「ブランド コンシェル」を大丸松坂屋百貨店、近鉄百貨店、ながの東急百貨店、うすい百貨店らに構えるなど、他にも百貨店業界との接点は多い。近年は特にSDGsの観点から、不要品の買い取りや引き取りが注目度を増しており、百貨店業界の各社もイベントの開催や専門店の誘致を活発化。バリュエンスジャパンとの協業も目立ってきた。

バリュエンスジャパンを傘下とするバリュエンスホールディングスにとって、百貨店業界の壁は高かった。「買い取り金額は多くの場合、販売価格の数分の一あるいは数十分の一にとどまり、売った側の信頼を損ないかねない」といった反対の声が、外商部やラグジュアリーブランドから寄せられるからだ。

実際、バリュエンスホールディングスの創業は2011年12月28日だが、百貨店への初出店は17年6月。松坂屋静岡店にブランド コンシェルがオープンするまで、5年半余りの月日を要した。さらに、次の出店にこぎ着けるまで2年近くが経ったという。

“百貨店1号店”にあたる松坂屋静岡店の「ブランド コンシェル」

転機は2018年、古物営業法の改正だ。あらかじめ警察署に日時や場所などを届け出れば、仮設店舗でも古物の受け取りが可能となった。つまり、百貨店で不要品を買い取ったり、引き取ったりする催事を開ける。そして短期間の催事であれば、外商部やラグジュアリーブランドも強硬には反対しない。一部のブランドは買い取りや引き取りの対象外とするなど、百貨店とバリュエンスの“譲歩”も結実。バリュエンスの“お膝元”である大阪府、京都府を中心に、百貨店で1~2週間の催事が定番化していった。

例えばジェイアール京都伊勢丹は、昨年12月までに3回の催事を実施。その3回目(1~21日)は、連日30組ほどが訪れる活況だった。百貨店での催事では、同店が最も買い取り額が高く、リピーターも多い。イベントでバリュエンスジャパン、なんぼやの名前を知り、後になんぼや京都四条河原町店に足を運んだ人もいるという。

JR京都伊勢丹に限らず、催事は活況だ。事前に百貨店のカードホルダーに告知するためか、来場者の年齢は40~60代がメインで、女性が圧倒的に多い。持ち込まれるのは、主に貴金属やバッグ、小物類だ。

「来場者のほとんどが、当社にとっての新しいお客様」

バリュエンスジャパンの西岡裕太買取事業本部買取事業推進部事業推進課課長は、百貨店で催事を開くメリットを強調する。百貨店にとっては既存顧客が大半だが、不要品を買い取ってもらい手にした“軍資金”は、店内で消費されやすい。まさにウィンウィンのビジネスモデルだ。1回目は反応が芳しくなくても、2回、3回と継続する百貨店が少なくない。

催事の賑わいが伝播し、最近は百貨店からの依頼が増加。開催にともなう鑑定士の確保や設営などに支障はないか懸念されるが、西岡氏は「鑑定士とパソコンが1台あれば、催事は可能」と一笑に付す。ただ、環境や体制を軽視するわけではない。西岡氏は「催事でもプライベートな空間、個室にこだわるのは同業他社との違い」と強調する。

百貨店で開く催事の頻度が上がっても、“在庫”がだぶ付きづらいのも、バリュエンスジャパンの強みだ。バリュエンスグループは国内外でオークション事業を展開しており、買い取ったモノの9割は卸売りで現金化できるという。

そして、その金額は高く、期間も短い。「ある時計のブランドは、人気のデザインが国内外で全く異なる。当グループは、最も高い金額が付きそうな場所で売れる。期間で言えば、一般的に不要品を買い取って自店で売ると、現金化まで平均で120日かかるとされるが、当グループは60日で済む。モノの相場は常に変動するが、流行に後れず、高い金額で売れる構造でもある」(西岡氏)。

催事以外でも、百貨店との結び付きは強まってきた。三越伊勢丹のアイムグリーンだ。三越伊勢丹は客に商品を売って終わりの従来型のビジネスモデルを課題と捉え、1人の客と長く付き合う“循環型”を目指し、アイムグリーンを発案。協業を求められたバリュエンスジャパンは「新しいお客様とのタッチポイントをつくりたかった。なんぼやとは別の不要品を集められるのではないかとも考えた」(西岡氏)と、鑑定士の派遣や接客する三越伊勢丹の社員に対する知識の提供などを決めた。

アイムグリーンは一昨年10月に試験的に導入した三越日本橋本店で1年間に約2000件の依頼があり、百貨店の顧客との親和性の高さを証明。昨年10月1日に伊勢丹新宿本店でも始めると、宅配での買い取りの申し込みが殺到し、同12日までに2度の受け付け停止を余儀なくされた。滑り出しは上々だ。西岡氏は「想定以上の反応」と喜ぶとともに、「認知度の向上を含め、まだまだやりようはある」と腕を撫す。

他の百貨店にも“ラブコール”を送る。「幅広い企業と提携しており、ノウハウは豊富。柔軟性や信頼性も強みで、お客様とのトラブルなどはない。とりわけ、当グループは接客に力を入れており、不要品を買い取る際も金額を提示して終わりでなく、必ず金額の理由や根拠を伝える。多くのお客様には、不要になったとはいえ、持ち込んだモノへの想いがある。それを汲(く)み取らなければならない。当グループの姿勢や強みを示しながら、これから色々な企業と協力関係を築きたい」(西岡氏)。

目下、バリュエンスジャパンは百貨店内で8店舗を営業する。同社の客との向き合い方は百貨店に通じる。店舗も、催事も、他の協業も、まだまだ増えていきそうだ。

(野間智朗)