2024年11月19日

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2020年開業の大型商業施設の潮流② 新しい「街」続々と誕生

2020年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、開業延期を強いられた再開発事業が相次いだものの、全国の主要都市で注目の大型複合商業施設が続々と誕生した。首都圏では東京湾岸エリアにシアター、ホテル、温浴施設、分譲マンション、公園などを有する大型複合施設「ショッピングシティ有明ガーデン」をはじめ、商業施設と公園並びにホテルが一体化した「レイヤード ミヤシタ パーク」、劇場やホテル、オフィスとの複合開発「ウォーターズ竹芝」の商業エリア「アトレ竹芝」など、立地・地域特性に応じたミクストユース型の大型開発が目立った。ルミネが「JR横浜タワー」の商業ゾーンに出店した「ニュウマン」の2号店、パルコが基幹店と位置づけた新しい複合施設「心斎橋パルコ」は、特選ブランドや「デパ地下」ブランドなどの百貨店MDを随所に取り入れ、大型商業施設の「百貨店化」も目立った。さらにホームセンターのSC(ショッピングセンター)化、コロナ禍の環境変化に応じてデジタル化を進展させたSC開発も相次いだ。

【写真】今年6月に開業したJR横浜タワーの外観

 

大人の女性のライフスタイルを発信する「ニュウマン横浜」

今年開業された大型施設の中ではルミネが横浜駅ビルに設けた「ニュウマン」業態の2号店も注目された。「ニュウマン横浜」は、JR横浜駅西口に建設された「JR横浜タワー」の商業ゾーンの核店舗(1~10階、売場面積約1万3000㎡)。「毎日をしなやかに生きる大人の女性」を対象に、同社で初めて誘致するラグジュアリーブランドをはじめ、ファッション、コスメ、サービス、ライフスタイル雑貨など110ショップと、5区画のポップアップスペースの合計115店舗を集積した。

横浜駅西口開発は「JR横浜タワー」と「JR横浜鶴屋町ビル」(9階建て、ホテル、パーキング、スポーツクラブ)で構成され、前者は地上26階建てで、10階から地下3階が商業ゾーン。このうち地下1階から地下3階には食品と飲食を中心にした「シァル」が入居。8階から10階(一部)がシネマコンプレックス「T‐JOY」、12階以上はオフィスフロアとなっている。

ルミネの新業態「ニュウマン」は、2016年に新宿に1号店が開業。「自分の価値観をもつ自立した大人の女性」を対象に、ファッション、ビューティー、フード、ウェルネス、カルチャーなどを横断してライフスタイルをトータルにプロデュースする時間消費型商業施設。ニュウマン横浜は新宿のノウハウを生かして、「新時代を自由に生きるヒトと共に、ストーリー(物語)をクリエイションし続ける場所」を開発コンセプトに、モノ・コト・ヒトを介して多様な価値提供を目指した。

フロアは、従来の価格やテイストごとではなく、顧客の「ライフスタイル」を切り口に構成。各フロアのコンセプトに基づき、ファッション、コスメ、雑貨、カフェなど、カテゴリーミックスでショップを集積。常設110ショップのうち、ファッション・雑貨は42店舗に抑え、レストラン・カフェ・食品(28店舗)、コスメ(15店舗)、ライフスタイル雑貨(17店舗)、サービス関連(8店舗)を充実させた。こうしたカテゴリー構成も昨今のMDの潮流だ。

ポイントとなるMDは、メインフロア1階や2階に集積するラグジュアリーブランドで、ルミネとして初めて。「グッチ」、「ティファニー」、「バレンシアガ」、「バーバリー」、「ボッテガ・ヴェネタ」などを誘致。次いで1階や3階など5カ所に設けたポップアップスペース「ニュウマンラボ」もポイントだ。最新情報やトレンドの発信、季節感の演出、体験型イベント、アートの展示・販売などを行うスペースで、いわば「百貨店MD」の一種と言える。

さらにルミネがプロデュースした自主編集ゾーン「2416マーケット」もこの一種に入る。6階フロアの約半分を使用し、「もっと地元が好きになる」をコンセプトに、食と雑貨を融合させて、県産品による神奈川の魅力を編集して、発信している。ルミネの直営飲食店「800ディグリーズ」の新業態2店舗を中心に、パスタ、ベーカリー、ワイン・酒、ボタニカルスイーツ、雑貨といった飲食・物販の7業態を統一空間に集積した。

また上位顧客限定のラウンジを設けた。ルミネでは初めての試みで、ルミネ、ニュウマン、アイルミネの固定顧客が対象。フリードリンクやブックコーナーなどを用意する。短期的視点よりも、「固定顧客づくり」を重視した事業モデル確立への取り組みのひとつで、「百貨店サービス」を取り入れた格好だ。

 

都市型パルコの創造と百貨店との融合に挑む「心斎橋パルコ」

11月20日に開業した心斎橋パルコは、パルコにとって、約9年ぶりの大阪・心斎橋への再出店であり、渋谷パルコと、名古屋パルコと並ぶ東名阪の基幹店と位置づけて開発した新しい都市型パルコだ。J・フロントリテイリング(JFR)にとっては、コロナ禍で再成長を実現していくための重点戦略の柱のひとつを象徴するプロジェクトで、隣接する大丸心斎橋店本館とのシナジーを本格創出していく一体型商業施設の最新モデルである。

心斎橋パルコは、大丸心斎橋店北館を全面改装して開発。地下2階から地上14階までの16層で、2階から10階は大丸心斎橋店本館と連絡通路で繋がる。店舗面積は約4万㎡で、約170店舗を集積した。

19年11月に建て替え開業した渋谷パルコの「モード、アニメ、ニュー飲食、アート」というエッセンスに、百貨店が強みとする領域「ラグジュアリー、高級飲食、ゴルフ&スポーツ」を融合させ、さらに大型専門店とシネマコンプレックス、多目的ホール・イベントスペースを加えた新しいコンプレックスビルとして開発。「モノとコト、日常とアート、リアルとテクノロジー」がボーダレスに交わる新しい都市型パルコの創造に挑んでいる。

新都市型パルコの要諦は、こだわりや彩りのある「モノ」や「コト」、感性を刺激する「アート・カルチャー」を大切にしながら、「テクノロジー」を駆使した店舗空間の創出である。「モノ」では、ラグジュアリー、デザイナーズ、セレクトショップなど、「装うこだわりとサステナブル」の両面をもつショップと、ビューティー&ファッショングッズの集積に留意した。

「コト」では、「食、エンターテインメント、学び、ワーキング」といった体験価値を重視。食体験は、「御堂筋ダイニング」(13階・21年1月完成)、刺激・食空間「心斎橋ネオン食堂街」(地下2階・21年3月完成)、各階の個性的なカフェで表現する。エンターテインメントは、シネマコンプレックス(12階・21年初春完成)、多目的スペース「スペース14」(14階)、約460㎡のイベントホール(14階)などで具現化。「テクノロジー」に関しては、カフェやイベントスペースなどからの配信サービス、14階の大型吹き抜けを活用したバーチャルインスタレーションアートの展示など随所で活用している。

一方、大丸心斎橋店本館との回遊性を高めるために、双方のカード利用によるポイント付与サービスを実施。心斎橋パルコ内で大丸松坂屋カードを利用すると外部加盟店ポイントを、大丸心斎橋店でパルコカードを利用すると永久不滅ポイントを付与する。また、双方のアプリでクーポン配布や企画を告知するなど相互送客に取り組んでおり、これにともない顧客のデータベースの統合も進める。

この他、両者が持つ取引先チャネルの相互活用、あるいはパルコ独自のコンテンツの百貨店展開も進めていく。心斎橋パルコは、百貨店と専門店の強みを融合させた新しい複合商業施設の創造に挑んでおり、JFRグループが今後の成長戦略に布石を打っていくための戦略店舗の重責を担っている。

 

新生活様式に対応した新型SC「イオンタウンふじみ野」

11月21日に開業した「イオンタウンふじみ野」(総賃貸面積約3万5250㎡、92店舗)は、コロナ禍の消費動向の変化に応じてデジタルを駆使したイオンタウンの新しいSCだ。「ウェルビーイング コミュニティ」をコンセプトに、地域の交流拠点として広場や趣味と学びの空間を開設し、加えてデジタル技術を活用した買物体験や地域の魅力を再発見する地産地消に注力している。

地域交流の場を象徴するのが、街のコミュニケーションスペースとして2階に設けた「cotokoto(コトコト)」で、フリースペース、キッチン、レンタルスペース、ワークスペースを併設した。様々なイベントやワークショップも開催できる。さらにウォーキングコースも有する約1100㎡の屋外広場「ヒマラヤ杉広場や屋外テラス、屋内のセントラルステージ(中央約120㎡)とセカンドステージ(2階東側約77㎡)の情報発信拠点など、随所に交流の場を開設した。

もうひとつの特徴がデジタル技術を駆使した新たな買い物体験の提供で、コロナ禍で台頭してきた新しい生活様式に迅速に対応した。イオンタウンとして初めて公式アプリを導入し、加えて専門店の商品を事前に注文・購入できるモバイルオーダー機能をイオングループのアプリで初めて搭載した。

イオンタウンアプリでは、来店前のSC内の混雑状況を確認でき、各専門店のデジタルチラシやアプリ限定のクーポンも配信する。モバイルオーダーシステムは、アプリ上で決済を済ませて、店頭で受け取ることができる。さらに車やピックアップレーンまで届けるシステムも試験的に導入しており、「パーク&ピックアップ」というSCの中と外をつなぐ新しい価値提供に挑戦している。

核店舗のイオンスタイルではネットスーパー機能も拡充した。駐車場に専用レーンを設置し車に乗ったまま受け取れる「ドライブピックアップ」、店舗外に設置する完全非対面・非接触型の「ロッカーピックアップ」、店内カウンターでレジに並ばずに受け取れる「カウンターピックアップ」の3形式の受け取りサービスを導入した。店舗設計も工夫し、スタッフが梱包などを行う作業場と各受け取り場を隣接させている。ネットスーパーで注文できる商品も生活必需品を中心に約3万点を揃えた。この他、顧客が専用スマホでスキャンし、専用レジで会計する「レジゴー」を導入し、利便性向上に努めた。

大型商業施設にとって、当面、こうした新型コロナ感染症拡大防止策は必須であり、新しい生活様式や価値観の変化に対する適応力が問われる。

2020年も都市生活並びに日常生活をサポートする「街づくり発想」の大型複合商業施設が相次いで開業した。各々が立地する「街」の特性に応じた新たな交流拠点や情報発信拠点、並びに地域生活者や来街者が過ごせる場や地域に貢献できる場の創出に注力している。公園・広場、映画館、アミューズメント施設など時間消費型施設を充実させ、いわば新しい「街」が続々と出現した格好だ。各々がリアル店舗の存在価値を追求した結果が、複合化・多様化する大型商業施設の進化に繋がっている。

前半(2020年に開業した商業施設①)はこちら

 

■2020年8~12月に開業した主な大型商業施設■
○サンエー石川シティ(開業日:8月7日)

事業主体:サンエー 商業面積:約1万5000㎡ 所在地:沖縄県うるま市

直営店舗である「⾐料館」、「化粧品」、「⾷品館」に加えて、家電の「エディオン」、ドラッグストア、飲食店、ファッション雑貨、サービスなど全29店舗が出店

○カインズ羽生店(8月26日)

事業主体:カインズ 商業面積:約1万㎡ 所在地:埼玉県羽生市

岩瀬土地区画整理事業地内の新しいまち「愛藍タウン」に出店。自営のカフェ「カフェ ブリッコ」とインテリアグリーン売場を融合させたスペースを設け、緑のある暮らしを体感できる場所を提供する

○日比谷 OKUROJI(9月10日)

事業主体:ジェイアール東日本都市開発 商業面積:約7200㎡ 所在地:東京都千代田区

JR・有楽町駅~新橋駅間の高架下を生かし、商業空間として再生した。バーなどが集まりナイトタイムを楽しめるゾーン、飲食ゾーン、雑貨・ファッションゾーンなどを形成。飲食が16、物販が14の計30店舗が集まる。銀座~有楽町~新橋間に新たな回遊を生み出す

○ららぽーと愛知東郷町(9月14日)

事業主体:三井不動産 商業面積:約6万3900㎡ 所在地:愛知県愛知郡

東海3県では2店舗目のららぽーととなる。地上4階建てで、4階は駐車場(約3900台)。全201店舗を集積し、うち36が愛知初出店。食物販とレストランを融合させたマルシェや約1150席の大規模フードコート、エンタメ施設などを揃え、芝生広場や遊具を備えた「TOGOパーク」や認可保育園など、子育てファミリー向けの施設も充実させた

○レイヤードヒサヤオオドオリパーク(9月18日)

事業主体:三井不動産 延床面積:約8000㎡ 所在地:愛知県名古屋市

Park―PFI 制度によって公園と店舗が一体となった新複合パーク「ヒサヤオオドオリパーク」の商業施設部分。飲食、ファッション、スポーツ、アクティビティなど全35店舗が揃う。公園内には5つの広場で様々なイベントを開催し、食物販や公園で楽しめるアイテムを貸し出すトラック、ワゴンなども登場する

○ところざわサクラタウン(11月6日)

事業主体:KADOKAWA、角川文化振興財団 延床面積:8万4000㎡ 所在地:埼玉県所沢市

日本最大級のポップカルチャーの発信拠点として、イベントスペース・ホテル・ショップ・レストラン・ミュージアムなどに加え、KADOKAWAの新オフィスや書籍製造、物流工場も備える複合施設。隣接する「東所沢公園」とも連携し、園内に角川文化振興財団による「武蔵野樹林パーク」や隈研吾氏設計の「武蔵野植林カフェ」、チームラボによる光のアート空間も常設展示する

○くまみちモールあさか(11月12日)

事業主体:カインズ 商業面積:約1万2000㎡ 所在地:埼玉県朝霞市

核店舗「カインズ朝霞店」をはじめ、食品スーパーやフードコート、サービスの専門店などを擁する。くまみちモールはコンセプト共有型モールで、全国で3カ所目となる

○平和堂石山(11月12日)

事業主体:平和堂 商業面積:約9000㎡ 所在地:滋賀県大津市

食料品、生活関連品、衣料品などを取り扱う「平和堂石山」を中心に、雑貨、食品の専門店で構成。イベントも開催可能なイートインコーナーやキッズスペース、コミュニティスペースも設ける

○イオン原店(11月19日)

事業主体:イオン九州 商業面積:約9300㎡ 所在地:福岡県福岡市

全21店舗。食品売場では地場商品を豊富に品揃えし、九州・福岡産の地産地消を推進する

○大丸心斎橋店北館パルコ(11月20日)

事業主体:パルコ 延床面積:約5万8000㎡ 所在地:大阪府大阪市

大丸心斎橋店の旧北館(地下2~地上14階)に入る。本館とは地上2~10階を繋げて一体化し、相乗効果を高める。19年11月に建て替えオープンした渋谷パルコの「モード」、「アニメ」、「NEW飲食」、「アート」といったテーマを受け継ぎつつ、百貨店のラグジュアリー要素も加えた。「東急ハンズ」や「無印良品」などの専門店、シネマコンプレックスなども入る

○アミュプラザ宮崎(11月20日)

事業主体:九州旅客鉄道、宮崎交通 商業面積:約1万8800㎡ 所在地:宮崎県宮崎市

JR・宮崎駅西口に隣接する駅前用地と、道路を挟んだ広島用地の2棟の施設「JR宮交ツインビル」内に入る。駅前用地(地上10階)の「うみ館」は1~4階が商業施設、5~6階がシネマコンプレックス、7~10階がオフィスとなり、広島用地(地上6階)の「やま館」は全体が商業施設。全91店舗が出店し、既存の駅高架下「ひむか きらめき市場」と併せてアミュプラザを構成する

○イオンタウンふじみ野(11月21日)

事業主体:イオンタウン 商業面積:約3万5000㎡ 所在地:さいたま県ふじみ野市

「イオンスタイルふじみ野」を核に、92店舗が出店。イオンタウンが主体となり設置する初のコミュニケーションスペース「cotokoto」にはキッチン、レンタルスペース、ワークスペースなどを配置し、多目的な交流空間を目指す

○イオンタウン岡崎美合(11月27日)

事業主体:イオンタウン 商業面積:約9000㎡ 所在地:愛知県岡崎市

岡崎市初出店となる「マックスバリュ岡崎美合店」を含め26の専門店が入る。ドラッグストア、家電量販店、100円均一などに加え、岡崎市で展開する器械体操教室やフィットネスクラブも出店する

○イオンモール上尾(12月4日)

事業主体:イオンモール 商業面積:約3万4000㎡ 所在地:埼玉県上尾市

新業態や埼玉県初となる専門店23を含む約120店舗が集結する。地上2階建て。上尾市と地域連携協定を締結し、地域のプロスポーツチームや観光施設とのコラボレーションなどにも取り組む

○ビバモール赤間(12月5日)

事業主体:ビバホーム 商業面積:約1万8000㎡ 所在地:福岡県宗像市

ホームセンターである「スーパービバホーム」を核に、20超の専門店から構成。「生活に密着した新しい商店街」をコンセプトに、日常使いに最適なモールを目指す