2024年11月19日

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安全・安全な買い物環境で悩みにも対応 子供売場のニューノーマル

コロナ禍のベビー・キッズ需要に応えるため、百貨店の子供服・用品売場は新たなサービス体制の構築に乗り出した。ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」を利用したオンライン接客、売場での入場制限、電話注文サービスなど、まずは現在使えるツールを活用した施策を講じる。まだ人が密集する場所へ出掛けるリスクは高く、「3密」を避けた生活様式が推奨されている。妊娠した女性や、子供のいる親ならなおさらだ。しかし子供の衣類はどんどんサイズが変わり、ランドセルの準備なども含め買い物が必須となる。各百貨店は安全な買い物環境の確保と質の高い接客を両立させるため、ベビー・キッズ売場のニューノーマルを作り上げる。


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■ズームを利用した接客を導入 成約率は約5割

伊勢丹新宿店で始めたオンライン接客は高い購買率に繋がっている

新型コロナの影響で失った顧客接点を取り戻すべく、アパレルや化粧品など各業界は続々とインターネットを活用したライブコマースやオンライン接客を始めている。百貨店の子供用品では、伊勢丹新宿本店がランドセルで新たなサービスを取り入れた。ズームを使用した接客「おうち de 伊勢丹 for ランドセル」と、チャットツール「ラインワークス」による接客を、全館営業を再開した5月27日に開始。どちらも利用者は多く、特に前者は購買に繋がっている。

おうち de 伊勢丹 for ランドセルはスタートから1カ月で約70件の利用があり、うち半数弱がオンラインで購入を決定。非常に成約率の高い結果が出た。残りの約半数も、後日店頭を利用している。接客時は「色の違いを並べてみたい」、「実際のランドセルの開閉などの操作感はどうか」、「動きを立体的にみたい」などのリクエストがあり、併用する人が多いチャットツールでの相談を元に、さらに詳しく知りたいという傾向がみられた。伊勢丹新宿本店の店頭はコロナ以降は予約制を取っているが、客があらかじめ候補を絞っていたため滞在時間の削減に繋がったという。

チャットツールによる接客の開始後は、臨時休業前に比べるとランドセルの問い合わせ件数は約5倍にまで増加。同店の担当者は「改めてチャットで連絡が取れる利便性や重要性を感じた」と語る。多くの客は既にインターネットで情報を集めて候補を絞った上で、細かい部分を知りたいという質問を寄せた。

今後は子供の受験時の面接用の洋服、出産祝いのギフトなどのオンライン接客も順次始める。どちらもオンラインチャットサービスでは既に行っている。

三越伊勢丹は以前から、オンラインとオフラインを繋ぐサービスの提供によって顧客接点を増やすプラットフォームの構築を進めていた。コロナの影響で客のオンライン利用が急激に増えたことから、「自宅で接客が体験できるオンライン接客」が今すぐ必要だと判断。自社のシステムで始めるには時間がかかってしまうため、まずは既存のシステムであるラインワークスやズームを活用した。

 

■店頭は3密回避を徹底 出産準備はラウンジを活用

伊勢丹新宿本店のランドセルはオンラインで購入を決めた客が多いが、約半数が実店舗にも訪れている。客はネットを駆使して情報を収集するが、実際に商品を見て、試すということも重視する。百貨店の強みが発揮される場所であり、同時に徹底した感染拡大の防止策が求められる。

西武池袋本店は7階のランドセル売場や6階の子供靴売場に専門の資格を持つ販売員を常駐させるなど、コンサルティングを充実させているが、全館営業を再開した5月23日以降、売場の入場制限などを実施している。ランドセル売場は1組3名、会場内は最大で7組までに制限。展示する商品の数は2割削減し、スペースを広く取った。子供靴売場も試着用のいすを16席から8席にまで減らし、売場内には販売員が接客可能な人数しか案内しないように変更した。

再開後は混雑し、特に子供靴売場は土日になると何組も待つ状態になるほどだった。しかし人数制限の案内をすると素直に従う客が多く、人の少ない平日に下見に来て土日にさっと購入したり、そごう・西武のインターネット通販サイト「e.デパート」を利用したりするなど、客の方も工夫して滞在時間を減らす様子がみられた。7月以降は客数も落ち着いたため、状況に即して柔軟に対応している。

 

京王新宿店の「ミキハウスベビーサロン」内に構えるラウンジ

ランドセルや靴のほかにも店頭での接客の必要性が高いのは、出産前のベビー用品一式だ。沐浴用や外出時用、寝具など多岐に渡り、専門的な知識を持つ販売員のアドバイスが欠かせない。そこで京王百貨店新宿店は、昨年11月に誕生した「ミキハウスベビーサロン」のラウンジを活用する。

ミキハウスベビーサロンは三起商行のミキハウスが手掛ける、出産準備で必要な商品を幅広く集めた売場で、ラウンジはその中にある個室だ。ゆったりと広いスペースで、売場とは壁で隔てられているため、出産を控えた両親や祖父母にとっても安心して過ごせる。普段の接客で積極的に利用したり、客を1組に限定した「出産準備相談会」を開催したりする。

出産準備相談会は約30分で、Aコースが「肌着の着せ方、選び方講座」、Bコースが「沐浴講座」など、好きなコースを選べる。ミキハウスのスタッフが行うため専門性が高く、市区町村のセミナーの中止などで学ぶ機会を得られなかった親のサポートにもなる。7月は5日、12日の2回行い、今後は仕事帰りの人も参加できる平日も含めて回数を増やしていく。

 

■電話注文サービスに着手 シルバー層もカバー

西武池袋本店ではコンシェルジュが電話の注文を受け付ける

試着や接客が求められる商品がある一方で、玩具など、あまり必要ない商品もある。百貨店の大半はインターネット通販サイトを運営しているが、柔軟に対応でき、ネット通販サイトの利用が苦手な客もカバーできるため、電話での受注サービスを始めた店舗も多くみられる。

西武池袋本店は5月に駐車場や受付で荷物を受け取れる「電話予約でラクラクお買いもの&ドライブスルーサービス」を食品売場で始めたが、ベビー用品も対象に加える。同サービスはホームページに掲載しているリストから商品を選び、電話で申し込むと地下1階南口のコンシェルジュデスク、または1階の車寄せ口で受け取れる。前日の15時までに予約すると当日の12時以降に受け渡しが可能なため、日数を待たずに早く買える利点がある。ベビー用品の追加は7月中を予定する。

取り扱いを始めるのは、玩具、ギフト好適品など15品目。きっかけは、妊娠している、または子供がいるため買い物に出掛けるのが不安だという客からの相談が子供売場に多く寄せられたためだ。特に出産祝いなどのギフトは百貨店で買いたいという人が多いが、出産祝いを贈る年齢層の客は自身も妊娠していたり、子供がいるケースが多いという。「悩みの解決に少しでも貢献できないか」と考え、同サービスの活用に至った。

京王新宿店も8月を目途に電話受注サービスの導入を進めているが、対象とするのは主にマタニティやジュニアの肌着だ。肌着は試着して購入してもらうことを推奨しているが、例えば1度買った後に気に入って追加したり、色違いを買ったりといった利用を想定する。基本的には購入時に接客した従業員が対応するため、客が詳しい説明をしなくても注文を受けられる上、その場で簡単な相談にも対応できる。

肌着という商品の特性上、店舗に直接行くほどではなくても購入を後押ししてもらいたい人が多いと考え、サービスを導入を決めた。また京王新宿店はネット通販の利用が苦手なシルバー層を多く顧客に抱えるため、フォローする狙いもある。

 

近年はインターネット通販市場が伸長し、コロナ禍によって一層拍車がかかっているが、急激に体格や体型が変わるなど、初めてのことが多いベビー・キッズ、マタニティでは専門的な知識を持つ販売員に相談したいというニーズは高い。一方で用途などによっては、まず情報を収集したいもの、見なくても買えるものなどもある。各店はインターネット、店頭、電話など様々なチャネルで施策を講じて客の要望に対応し、安心・安全な買い物環境を提供する。