【連載】富裕層ビジネスの世界 「顧問」という働き方(3)顧問に向いている富裕層はこんな人
名誉職から性質を変え、稼げる新たな職業となった「顧問」。今や顧問市場まで誕生し拡大は必至だ。そこで、どういう人が顧問に向いているのか、そして迎え入れる企業側が気を付けるべき点について、リクルート、ソニーの映画・ゲーム・音楽子会社を経て2012年に独立、これまで楽天やUUUMなど140社を超える顧問を務めて、16年からプロフェッショナル顧問協会の代表理事を務める齋藤利勝さんに話を聞いた。
──齋藤さんは「プロフェッショナル顧問」の名付け親ですよね。
「そうです。私自身、ソニーの映画・ゲーム・音楽子会社を経て独立し、顧問という道を歩み始めました。その後、楽天などのべ140社の顧問を務める中で、顧問というものが1つの職業として確立してきたなと実感しています」
「とはいえ、職業としての顧問が生まれて10年程度ですから、『名ばかり顧問』が多いのも事実です。派遣会社に登録したものの幽霊会員になったり、企業側が求める結果を出すことができずに契約を打ち切られたりして稼働していないような人たちです」
「それでは本当の職業とはいえない。そこで企業の抱える課題を解決に導くという結果を出せる顧問、そして質が担保された顧問、つまりプロフェッショナルな顧問を確立したい。そう考えて名付け、協会も立ち上げました」
──齋藤さんが考えるプロフェッショナルな顧問とはどのようなものですか。
「相手先企業と同じ目線で物事を考え、高い視野で解決策を導き出して成果を出す。そういう顧問ですね。そうした貢献をすれば、ふさわしい対価をもらうこともできます。プロフェッショナル顧問となって自らをブランディングすれば、顧問派遣会社からの依頼が増えるだけでなく、企業から直接依頼を受け、企業と業務委託契約を結ぶこともできます。そうすれば報酬も企業から直接いただくことになり、1社につき月2回程度の活動で月額20万〜30万円に跳ね上がる。そうなれば一人前のプロフェッショナル顧問と言えるでしょう」
──齋藤さんの目から見られて、どのような人が顧問に向いていますか。
「どんな方でもサラリーマン時代にさまざまなキャリアを積んでいますから、どんな方にも素質はあります。あとは顧問としてやっていく勇気と、自己研鑽による能力の向上を図ればいいのです。とはいえ、すぐにはできませんので、まずはキャリアの棚卸し、つまり自己分析をして、戦略を立ててみましょう。そして、詳しくは拙著『あなたのキャリアをお金にかえる!』(集英社)を読んでいただきたいのですが、顧問として成功するためには、以下のような方法が有効です」
(1)やりたいこと(ゴール)を設定する、(2)3C分析(顧客・市場Customer、競合他社Competitor、自社Companyに分けて分析する手法)で環境分析を行う、(3)SWOT分析(強みStrength、弱みWeakness、機会Opportunity、脅威Threatに分けて分析する手法)で自己分析を行う、(4)クロスSWOT(強み×機会=積極化戦略、強み×脅威=差別化戦略、弱み×機会=弱点強化戦略、弱み×脅威=防衛策)を策定し優先順位をつけ、その戦略を(5)5W1Hでアクションプランに落とし込む。
「こうすれば戦略が明確になり、今やるべきことが明らかになってきます。これは顧問先企業の戦略を考える際にも同じことが言えるので、まずはチャレンジしてみてください」
──顧問先企業に行って気を付けるべき点はどのようなことでしょう。
「顧問先企業や顧問派遣業の方達からよく聞くのは、『自分の自慢話が長い人や抽象的な話ばかりする人は嫌われて、契約に結び付かなかったり、途中解約になったりしてしまう』ということです」
「ありがちなのは、過去の栄光に囚われて『教えてやる』という上から目線の姿勢で臨んでしまうこと。どれだけ過去に成功していたとしても、それは顧問先には関係ありません。顧問先がほしいのは、その人のノウハウや人脈だからです。また過去の経験が素晴らしくても、時代は目まぐるしく変化しており、時代遅れになっている可能性もあります。にもかかわらず、偉そうに言われても反感を買うだけです。あくまで謙虚に、一緒になって課題解決に臨むという姿勢が重要なのです」
──では、逆に受け入れる企業側が注意すべき点はどのようなものでしょうか。
「私の過去の経験から言って、企業側の依頼の大半が『販路拡大のための営業先を紹介してくれ』というものでした。しかし紹介しても、一度売ってしまったらおしまい、紹介してもらったら使い捨て、そんな感じの扱いをされることが多かった。紹介した人脈は時間をかけて、苦労して培ってきたもの。そんな扱いをされると、『もう二度と紹介したくない』と思ってしまいます。人脈は資産です。紹介してもらった人脈を大切に維持すること、それが重要です」
「また、顧問が持っている資産は人脈だけではありません。経験やノウハウといった資産も持っています。そうした資産を活用させてもらうことも重要です。せっかく会社が報酬を払っているのですから、人脈紹介だけさせて使い捨てにするのではもったいない。お互いにウィンウィンの関係になれれば、それが一番なのですから。顧問の普及にともなって、以前と比べて顧問先企業からの依頼内容も多岐にわたるようになってきました。非常にいい傾向だと思います」
「そういう意味では、顧問先企業の期待に応えられるよう、顧問側も日々切磋琢磨する必要があります。私も企業に出向く際には予習をし、引き上げてからも企業側から提示された宿題をこなしています。そして空いた時間には、最新の技術や戦略に関する勉強を欠かしません。かつての顧問は名誉職だったため、たいしてやることがない暇な仕事だったかもしれませんが、プロフェッショナル顧問はそうではありません。1つの職業としてしっかりとした報酬を頂戴するためには、努力する必要があるのです」
「そうした努力の結果として質が向上し、企業側のニーズに応えられるようになれば、さらにプロフェッショナル顧問は拡大していくことでしょう」