【1月5日更新】2022年 百貨店首脳 年頭所感・肆
<掲載企業>
天満屋 社長 江國 成基
昨年は新型コロナウイルスの感染拡大と収束の繰り返しによって、引き続き行動制限の中での生活を強いられました。
当社では、店頭での感染症対策を徹底し、お客様に安心して来店頂き、安全に買い物を楽しんで頂ける店舗運営に注力して参りました。その中で、お客様が当社に何を期待し、どのような要望やニーズがあるのかを改めて考え直し、こうした時代に必要とされるサービスの具現化に取り組みました。
外出自粛により行動範囲が制限される中で、当社は店舗を構えてひたすらお客様の来店を待つだけでなく、お客様の生活圏と当社との距離を自らが縮めていく必要があることに気が付かされました。そして、ラストワンマイル対策として自社ECサイトでの買上げ商品を当社店舗やグループのGMSなど身近な店舗で受け取れるサービス、お客様の自宅と売場を繋ぐオンライン接客などをスタートさせました。また、現在はデパ地下の食品や弁当のデリバリーサービスの事業化実現に向けた実証実験を行っております。
当社がこうしたサービスを立ち上げていく一方で、ITの活用で先行する企業では、より深いコミュニケーションを体験してもらう目的で、お客様との距離をさらに縮めるための新しいコンテンツの開発が始まっています。例えば、仮想空間を舞台に接客が行われるというものです。今後は新型コロナウイルス感染症によって奪われた顧客接点の回復とともに、こうしたコミュニケーションの深化が小売事業者の課題となりそうです。
コミュニケーションの深化という課題に対して、当社は「リアル」を追求することが、その解決策になり得るのではないかと考えています。日々の販売活動を通じて、商品だけでなく、「驚き」と「発見」、そして「感動」をお客様に提供することで、お客様の心の満足度を高め、買い物の価値を向上させることを目指して参りました。
感動体験は、商品そのものや接客サービスに加え、買い物を楽しんで頂いている時間や空間も含めた、お客様の目の前にある全ての「リアル」によって構成されると考えています。
当社は「リアル」にこだわり、改めてリアル店舗の良さをお客様に感じて頂けるように、お客様への提案の幅を広げ、その質を向上させるとともに、目の前にある全ての価値を高め、お客様とのコミュニケーションの深化を図り、お客様に感動体験を届けることに本年も取り組んで参ります。
京阪百貨店 社長 辻? 良介
昨年は一昨年と同様にコロナウイルスの影響によって消費者の社会活動が制限され、非常に厳しい営業活動でした。
9月末に緊急事態宣言が終了するまで、大半の期間がまん延防止等重点措置あるいは緊急事態宣言にあたり、ファッションフロアの営業が休止に追い込まれただけでなく、新たにデパ地下の入場制限も加わり、全く前向きな営業ができませんでした。当社は食品のウェイトが高いこともあり、デパ地下の集客施策を自粛したため、相当なダメージがありました。
10月以降は日に日に売上げが回復、外商や食品催事などで明るい兆しが随所に見られます。天候も冷え込みが厳しくなり、重衣料をはじめ売上げが加速することを期待しています。
一方、減収への対応には手応えを感じました。売場運営に必要な人員を極限まで絞りこみ、捻出した人員でレジ業務など外注業務の一部を内製化しました。これにより売場の生産性は上昇、同時に業務委託費の削減にもなりました。他にも費用削減施策を積み上げ、減収への手当はそれなりに形になりました。売上げの順調な回復を前提に費用削減を継続することで、今期は営業黒字確保を目標に掲げ、達成に向け全力で取り組みます。
さて本年ですが、競合店対策が待ったなしの状況です。守口店とくずは店は、近々商圏に新たな競合店が進出します。まず守口店は、ここ数年かけて直営強化を旗印に続々と直営売場をオープンさせ、お客様の評判も良好です。これら特色ある直営売場を軸に、各階売場を再編していきます。くずは店は、コロナで取引先の退店が相次いだのを機に、思い切って3フロアを2フロアに縮小、改装を通じて収支構造を抜本的に変革します。
また改装計画だけでなく、生産性や効率性へも引き続き切り込んでいきます。コロナに限らず先行き不透明なこの時代、無駄のない筋肉質な企業体質を構築し、損益分岐点を下げておくことは企業の継続性の観点からも重要です。
直営売場の利益率改善を継続実施、特に直営の精肉、鮮魚は利益率35%を目標にします。人件費では、これまで従業員750名体制を掲げ効率化に邁進してきましたが、今年度には達成できそうです。次の目標を労働分配率35%以内に再設定します。
幸い、緊急事態宣言中に少ない人員で売場を運営したノウハウがあります。本年4月には、絞り込んだシフトに移行できればと考えています。捻出した人員は外注業務の内製化へ投入し、経費削減に繋げます。
そして、先々への布石としてEC強化と新業態の開発に注力します。ECについては、昨年7月にECプラットフォーム事業部を新設しました。新業態については明確な事業モデルがあるわけではないですが、百貨店で培ったノウハウを存分に生かせる新しい商売をイメージしています。
オミクロン株のようなリスクがあるものの、今年こそは明るい1年になるよう全社一丸で頑張って参ります。
鶴屋百貨店 社長 福岡 哲生
昨年、当社は「Act Now!-for the NEXT-」を営業指針に掲げ、コロナ禍の厳しい状況下でも来るべき時に備え、今できることに全社一丸となって取り組んで参りました。
市場環境も新型コロナウイルス感染症の影響から抜け出し、消費活動が回復することに期待を寄せていましたが、反対に感染症拡大の第4波、第5波が襲い、熊本においても2回のまん延防止等重点措置が発せられ、消費活動も鈍化しました。さらに、4月1日にコストコ御船倉庫、同23日にはJRアミュプラザくまもとと、大型商業施設が相次いで開業し、商業施設間の競争が激化しました。
この様な状況下、5月にはこれから先を見据え、経営体制の充実を図るべく、前社長の久我が会長に、私が社長に就任し、両輪で経営にあたることと致しました。6月には国が進める新型コロナワクチンの職域接種にいち早く名乗りを上げ、当社従業員、取引先従業員、その家族までを対象とした約6,000人がワクチンを接種しました。当社内でのワクチン接種率は93%と高い水準となり、お客様と従業員の健康と安全を守ることができております。
また、ウェブを活用した販促活動にも力を入れ、若手社員を抜擢したプロジェクトを立ち上げました。SNSを効果的に使い、売場や催事の情報をタイムリーに届けることで、来店促進に繋げています。
営業面においては、8月に本館1階、2階へマッシュホールディングスの5ブランドを導入し、特に20代、30代のお客様の期待に応える売場へとリモデルしました。加えて、荒尾店の閉鎖など不採算部門からの撤退、地方店の店休日増、週末の営業時間短縮などで人員効率を高めて参りました。
11月以降は感染症も落ち着きを見せ、徐々にお客様の来店も増え、同月に開催した大道産子市は過去最高の売上げを達成しました。笑顔で買い物を楽しむお客様の姿に、企業ミッションである「幸福な体験をご提案する」ことの大切さを、改めて認識いたしました。
今年、当社は創業70周年の節目を迎えます。これまでのご愛顧に感謝するとともに、これから先も末永く愛される百貨店であり続けるため、進化し続けて参ります。
そのために必要な「発想力・創造力・実行力」を、今年の営業指針に定めました。私達に必要なことは、知識だけに頼らず、自分の頭で考えて新たなものを発想し、独自の方法で新しい何かを創りだし、結果を出すことだと考えています。これを常に念頭に置きながら、館内のリニューアルや70周年の企画を進めて参ります。
4月には別館New-Sの地下1階にスポーツ用品大手アルペンのセレクトショップ「アルペンアウトドアーズ」を展開します。また7月には特別企画として「ANAビジネスクラスで行く全英オープンゴルフ観戦とスコットランドゴルフ11日間」ツアーを計画しています。この他にも多数の企画を進め、お客様に喜んで頂ける特別な1年に致します。
山形屋 社長 岩元 修士
コロナ禍2巡目の年となりました昨年は、全従業員の協力と理解もあり、この歴史に残る世界的な災禍に対して豊かな心と生活をお届けするエッセンシャルワーカーとしての役割を、極めて高いレベルで適切に対応できたと考えております。
安心・安全な販売体制づくりもその1つです。鹿児島の秋の風物詩となっている北海道物産展の復活にあたっては会場の定員を定め、入場整理券を配布し、密を防ぎました。そのことは安心・安全という当初の目的はもとより、これまで会場に入ることすら困難だった車椅子、ベビーカーのお客様の増加にも繋がりました。
デジタルの活用で言えば、お客様の目にも映る分かりやすいものから、スマホを活用した外商顧客様との接点のデジタル化、キッズクラブアプリの立ち上げによる3世代顧客様との接点のデジタル化など、感染防止という意味以上にこれからの商売のベースとなる仕組みのスタートを切ることができ、極めてエポックとなる年となりました。このデジタルの活用は本年もさらに強力に進めて参ります。
昨年は「誰1人としてコロナに負けることなく、山形屋としてコロナに打ち克つ年とする」として戦って参りました。今年はそこから一歩、歩を前に進め「山形屋としてコロナ後の世の中に打ち克つ年としたい」と考えております。コロナ後の社会を見据え、進化していくこと、これが本年の目標であります。
本年のテーマは「ワンダカラフル」です。「ワンダカラフル」は「ワンダフル」と「カラフル」を掛け合わせた私達の造語です。一人一人の個性が多種多様に生き生きと弾け、輝く様、そんな構成員からなる掛け替えのない地球の素晴らしさを心から希求する言葉です。希望の言葉をテーマに掲げ、コロナ後の新しい山形屋をつくり上げていきたいと考えます。
一人一人のそれぞれの個性を見出し、それを掛け合わせ、新しい価値から生まれる成果をともに分かち合う。そんなワンダカラフルなチームづくりを目指していきたいと考えています。私達のお客様は誰で、お客様の求めているものは何で、我々は何を提供することができるのか? デジタルの力を活用しながら、商いの中身の精度をより高めて参りたいと考えています。
本年、山形屋は創業272年、株式会社設立105年の記念の年を迎えております。私達の未来は歴史と伝統にのみ存在するのではなく、自身の中にあります。コロナ後の新しい時代に合った「百+1貨店」をこの地にデザインすべく、全従業員で明るく前を向いて進んで参ります。
伊予鉄高島屋 社長 林 巧
日本経済は新型コロナウイルスの感染拡大以降大幅な景気後退を経験し、未だ感染対策と経済活動の両立を模索する状態が続いています。個人消費の先行きは感染状況に左右される側面が強く、新たな変異株の感染拡大への不安が消費者マインドの悪化を通じ消費回復の重石となる懸念もあり、小売業界へのマイナス影響は長期化すると想定しています。
当社においても、1年を通して新型コロナウイルス感染拡大の波に大きな影響を受け、一進一退を繰り返す状況であり、このコロナ禍で社会、経済活動の制約や消費者の行動変容など個人消費の低迷が顕著となる中、前年に続き厳しい経営環境となりました。
地域経済は活動制限の緩和以降持ち直しの動きがみられるものの足踏み感があり、郊外SCの大規模改装や競合店の業態変更など競争も熾烈化しています。地域一番店としてお客様の支持を得ていくためには、商売の基軸を明確とした競合との差別化や当社の独自性を意識したメリハリのある施策を打ち出していくことが求められます。
迎える22年、不透明な状況が続くことを前提として新たな環境にも順応できる営業体制の整備が急務となります。長引くコロナ禍の中で変化したお客様の消費スタイルに対応するためには、改めて小売業の基本であるマーケットインの発想に立ち返ることが重要であると捉えています。
お客様の声を聴き、新しい生活様式や価値観に即した営業施策を実行し、固定化に繋げて参ります。そして、中期的視点に立った事業構造改革の実行も不可欠となります。販売機会の拡大を目指したECビジネスによるお客様との新たな接点づくりを強化するとともに、顧客ニーズの変化に対応した商品構成の見直しやフロアを超えたクロスMDの推進など店舗の魅力化を推進することで、ECとリアルの相乗効果をもたらすビジネスモデルの構築に努めて参ります。
また、環境問題をはじめとする世界的な社会課題が顕在化している中、ESGを重視した経営の必要性が一層高まっています。当社においても社会課題解決や地域社会に貢献するESGを推進し、社会公器としての役割を発揮していきます。
本年度、当社は誕生20周年を迎えます。この節目に長年に亘りご愛顧頂いているお客様や地域社会への感謝を伝えるとともに、魅力ある商品や企画を提案する記念事業を展開して参ります。コロナ禍で激変する環境の中、既成概念に囚われず、新たな発想で行動しチャレンジできる人材を育成していくことで、企業の持続的成長に繋げて参ります。
近鉄百貨店 社長 秋田拓士
人類にとって、新型コロナウイルスとの共存をどう捉え、どう取り組んでいくかは非常に大きな課題です。さらに、これからの未来においても、我々が想像していた以上の、今までにない自然環境の激変が待ち受けており、一人一人が立ち向かっていかなければなりません。
そこで私たちは「近鉄百貨店グループ・ESG方針」を策定し、これらの自然環境の激変に対して「持続可能な世界」の実現に向け、具体的なアクションをさらに加速していきます。
1つ目は、地球環境への貢献(2030年までにCO2排出量を半減、環境配慮型包装資材への50%切り替え、食品リサイクル50%の実現、食品廃棄物排出量20%削減など)。具体的には、LED化や省エネ化の推進、衣料品回収(shoichi助け合いゼロプロジェクト)への取り組み、食品廃棄物リサイクル(もったいないフード)や廃棄ロス削減(キキマーケット)への取り組み、「ハピエコ」の推進などです。
2つ目は、地域共創の実現、地域の価値向上と活性化への取り組み。具体的には、各店舗での地域産品の紹介や地産地消のさらなる推進、地方百貨店と協業するご当地名産品のWEB、ネットワーク展開、あべの・天王寺を中心としたエリアでの「ええやんまちフェス」の実施や390の市民活動によるグッドデザイン賞を受賞した「縁活」のさらなる推進などです。
3つ目は、ワークライフバランスの実現(2030年までに女性管理職比率25%達成、再雇用制度の70歳延長、障がい者雇用率2.5%達成、男性育児休暇取得100%達成など)。具体的には、短日数勤務制度、在宅勤務制度、半日年休制度など新たな休日、制度の導入と定着、女性活躍推進、外国人労働者の積極的登用などです。
当社グループは一丸となり、「地球と人類の持続可能な未来の実現」に向けて、積極的に社会的責任を果たして参ります。
さて、次に新しい年を迎えるにあたり、現在進行中の中期事業戦略を踏まえ、本年はコロナ禍により「失われた2年間」を取り戻すための1年間とします。重点戦略テーマは「投資倍増計画」、「高収益事業構造改革」へのジャンプアップです。そして2019年からの2年間の空白を取り戻し、その数値計画を元に戻すための戦略再構築に積極果敢にチャレンジしていきます。
1つ目は、収益旗艦店であるあべのハルカス近鉄本店の魅力最大化とあべの・天王寺エリアの活性化による集客力、収益力の向上です。あべのハルカス近鉄本店では、課題であった中層階のファッションゾーンを中心とした衣・食・住の「スクランブルMD」に大きく改装していきます。
また、2025年の大阪・関西万博を視野に地域との連携をより強固なものとするとともに、あべの・天王寺の国際化を目指し、Hoop、andのリニューアルを含め、エリアのまちづくりに取り組んでいきます。
2つ目は、高収益事業であるFC事業とEC事業のさらなる強化です。FC事業は多店舗化と新規業態への挑戦により、2024年度の目標である150億円を2年前倒し、本年度達成させます。そして、FC事業の利益管理、経営管理のマネジメントを通じ、当社の将来を担う経営者視点をもった人材育成に取り組みます。
また、EC事業全体では売上げ目標を2019年に対して3倍増を目指します。国内ECでは、日常生活に欠かせない食品、生活用品の品揃えを3倍増の5万点、さらには、越境EC事業の取引先の拡充にも積極的に取り組んでいきます。
3つ目は、「タウンセンター化」のさらなる推進です。最終目標は高収益店舗への転換です。そのためには地域商圏にしっかりと根差した事業、店舗であることが最重要課題であり、集客力のある食品売場の改装をはじめ、さらには自治体との協定締結など地域共創の取り組みにより、地域の方々にとってなくてはならない店づくりを目指して参ります。
具体的には各店においても順次「スクランブルMD」と専門店の融合を実現し、集客力のある店づくりとローコスト店舗構造改革を進めます。また、総合力のあるFC事業を導入し人材の活性化を図り、地域に根差した高収益の店舗づくりに取り組みます。
4つ目は、中期事業戦略の中で忘れてはならない当社の強みである近鉄グループ事業戦略との連携強化です。特に、近鉄沿線のお客様に対し、それぞれの事業会社が協業して、商品、サービスのさらなる拡充と発展を図っていくことがますます求められています。
昨年、特にグループ連携でのオリックス・バファローズの優勝セールへの取り組みや、アフターコロナに対して「さあ はじめよう、」に基づく各社連携による販売促進をスタートさせ、当社においてもグループ全体での相乗効果が出ています。
このようにこれからもっともっと近鉄グループの連携を強みにして、事業の発展に取り組んでいきます。新型コロナウイルスにより当社グループは大きな影響を受けましたが、一方で私達がお客様に提供すべき「価値」とは何かを深く考える契機ともなりました。
どのような状況にあっても、人と人の繋がりを大切にし、「お客様が求める暮らしのあらゆる価値を創造し提供する」ことが私達の原点です。この原点を忘れることなく、お客様、取引先、株主、そして地域社会とともに、これまでの百貨店の延長ではない、新たな価値のある事業を創造し、10年後、20年後に未来の当社を担うメンバーへのランナーとして、バトンを繋いで参りましょう。
日本百貨店協会 会長 村田 善郎
昨年の百貨店業界を振り返りますと、長引くコロナ禍でまさに暗中模索、試行錯誤の1年を過ごしてきたと実感しています。年初から緊急事態宣言が発出され、夏場にはデルタ株による感染急拡大で入場制限などの対策強化が求められるなど、安心・安全確保に向けて気の休まる間もありませんでした。春先に開始されたワクチン接種が加速することで、10月に緊急事態宣言は全面解除されましたが、今なお会員各社では感染再拡大への警戒を解かずに対策が継続されています。
国内外の社会経済情勢にも大きな変化がみられました。国際的な動向では、1月の米国政権交代およびバイデン大統領就任に始まり、G7サミットにおける対中国懸念、アフガンでタリバン政権樹立、年末のウクライナ問題など、国際秩序の変容が鮮明になっています。同様に国内でも目まぐるしく情勢が変化しました。無観客開催となった東京オリンピック・パラリンピックの閉幕後には、自民党総裁選で岸田政権が発足し、直後の衆議院総選挙でも与党が安定多数を確保して、新内閣の下、経済対策やコロナ変異株対策が矢継ぎ早に展開されています。
こうした外部与件に囲まれて、百貨店業界の業績動向は未だ集計中ではありますが、一昨年に続く厳しい結果が予想されます。コロナ禍の中での外出自粛や消費意欲の冷え込みに加え、特に大都市圏で休業、時短のない通常営業がほぼできなかった背景がありますが、その一方、高額消費や巣ごもり需要の堅調な推移、あるいは会員各社が積極展開した新たな営業施策におけるデジタル活用、さらには年終盤からの売上げ回復基調など、百貨店の今後を占う上で期待の持てる前向きな事象もみられました。
また、昨年3月から7月に実施された経済産業省主催の「百貨店研究会」も画期的な出来事です。政府による産業政策の一環として、百貨店が抱える構造課題を抽出し、その解決の方向性を示すことで、再び成長するための変容を促すという趣旨から、活発な議論が行われ報告書にまとめられました。
ここには「持続可能性に向けた地域社会における役割強化・過剰供給によるロスの削減」、「DXを通じたサプライチェーン全体の高度化」、「リアルとヴァーチャルの融合による付加価値向上」などの改革テーマが提起され、業界にはその具体的な解決策の議論に繋げていくことが期待されています。
そして迎えた令和4年は、どのような展望となるのか。様々な変数が絡み合う中で、明確な見通しは困難ですが、コロナに翻弄されてきた局面は転換しつつあり、昨年までとはかなり様相が異なります。変異株の懸念が残るため、巷間リベンジ消費と言われるような急激な需要の戻りは望めないものの、新たなフェーズにおいて景気や経済、とりわけ個人消費の動向については、徐々に回復軌道を辿るのではないか――。希望的観測とはいえ、およそこのような共通認識ではないでしょうか。
新しい資本主義を標榜する政府は、すでに過去最大規模の緊急経済対策をまとめ、財政出動をともなう景気浮揚策を予定しています。また、成長と分配の好循環と分厚い中間層の再構築を目指すべく、賃上げ税制などの格差是正策、地方創生のためのデジタル田園都市構想、脱炭素化、循環型社会に向けた制度整備、オープンイノベーションによる起業促進等々の個別施策を設定しつつ、コロナ後の新しい社会像を提示しています。
今が時代の転換点にあることを反映した日本の将来展望と言えますが、百貨店業界においても、生活者の価値観や消費行動の変化をイメージしながら、長きに亘る苦境の中で蓄えた知見をもって、変革の努力を続けていくことが肝要と思います。
その際、百貨店の業態価値が取引先に支えられていることを、ここで改めて認識する必要もあります。コロナ禍で辛苦をともにした取引先との緊密な連携、課題感の共有を通じて、業界の枠を超えたサプライチェーン全体の再生を図ることが大事ではないかと思います。
当協会では、これから4月にスタートする次年度事業計画の策定を進めますが、今年こそ会員各社の本格的な業績回復を目指す年と捉え、「経済運営・各種政策課題に対する要望」、「生産性向上に資する共通の仕組みづくり」、「百貨店の価値再創造に向けた研究および広報活動」を重点に、業界横断的な協調領域にある諸課題の解消策を展開して参りたいと考えています。
そして、この成果を高めるには、取引先ほか関係各方面との密接な連携、協働が不可欠ですので、今後も引き続き百貨店に対する一層の支援をお願い申し上げる次第です。
今年の干支「壬寅(みずのえとら)」には、厳冬を超えて新たな成長の礎を固めるという由来があります。新年を迎え、事務局ともども気持ちを新たに、会員各社の繁栄を目指し努力して参ります。