よりパーソナルに、1歩先の提案を目指し、「感動体験」を提供し続ける 阪急メンズ東京の山名伸治店長に聞く10周年と今後
15日に10周年を迎えた阪急メンズ東京が20日、その記念企画を始める。12月末まで、モノからコトまで“10周年ならでは”が盛り沢山だ。期間中に展開するコンテンツの総数は200にのぼるという。1984年10月6日に「有楽町阪急」として産声を上げ、2011年10月15日に“メンズ館”に刷新された同店。節目に際し、記念企画を通じて何を発信するのか。永年のファンに、どう感謝を示すのか。山名伸治店長に尋ねた(取材は14日)。
――10月15日で10周年ですが、率直に想いを教えて下さい。
「10年を経て街に愛されていますし、足繁く通ってくれる方が多いです。年間購入額が150万円以上の『プレミアムサービスパス』の保有者を中心に、10年間ずっと来て下さる方も少なくありません。一方で、19年3月にはコンセプトを『世界が舞台の男たちへ』から『クリエイティブコンシャスな男たちへの冒険基地』に切り替えて大規模改装しましたが、コロナ禍もあり、思ったほどの成果を得られていないのは課題です。10周年を機に、改めてコンセプトを打ち出します。コロナ禍では、否応なく生活や価値観などが多様化しました。改装で誕生したフロアごとにコンセプトのある売場は、その受け皿を担えると考えるからです」
「実際、『ヴィンテージ』にフォーカスした7階には時計や眼鏡、レコード、ヴィンテージウエアなどのマニアの買上げが増えています。改装前には全くいなかった方々です。『クリエーターズ』にフォーカスした6階ではファッションだけでなくライフスタイルグッズ『テンガ』やアクセサリー雑貨も、あるいは『シューズ』にフォーカスした5階ではブリティッシュドレスシューズ『ジャーミンストリート』やスニーカーの売場が、愛好家やマニアに支持されてきており、まだまだパイは小さいものの、新しいお客様は狙い通りに増えてきています」
「一般的に、男性は好きなモノに造詣が深く、インターネットなどでも何でも情報を得られるため、お客様の方が販売員よりも詳しい時代にもなってきています。また、かつてはトレンドに消費が偏りましたが、今は多様化し個性化してきています。何か1つが爆発的に売れるのは稀(まれ)で、売り手は『お客様の生活を豊かにする』を信条に、未来の傾向を予見しながらスモールマーケットの1つ1つを追いかけなければなりません」
――阪急メンズ東京にとっては得意分野であり、追い風ですね。
「そこで、取引先とその販売員の協力を得ながら、お客様のニーズを収集しています。『好きな食べ物』や『家族の好きなモノ』などお客様の趣味嗜好を知り、提案し続けて信頼を得て、あてにされる店になることが重要になります。接客でニーズを引き出し、次に来店された時に提案できるようにしていきます。今年7月には松屋銀座店との相互送客を本格化しましたが、松屋銀座店の7階にはペットフードの専門店『ごはんの窓口』があります。そのお客様を当店に送って頂き、『こういうリードが人気ですよ』と提案する――など、お客様へのサプライズな提案も色々と実現させたいです」
――自店だけでなく、タッグを組む松屋銀座店の顧客も含めて1人1人の趣味嗜好を把握し、より深くアプローチしていくのですね。
「そのためには、もう1度、お客様を知らなければなりません。当店では約800人の販売員が働いていますが、まだまだ『名顔一致』の繋がりが不十分です。しかも、再来店のアプローチは電話やダイレクトメールが中心です。ツールは『LINE』もありますし、もっとデジタルを使い、お客様との関係を強く、深くできるように奨励していきます。顔が見えるお客様に、1歩先の提案、感動体験を提供する。当店は、それを追求しています。お客様は十人十色ですが、知れば知るほど感動体験の提供に近付けるはずです」
――顧客政策は永続的な課題ですね。次に、10月20日から12月末までの記念企画について、概要やこだわりを教えて下さい。
「20日からを第1弾、11月17日からを第2弾と位置付け、専用のロゴやウェブサイト、ライブ配信、特別な限定品やイベントなど約200のコンテンツを用意しました。第1弾のテーマは「Welcome to the new world(笑顔&歌)」で、『こんな時代だからこそ、楽しくいきましょう!』というメッセージが込められています」
――第1弾の目玉は何でしょうか。
「1階で20~26日に開く『マルニ マーケット ゴーズ ポップ』です。赤色と緑色を軸とする色彩と光に溢れた空間に、バッグやインテリアグッズ、家具などを揃えます。阪急うめだ本店では今年6月21日~7月5日に開催しましたが、阪急メンズ東京では初めてです」
――20日には、阪急メンズの今秋冬のアイコンである芸人の狩野英孝氏に突撃取材した動画を公開しました。そもそも、狩野氏を起用した理由は何でしょうか。
「ファッションが好きで、芸人でありつつ歌手でもあり、まさに多様化の時代を象徴する人物と言えます。当店のメインターゲットである『クリエイティブコンシャスな男たちへ』にも響くのではないでしょうか」
――第2弾の主なコンテンツを教えて下さい。
「まず、SDGsにフォーカスします。『Feel the craft』をテーマに、各階のショップや売場でサスティナブルファブリックやアップサイクルなどに関連する商品を打ち出すほか、1階のイベントスペースでも大々的に訴求します。商品の具体例を挙げると、伝統の製法技法で作るヒノキの樹液を入れた香りが良い化粧品などです。そして、12月には『ディオール』の『スキーコレクション』として、デサントとアーティストのピーター・ドイク氏との“トリプルコラボレーション”の特別なパッケージが登場します。マルニと同様に話題を集めるでしょうし、記念企画はマルニでスタートを切り、ディオールでゴールする。そう言っても過言ではありません」
「他方、11月はクリスマスへの意識も高まっていきます。そこで、コト体験型のギフトを充実させます。7階の『ギンザレコード』では『フランチャコルタ』と共同でオーディオとワイン、DJのセットのレンタルを、同じく7階の『ミッドセンチュリーモダン』では、お客様の予算に応じた部屋のコーディネートを、6階のイベントスペースではライブ配信や24時間のアクセスが可能なプログラムによるフィットネストレーニングを、5階の『ビスポークサロン』では調香師の山根大輝氏が世界で1つだけの香水を、それぞれ実施。8階のイベントルームでは毎日、靴のオークションを行います。全館で『あなたのために』を充実させ、お客様に感動体験を味わってもらいます」
――10周年記念企画は売上げの起爆剤になりそうですが、足元の商況はいかがですか。
「9月は前年比で100%、10月も14日時点では100%です。もっと数字を上げたいですが、相次ぐ悪天候などが足枷となりました。ただ、新たな兆しもあり、影響力や発信力がある人を立てたイベントは当たっています。ゴルフブランド『Gorurun(ごるらん)』のポップアップショップと連動した、ごるらんのプロデューサーでありアイドルの山内鈴蘭さんの“トークセッション型販売”などです。人を立てたイベントは、ファンが来て、商品を買ってくれます。SNSの隆盛にともない、より顕著です。可能な限り、人を立てたイベントに取り組んでいきます」
「並行してもう1度、お客様へのサービスを見直します。その象徴が高級キャンピングカーをラッピングした『ブティックバス』です。店舗に足を運べないお客様に、バスで商品を届けます。対象の地域は限定しません。10月末から走らせますが、12月7日から1週間に亘り、プレミアムサービスパスの保有者をはじめとする『上顧客』にキャンペーンを行ってPRします。接客で得た情報を基に、お客様の好きなモノをバスに積み、届けるというサプライズも仕掛けたいです。フランチャコルタの出張サービスも計画中で、家族でのプチパーティーなどを演出します。費用は15~20万円です。現時点では10周年記念企画の一環ですが、ニーズが多ければ継続を検討します」
――最後に、今後への意気込みをお願いします。
「大切なお客様に対して、よりパーソナルに、1歩先の提案を目指し、感動体験を提供し続けます。当店はお客様と取引先に支えられてきました。最近、取引先の方々にも『店頭に来て、お客様と接して欲しい』と言っています。そこに商売のヒントがあるからです。当店は取引先の方々と一緒にお客様に想いを伝えられるハブの役割も担っていきます。全従業員、取引先との成功事例を共有できる仕組みも構築していき新たなステージへと邁進します」
(聞き手:野間智朗)