京王聖蹟桜ヶ丘店、地域のライフラインを担う
政府が発令した緊急事態宣言を受け、百貨店業界では店舗の臨時休業や生活必需品を扱う一部の売場での営業が続く。3月や4月の売上げは過去に例を見ないほど落ち込み、経営は厳しさを増しつつある。そうした中でも、地域住民の生活を支えるため、外出を自粛する人々の毎日に〝潤い〟を与えるため、さらには従業員を守るため、各社は食料品売場やインターネット通販を拠点に奮闘する。その現場を追う。第3回は京王百貨店だ。新宿店を閉じる一方、聖蹟桜ヶ丘店の食料品売場は20日に営業を再開。地域のライフラインとしての役割を果たす。
京王百貨店は4月8日、新宿店、聖蹟桜ヶ丘店、ららぽーと新三郷店、セレオ八王子店、昭島モリタウン店、キラリナ吉祥寺店、トリエ京王調布店、インターネット通販サイト「京王ネットショッピング」の営業を休止した。
しかし、東京都が4月10日に発表した休業を要請する施設に食料品売場が含まれなかったため、「地域のインフラとしての機能が色濃い」(京王百貨店)聖蹟桜ヶ丘店の再開を決定。消毒液を各所に設置する、客と販売員の間に飛沫防止のビニールシートを張る、全ての従業員がマスクを着用する、出入口の扉を開放するなど、新型コロナウイルスの感染防止策を徹底した上で、1階の食料品売場に限り、4月20日から営業を続ける。
実際、聖蹟桜ヶ丘店の食料品売場は地域に欠かせない。住民は、同じ「京王聖蹟桜ヶ丘ショッピングセンター」内のスーパーマーケット「京王ストア」と、惣菜や和洋菓子、酒類などが充実した百貨店を買い回るからだ。京王線・聖蹟桜ヶ丘駅の係員には、百貨店の再開について多くの問い合わせがあったという。
食料品売場の営業に際しては、物流や人員を調整しながら、約7割の取引先が協力。21日には、当初の予定通り「成城石井」がオープンした。京王百貨店は「聖蹟桜ヶ丘店は食料品の売上げが4割以上を占め、地域の方々の日常的な需要に応える存在。成城石井が加わり、外出の自粛を求められる中で唯一の楽しみとも言える〝食〟を充実させられた」と期待を寄せる。
営業再開の決断には「お叱りの声もあるのではないか」(京王百貨店)と危惧したが、客からは歓迎の声が大半だ。「スーパーマーケットの食材だけでは物足りない」と率直な客もいる。売上げも、再開した売場やショップが約7割にとどまり、営業時間(午前10時~午後5時)も従来の約7割に短縮された中、マイナスの幅は3割未満。生菓子の3月の売上げは前年を上回った。京王百貨店は「一定の需要があると証明された」と手応えを掴む。
ただ、楽観はできない。小池都知事が「買い物は3日に1度」と要請した4月23日以降、客足は減少。京王百貨店は「何か施策を打つよりも、まずは食料品のロスが出ないようにするなど、足元を固めていく」と冷静だが、慎重な舵取りが求められる。地域のライフラインとしての役割を、どう全うするか。京王聖蹟桜ヶ丘店の試行錯誤は続く。