地域・沿線に根差すため、エンタメと貢献を軸にスクラム組む東武船橋店とクボタスピアーズ
≪連載≫百貨店とスポーツ団体が描くウィンウィンの構図 第3回 東武船橋店×クボタスピアーズ
地域密着で共存共栄を――。主に郊外や地方に位置する百貨店とスポーツ団体の協業が活発だ。ともに、地域密着戦略が生命線。集客力で勝る大都市の百貨店やスポーツ団体に対抗するためには、地域でのプレゼンスやロイヤルティを高め、〝足元〟を固めなければならないからだ。ただ、単独では限界がある。アライアンスの輪を広げ、共創で新たな〝入口〟を構えなければならない。百貨店とスポーツ団体が手を取り合えば、百貨店にとっては日頃は接点が少ない10代や20代、30代に足を運んでもらう機会となり、スポーツ団体にとっても認知度の向上や新たなファンの開拓などに繋がる。「百貨店とスポーツ団体が描くウィンウィンの構図」では、タッグがもたらす成果を追う。第3回は、東武百貨店船橋店と「ジャパンラグビートップリーグ」に所属するクボタスピアーズだ。2018年用の福袋を皮切りに、体験型のイベントや選手によるデパ地下グルメのPR、ポスターや懸垂幕の掲出などを手掛け、連携を緊密化してきた。
注)コロナ禍を考慮し、2021年1月26日に電話で取材しました
――まずは、東武船橋店とはどんな百貨店か、クボタスピアーズとはどんなスポーツ団体か、自己紹介して下さい。
東武船橋店の販売推進部販売促進課(広報担当)、堀合友美さん(以下、堀合) 「東武船橋店は、地域・沿線のお客様の『マイストア』を目指し、地域に根差した取り組みに力を入れています。地域のスポーツ団体との協業のほか、地元の産品などを販売する『ふなばしマルシェ』も定期的に開催しています。3月には『ユニクロ船橋東武店』がオープンしますが、これまでの百貨店にこだわらず、お客様のライフスタイルの変化に寄り添った店づくりも進めています」
クボタの東京本社人事部企業スポーツ推進課クボタスピアーズ広報担当、岩爪航氏(以下、岩爪) 「1978年に創部したクボタスピアーズは、千葉県船橋市をホームとするジャパンラグビートップリーグに所属するラグビーチームです。『Proud Billboard』(=誇りの広告塔)のビジョンを掲げ、チームの強化はもちろん、地域貢献活動などを通して、強く愛されるチームを目指しています。2020年には東京都江戸川区、千葉県成田市とも連携協定を結び、今年のトップリーグでは両自治体の競技場でホストゲーム(主催試合)を開催する予定です」
「チームとしては、ラグビーワールドカップ2019に出場した日本代表のピーター“ラピース”ラブスカフニ、ニュージーランド代表のライアン・クロッティ、オーストラリア代表のバーナード・フォーリーを擁し、今季はワールドカップで優勝した南アフリカ代表のマルコム・マークスも加入しました。指揮を執るのは、南アフリカの名将として知られ、今季で5年目となるフラン・ルディケヘッドコーチです」
■いつも「一緒に面白いコトを」
――協業に至った経緯を教えて下さい。
堀合 「18年用の福袋がきっかけです。福袋の担当者が17年の秋にクボタスピアーズさんのクラブハウスに足を運び、協力を依頼しました。当店は以前から、プロ野球の千葉ロッテマリーンズさんやプロバスケットボールの千葉ジェッツふなばしさんと福袋などでコラボレーションしており、19年のラグビーワールドカップを控えて認知度が上がっていたクボタスピアーズさんにも白羽の矢を立てました。クボタスピアーズさんも地域貢献に力を入れており、話はスムーズに進んだと聞いています」
「福袋は体験型で、選手と一緒に身体を動かせるようにしました。第2弾の19年用は、内容をブラッシュアップ。『集まれ!筋肉自慢!ラグビー選手と#合トレ福袋』と題し、クラブハウスやホームグラウンドで選手と本気でトレーニングできるようにしました。参加者には、事前にスポーツやトレーニングなどの経験をヒアリング。それを踏まえてグループを分けるなど、誰もが楽しめるように配慮しました。第3弾の20年用は、トレーニングと観戦をセットにしましたが、コロナ禍でトレーニングは断念。購入者には、選手のサインが入ったトートバッグをプレゼントしました。第4弾の21年用では、ラグビーに特有の文化『ジャージ渡し』(=試合で着用するジャージを手渡す)を映像で再現。購入者には、選手のサイン入りジャージと、選手によるジャージ渡しの動画を収めたDVDを送ります」
――ジャージ渡しとは、面白い切り口ですね。
堀合 「岩爪さんは、いつも『一緒に面白いコトをやりましょう』とアイデアを出してくれます。ジャージ渡しも、その中で生まれました。福袋は毎年好評で、抽選になります。特にワールドカップの後の20年用は凄い倍率でした」
――福袋だけでなく、協業の幅が広がっています。
堀合 「18年1月には『ラグビーフェス』を初開催しました。当店は毎年1月、『船橋』をテーマに全館でイベントを展開していましたが、その一環です。メインは屋上での『みんなでラグビー体験』で、選手にラインアウトを体験させてもらったり、選手と綱引きで対決したり、3人制ラグビーに挑戦したり、一緒に身体を動かせるようにしました。ずっと屋上にいる人も少なくなく、子供から大人まで約200人が参加しました。19年1月も『体も心も暖まる!』をテーマに継続。ラグビーやトレーニングの体験、選手と『おしくらまんじゅう』や綱引きで対決など、大いに賑わいました」
「昨年10月には『クボタスピアーズ選手おすすめのデパ地下グルメ』として、近藤英人選手、大熊克哉選手、末永健雄選手、ファウルア・マキシ選手、海士広大選手、髙橋拓朗選手、青木祐樹選手、タウモハパイ・ホネティ選手の8人が『免疫力アップ』をテーマに、発酵食品や高たんぱく食材を使用した“デパ地下グルメ”をチョイス。それぞれが『美味しさ』や『栄養』の観点で推奨品を食レポするとともに、内容を当店のチラシや看板、当店とクボタスピアーズさんのSNSで発信しました。店内では、選手の写真や解説を付けてトレーニングの方法も掲示。選手の推奨品を買い、その写真と食レポを『インスタグラム』に投稿すると、抽選で選手のサインが入ったラグビーボールをもらえるキャンペーンも行いました」
――ラガーマンが推奨するデパ地下グルメには興味津々です。エピソードなどはありますか?
堀合 「夏ぐらいに話し合いが始まりました。コロナ禍で大規模なイベントの開催が難しい中で生まれた企画です。クボタスピアーズさんが選んだ8人に来てもらい、広告媒体を作製する際に使うスタジオで撮影しました。まず、食品売場の各ショップが候補をピックアップ。そこから8人の選手が個々に推奨品を決め、食レポをしてもらいました。外国籍の選手も日本語でコメントしたり、感想を書いてくれたりしましたよ。印象深いのは、立ち会おうと部屋のドアを開けた瞬間です。大きい男性が8人もいて、驚きました(笑)。ちなみに、広報の岩爪さんも元選手で大柄です」
「それはさておき、(クボタスピアーズ選手おすすめのデパ地下グルメは)新たな可能性を切り拓けた手応えがあります。多くの方が、選手が推奨する商品を複数買って、ワンプレートのようにしてインスタグラムに投稿してくれました。私は、ラガーマンと『食』の親和性は高いと感じます。もりもり食べるイメージで、食べ物が映えますからね」
「クボタスピアーズさんはSNSに強く、情報の拡散性も魅力です。逆に当店は、まだまだ弱い。インスタグラムのフォロワーは、クボタスピアーズさん(2月22日時点で約1万3000人)が当店(同じく約1200人)の10倍以上です。百貨店になじみがない人々にリーチできるのも、協業のメリットと言えます。ただし、両者がウィンウィンの関係でないと続きません。当店の立地や組織顧客を、クボタスピアーズさんには役立てて欲しいです」
■「開幕応援フェア」を初開催
――東武船橋店さんは福袋しかり、ラグビーフェスしかり、デパ地下グルメのPRしかり好感触ですが、クボタスピアーズさんとしては、百貨店と協業するメリットを、どう捉えていますか。
岩爪 「船橋市をホームタウンとするクボタスピアーズは、長年に亘り船橋市の皆様に愛される東武船橋店さんとの協業で、より周知に繋がると考えています。また、東武船橋店さんの企画はオリジナリティがあり、親しみやすく、参加しやすいと好評です。『船橋駅で訪れやすく、クボタスピアーズのイベントを通して東武船橋店、船橋市の魅力を発見できた』というコメントも頂戴しています」
「一方で、我々が東武船橋店さんに提供できるメリットは『地元のスポーツ団体を応援することによる一体感』、『試合観戦を通して感動や興奮を味わい、明るく元気になってもらうこと』、『スポーツ選手との交流で夢を持ってもらうこと』、『ラグビーというスポーツが持つノーサイド精神、結束、多様性の尊重といった価値の提供』、『SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けた活動』と捉えています」
――東武船橋店とクボタスピアーズは、今年も新たな企画を打ち出しましたね。
堀合 「コロナ禍では地域密着の重要性が高まると考え、1月9日~27日に『TOBU×クボタスピアーズ 開幕応援フェア』を行いました。メッセージを書き込める『開幕応援ボード』を正面入口に設置したほか、写真展を開き、コンコースには10人の選手のポスターを、北口の壁面にはピーター“ラピース”ラブスカフニ選手の20メートルの懸垂幕を、それぞれ掲出。地下1階ではクボタが運営する実験農場『クボタファーム』の農産物、6階の特設会場ではクボタスピアーズのグッズを販売しました。クボタファームの農産物やクボタスピアーズのグッズを3000円以上買うと応募できる、選手のサイン入りのユニフォームやクボタファームの米『新之助』、千葉県の銘菓などが当たる抽選会も手掛け、活況を呈しました」
岩爪 「コンコースや壁面にポスター、懸垂幕を掲出して頂き、船橋駅の利用者にも大きなPRとなりました」
■弁当のプロデュースやファッションモデルも視野
――東武船橋店として今後、クボタスピアーズと何を実現させたいですか?
堀合 「あくまでも個人的な希望ですが、選手に弁当をプロデュースして欲しいです。ふなばしマルシェでも、クボタスピアーズさんのグッズの販売やブースの設置が実現したらいいですね」
――クボタスピアーズとして今後、東武船橋店と何を実現させたいですか?
岩爪 「選手による食レポや店内放送、ファッションモデル、屋上でのラグビーの普及活動や農業体験、ごみ拾いやパトロールなど地域の課題へ一緒に取り組む施策です」
――――最後に、それぞれの営業や活動に関する目標を教えて下さい。
堀合 「クボタスピアーズさんや千葉ジェッツふなばしさんが地道な地域貢献でファンを増やし、人気チームで在り続けているのは、百貨店も見習わなければなりません。当店のお客様がスポーツ団体のファンに、スポーツ団体のファンが当店のお客様になるようなウィンウィンの関係を築き、地域の盛り上がりをともに創っていきたいと思います。コロナ禍での様々な課題をチャンスと捉え、引き続き地域・沿線のお客様の『マイストア』の実現に向けた取り組みを進めていきます」
岩爪 「まずは、ジャパンラグビートップリーグ2021での優勝です。そして、22年にスタートする新リーグに向け、ラグビーというスポーツの認知度を上げ、価値を広め、クボタスピアーズが近隣地域に根差したチームになれればと思います」
(聞き手・野間智朗)