2024年11月19日

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連載 デジタル販促の巧技―阪急メンズ東京 役立つ情報や機能をアプリに集約

アプリを開くと全景やショップスナップの写真がズラリ。購買意欲を喚起する

リアル店舗での購買体験を、より豊かで快適に――。阪急メンズ東京が昨年12月14日に配信を開始したスマートフォン向けのアプリケーション「阪急メンズ東京アプリ」は、単純に既存のカード「阪急メンズ東京マイレージカード」の電子化ではない。明確な目的、果たすべき役割がある。アプリだからこそ可能な、利便性や快適性の提供だ。

 

財布で嵩張り、忘れたり失くしたりしやすいカードを持たずに済む上、目当てのショップの情報だけを収集したり、ショップの投稿から直感的に好みの商品を見付けたりできるようにした。ショップの利便性も追求。自由に情報を発信できるほか、将来的には顧客が過去に何を試着したか、購入したかなどを画像とともに記録できる機能、チャットなども搭載し、接遇の強化を支援する。ひいては顧客の購買体験を充実させ、来店頻度の向上に繋げる。

 

 

リリースの1年ほど前に、アプリの開発を検討し始めた。阪急阪神百貨店の久保惣之デジタルイノベーション推進室ゼネラルマネージャーは「アプリの開発や情報発信のデジタル化が目的ではない。阪急メンズ東京として、どのようなお客様に、どのような価値を提供していくかを考える中で、1つの手段がアプリだった。これまではカードを使ってきたが、今のお客様に必要だろうか。カードホルダーに対する価値の提供も、優待ばかりで情報発信が少なかった。アプリに切り替えれば、より積極的な情報発信が可能で、お客様の行動も可視化する」と経緯や狙いを説明する。

 

完成したアプリは主に、様々な情報を得られる「阪急メンズ東京ニュース」、約140のショップの商品やコーディネートなどが写真付きで並ぶ「ショップスナップ」、会員証とクーポンを兼ねる「カード クーポン」、フロアやブランド、アイテムから探せる「ショップ検索」、好みのショップを登録できる「Myショップ一覧」、「お知らせ」からなる。

 

全てアプリを立ち上げると表示される画面にボタン化されており、タップするだけで済む。ムダなページの遷移やスクロールは省いた。利用に際しての個人情報の登録も、名前と生年月日、性別に簡素化。気軽に始められるようにした。

 

情報を取捨選択できるのが特長だ。阪急メンズ東京ニュースやショップスナップは情報の保存や絞り込みが可能で、アイテムや色、デザインなどのキーワードから検索できる機能も搭載した。自分で情報を絞り込めるのは珍しい。

 

ショップのページの情報量を増やしたのも工夫だ。大型商業施設のウェブサイトでショップを検索した場合、大半は文字で位置などが表示されるが、全景やショップスナップの写真がズラリと並ぶ。久保氏は「知らないブランドでも、写真から興味を持つかもしれない。文字だけの情報と写真付きでは印象が全く異なる」と、購買意欲の喚起に期待を寄せる。

 

 

販売員起点のアプリでもある。どれほど便利でも、販売員が使いづらければ、情報発信の頻度は上がらず、顧客とのコミュニケーションも増えない。そこで、阪急メンズ東京ニュースやショップスナップは阪急メンズ東京のチェックを受けずに投稿できるようにした(ただし、基本的には画像と名前、価格のみ)ほか、いずれは顧客が過去にどんな商品を見たか、試着したか、買ったかを写真付きで蓄積できたり、販売員がチャット形式で質問に答えたり、商品を取り置いたり、出勤日を伝えたりできるようにする。初めて阪急メンズ東京を訪れた客の半数近くは、2回目も同じショップを訪れる。必然、ショップの接遇や情報発信が固定客の数を左右する。それだけに、販売員をサポートできる機能を整備する。

 

 

カードホルダーの売上げが約6割を占める同店にとって、アプリへのスムーズな移行は急務だが、利用者は順調に増えているという。客や販売員に混乱も見られない。今後は「プッシュ通知を活用していくとともに、『いつアプリを立ち上げたか』、『どこをMyショップに登録したか』など、お客様の行動履歴を基にした販促も研究していく」(久保氏)。

阪急メンズ東京には、明確な課題がある。顧客の来店頻度だ。比率では「1年間に1度」が最も多い。阪急メンズ東京アプリで、それを引き上げる。