百貨店 構造改善の潮流と進度 第2回
百貨店業界では、構造改善が急ピッチで進む。2019年における最大の潮流は、都心、郊外、地方を問わず加速する専門店との融合で、3月5日にグランドオープンした日本橋髙島屋S.C.、9月20日に新装開業した大丸心斎橋店の本館は、その象徴だ。食料品や化粧品など百貨店が優位性を発揮できるカテゴリーの拡充、デジタルの本格的な活用も目立った。特に食料品は売場の新装が相次ぎ、増加する共働き世帯や単身世帯の中食需要や時短需要に対応する。デジタルの活用はインターネット通販の強化に限らず、新たな情報発信拠点の構築、カードの〝アプリ化〟、「RPA」まで多様化しつつある。百貨店が強みとする接客を磨き上げるだけでなく、小売業で人手不足が深刻化する中、それを維持ための「働き方改革」にも、各社は力を注ぐ。2019年の潮流から、20年を占う。
柔軟、効率的に 働き方改革に本腰
人財を守れ―。百貨店業界では、いわゆる「働き方改革」が速度を上げてきた。例えば、営業する日数や時間の変更。名鉄百貨店は2020年4月1日から本店と一宮店に原則1カ月に1回の定休日を設け、東武百貨店は同2月20日から船橋店の営業時間を1~2時間減らす。休みを取得しやすくして、従業員の流出を防ぐ。各社は業務効率の向上にも着手。J・フロントリテイリングは2018年2月期から「RPA」を推進し、20年2月期までに従業員の労働時間を約2万時間削減する。遠鉄百貨店や京急百貨店は、各売場の付帯業務などを請け負う組織を発足。残業の削減に成果を上げている。テレワークの導入や企業内保育所の設置なども含め、人財の囲い込みに余念がない。
テレワークやRPA拡大 付帯業務担う組織が成果
営業の日数や時間の短縮には、従業員満足度を上げて離職率を下げる狙いがある。例えば2019年から20年にかけての年末年始は、大手のコンビニエンスストアやスーパーマーケット、外食チェーンらが営業時間の短縮や休業を決めた。年末年始をゆっくり過ごせるようにして、人財の流出を抑制する。
百貨店業界でも数年来、定休日の導入や営業時間の短縮が相次ぐ。20年は、名鉄本店と同一宮店が繁忙期の7月と12月を除いて休業日を導入。1月と8月には2日間の休みを組み込む。20年3月期の休業日は本店が1日、一宮店は5日で、大幅に増える。東武船橋店は2階~7階を中心に、営業時間を1時間~2時間短縮。利用者が多い地下1階の食料品と地上1階の婦人服飾雑貨は、月曜日のみ終了を午後8時半から同7時半に繰り上げる。
業務効率の向上も、喫緊の課題だ。職務に合った柔軟な働き方の提供や残業の温床である付帯業務の削減、RPAなどが本格化してきた。
柔軟な働き方の提供では、テレワークが広がる。東急百貨店は19年10月1日から11月30日まで、試験的に導入。職務に伴う外出が多い約200人に、親会社の東急が運営する会員制サテライトオフィス「ニューワーク」を提供した。
百貨店業界で働くバイヤーや外商部員らは、外での取引先や顧客との商談が少なくない。東急百貨店では従来、商談が遅い時間に終わっても、一旦は事務所に戻らなければならないケースがあった。時間の空費だ。近年はサテライトオフィスを使用する企業が増え、東急もテレワークを採り入れて業務効率が改善。東急百貨店はサービス残業や不労などが起きないようにルールを明確化した上で、トライアルした。効果や問題を分析し、支障がなければ採用する計画だ。
テレワークは、台風などの自然災害で移動が困難な時、あるいは育児勤務制度や介護勤務制度の利用者にも役立つ。百貨店業界との親和性は高く、各社へ伝播していくかもしれない。
付帯業務の削減では、専任の組織への移管に成果が表れてきた。遠鉄百貨店は18年9月に「営業支援課」を組織。従来は各売場に振り分けられていたレジの業務、催事の応援、後方作業(配送や納品の受け取り、修理品の手配、インターネット通販サイトのページの作成など)、事務作業(各種申請、校正、伝票の処理など)を同課に集約。各売場の社員は接客に充てられる時間が増えたほか、大規模な物産展や中元・歳暮のギフトセンターなどで雇う臨時のアルバイトも減った。ノウハウを学ぼうと訪れる百貨店も多く、百貨店業界における「働き方改革」のモデルケースだ。
京急百貨店も19年10月16日、「マルチラウンド担当」を立ち上げた。17人からなり、主な業務は催事場の運営と各売場のサポート、資材の発注だ。各売場からの応援に頼りがちだった催事場の運営は11人を擁する。習熟した従来の担当者をスライドさせた。中元や歳暮のギフトセンターには短期のアルバイトを雇用してきたが、マルチラウンド担当を活用して、その抑制にも繋げる。各売場のサポートは、例えば多くの訪日外国人客が店内を巡ってショッピングする際に、免税手続きなどを引き受ける。これまでは各売場の販売員が通常の業務を離れて行っていた。資材の発注は各売場からマルチラウンド担当に移管。適正な量を発注して各売場に振り分け、省資源化を図る。
RPAはJ.フロントリテイリングが先行する。2018年2月期から伝票の入力をはじめ、従来は人力だった業務をソフトウェアロボットなどで自動化。削減した業務時間は同期で約4400時間分、19年2月期で約8000時間分にのぼり、20年2月期は約5400時間分を見込む。人件費の圧縮にも繋がるだけに、21年2月期以降も年間で約1万時間分を目標に、業務を自動化していく。
RPAは、パソコンを使ったデータの入力や修正などをロボットに代行させる仕組みで、日本では金融業界や保険業界で活用が加速する。百貨店業界では店舗や取引先ごとに独自のルールがあり、RPAに欠かせない業務の集約化が難航。導入は遅れている。
しかし、J.フロントはグループの事務処理を請け負うJFRサービスを通じ、着実に成功事例を積み上げてきた。白眉は17年に実現させた、大丸松坂屋百貨店の店舗で開催するセールの設定だ。以前は除外する商品、複数の割引率が当てはまる商品にどれを適用するかなどを、担当者が基幹システムに入力していたが、自動化に成功。1年間で約1500百時間分の業務を削減した。
全てのロボットは、JFRサービスでRPAを担当する12人が開発。2カ月間の教育で、技術を身に付けられるという。3分の2は女性で、育児勤務制度の利用者も多い。J.フロントは「ロボットの開発は、時間や場所の制約が少ない。在宅でのテレワークも可能で、すでにテスト中。百貨店の売場では時短勤務が困難な育児中の女性の受け皿としても機能する」とRPAの“付加価値”を指摘する。
育児勤務制度や介護勤務制度の見直し、企業内保育の開設なども含め、働き方改革は道半ば。20年も、一歩ずつ前進させなければならない。