大丸松坂屋百貨店、メタバースでの販売を進化
大丸松坂屋百貨店は、VR(仮想現実)のイベント「バーチャルマーケット 2022 winter」に出展している。期間は12月3~18日。バーチャルマーケットには2020年冬から出展を始め、今回で5回目となる。回を重ねるごとにノウハウが蓄積され、今夏にはVtuberらによるバーチャル接客を導入。今回は定番の食品に加え、寝具やアートの展示販売を始めた。
同社は若年層との接点の拡大や、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を狙い、参入を決めた。20年の冬以降、半年に1回行われる同イベントに参加を続けている。出展ブースには仮想の店舗を設け、商品の3Dモデルを展示。そこから同社のECサイトへ飛んで購入することができる。
開始当初はコロナ禍で店頭の営業もままならなかったこともあり、商品を売るためのチャネルという位置付けだったが、22年度(22年3月~23年2月)に入ってから方向を転換。「当社はVRを、実店舗・ECサイトに次ぐ“第3の商空間”とみなしている。そこでチャレンジを重ね、知見を得る場とした」と本社ギフト企画運営担当の田中直毅氏は述べる。KPI(評価指標)から売上高を外し、入場者数や3Dモデルにタッチしてもらった回数、ECサイトへのセッション数などに設定した。
店舗の在り方も見直した。今夏のバーチャルマーケットでは、アバターによるバーチャル接客を導入。一般のVRユーザーからアルバイトとして15名を採用し、同社のインフルエンサーとして活躍する野﨑瑞穂さんも参加した。「それまでの3回は店舗と商品を用意していたが、そこに“人”がいなかった。百貨店は、しっかりとお客様とコミュニケーションを取って商品を販売する場所。その強みを生かすべきだと感じた」と田中氏は振り返る。
接客スタッフには、VRのクリエーターやVtuberとして活躍している人を採用。バーチャル接客は独自のコツがあり、ある程度のマシンスペックなどが求められるため、VRの世界に慣れている人を基準に選んだ。販売員というより、「お客様と一緒に遊んでもらうアンバサダー」というポジションに位置付けた。常駐はしておらず、1コマ2時間のシフトで、人が多い夜間や土日祝日の午後に入る。
初回となる今夏は、接客された人の感想がSNSで拡散され、多くの「いいね」が付くなど好評を博した。とある人気Vtuberが3Dモデルのアイスを「あ~んする」接客を行い、ECサイト上でアイスが飛ぶように売れるというケースもあった。現実の世界では色々な観点でありえない接客だが、VRならではの楽しさの提供に成功している。
現在開催している「バーチャルマーケット 2022 winter」では、年末年始の食卓向けの食品に加え、同社初となるアート作品、寝具を展示販売する。寝具は「ブレインスリープ」の枕やマットレスなどを用意。VRは目や首の疲労が溜まりやすいため、需要があると判断した。アートは同社が力を入れている領域で、作品の世界観へ入り込める特殊な空間を演出したり、じっくりと間近で見ることができたりと、メタバースならではの楽しみ方を提供する。
バーチャル接客は引き続き、アルバイトとして15名を採用し、田中氏も接客する。田中氏は「単に商品を売るだけであればECサイトがあれば済む。VRはコミュニケ―ションが介在する場であり、上手く活用していきたい」と意気込みを語った。
(都築いづみ)