“集い”や自家需要に照準、高付加価値を競う
新型コロナウイルス禍によって商戦が盛り上がった稀有な例が中元・歳暮だ。外出や帰省を控える代わりに、百貨店業界の各社が販売する“今だけ”の逸品を購入して贈る、あるいは自ら楽しむ人が多く、贈答需要と自家需要の両方が伸びた。今年は行動制限がない状態が長く、いわゆる「イエナカ消費」に一服感もみられるが、各社はこの3年弱で需要は定着したと捉え、品揃えの充実化や独自性の磨き上げに余念がない。とりわけ、集まる機会が増えると予想し、複数人で楽しめる料理の特集が目立つ。依然として伸び代があるインターネット通販(以下、EC)にも力を入れながら、各社は前年実績のクリアを目指す。
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小田急百貨店は「老舗」や「名店」、テーマパークの開業や来年の大河ドラマの舞台で注目が集まる「愛知県」などを切り口に、百貨店ならではの高付加価値を追求する。目玉は「『うなぎしら河』ひつまぶし」(1万660円)。名古屋を代表する名店のひつまぶしを、だしや薬味とセットにした。「宮崎県の指定養鰻場で育った、程よく脂が乗ったうなぎを、秘伝のたれで香ばしく焼き上げた」という。
品揃えは約1500点。ECでは、対象商品の1万円以上の買上げで500円のクーポンを渡したり、プレゼントが当たるキャンペーンを実施したり、特典を用意して購買意欲を喚起する。「昨年の歳暮、今年の中元も継続してECは伸長しており、今回もカタログや各種媒体で『全品全国送料無料』のメリットをアピールする。ECは10月20日にスタートしたが、洋菓子や和菓子が好調で、全体でも前年を上回る推移」という。
京王百貨店は「贈る、伝わる、京王のギフト」をテーマに、ギフトカタログの巻頭では新宿店で長く愛され続けてきた老舗の自慢の逸品、こだわりの食材を特集した。「自身が日頃好んで食べている、ご褒美に購入している、子供の頃から親しみがあるなど、『お気に入りの名店のグルメを大切な人に知ってほしい』、『おいしさや楽しさを分かち合いたい』といった気持ちをくすぐるギフトを提案する」(同社)。目玉は「『浅草今半』黒毛和牛 サーロインステーキ」(1万1880円)で、ギフトカタログには約1020点を掲載した。
ECは前年より約50多い1350点で、うち約670点が全国送料無料。EC限定として、長期の保存や時短調理が可能な冷凍食品や缶詰など、防災備蓄品を特集した。点数を増やすだけでなく、例年より11日早い10月8日にスタート。「店頭にはない送料無料や送料込みの商品の打ち出し、京王パスポートカードのポイントプレゼント、新規会員登録での500円引きクーポンの配布なども行い、ECを長期的な視点で強化していく」方針だ。
そごう・西武は「集いのグルメ」にフォーカスした。同社は「歳暮は年々カジュアルギフト化が進む上、(コロナ禍の一段落で)今年は年末年始に集まる機会が増えると予想される。『みんなの冬グルメ』をテーマに、集いの機会にピッタリなカジュアルギフトや鍋料理などを特集し、新しい歳暮を提案する」と狙いを明かす。
品揃えはギフトカタログが約1937点、ECが約1900点。目玉は「『分とく山』川俣シャモの軍鶏鍋」(1万800円)で、分とく山の野﨑洋光総料理長が監修した。「程よい弾力のある肉質や、口の中でにじみ出るコクとうま味が自慢」という。
店頭もECも買上げ特典を用意し、利用を促す。「従来の歳暮とともに集いのグルメを特集し、新しいお客様を開拓する」(同社)
大丸松坂屋百貨店は、スイーツと生活必需品に商機を見出す。スイーツでは、限定や百貨店における実績がない、あるいは少ない商品を充実化。生活必需品は“値上げラッシュ”を背景に需要が高まるとみて、調味料やコーヒー、ビール、菓子のバリエーションを増やした。
ギフトカタログでは約1980点、ECでは約2900点を掲載。ECは1万800円以上の注文で1000円分のクーポンを利用できるようにするなど、販促にも力を入れる。歳暮商戦の売上げ目標は前年比2%増。
高島屋は「年齢を問わずに喜んでもらえる商品を多数用意した。贈答用だけでなく、自分で、友人や家族と楽しむ提案も強化しており、北海道駐在バイヤーがいるからこその『北海道特集』に期待する。ギフトとしてだけでなく、自分でも食べてみたくなる、誰かに教えたくなる魅力的な商品を紹介できた」(同社)という。
目玉は「『パフェ、珈琲、酒、佐藤』おうちでシメパフェセット2人前」(送料込み、5774円)。“シメパフェ”を代表する北海道の名店で1番人気のパフェを自宅で体験できる。
品揃えはギフトカタログが約2000点、ECが最大で約4800点。ECは買上げ特典を用意して利用を促す。
歳暮商戦については「行動制限がない見通しで、友人や家族と一緒に過ごす場面が想定される。その場面を盛り上げる、一緒に楽しめる菓子や惣菜などのニーズが高まるのではないか。物価上昇に伴い、調味料などデイリー商材の動向にも注目している。デジタルカタログおよび当社のギフトの認知度を上げるため、アプリでのキャンペーンなども行い、新たなお客様の獲得を目指す」という。
東急百貨店はECを強化した。オンラインでもページをめくりながらギフトを選べるように、カタログをデジタル化。ワンクリックで購入用のページにつながるなど、利便性にも優れる。ECだけでなく、郵送やFAX、電話での注文も約1500点が全国送料無料で、ECが苦手な人も取りこぼさない。
東武百貨店のテーマは「心をつなぐ、ありがとう」で、技と知恵を駆使した“入魂の一品”を揃える「逸品伝心」の「いちご特集」や「長崎特集」をメインに、需要を引き出す。歳暮商戦の目玉は「『アンジェリーナ』アンジェリーナセレクション」(3000円、4000円、5000円)で、復刻商品である「マロンサンドショコラ」を詰め合わせた同社限定だ。
ギフトカタログには約1800点、ECは昨年より約160点多く掲載。EC限定は67を数え、鍋料理や回線、惣菜、乾麺、和洋菓子などからなる。ECは問い合わせ環境を整備し、法人を含めて外商顧客の誘導にも注力する。
歳暮商戦については「コロナ禍が収束に向かう中、家族で楽しめる商品は引き続き人気。帰省者も多いと想定され、カジュアルギフトが売れるのではないか」とした。
松屋は「みんなが集まる年末年始に喜ばれるギフト」をテーマに、とりわけ家族や友人と一緒に楽しめる商品を提案する。昨年の売上げが前年の2倍近かったECは、品揃えの拡充に加え、期間を前年より長くしてさらなる伸長につなげる。そのECの目玉は「『ギンザフローズングルメ』銀ぶらセット」(1万1212円)で、「みかわや」のポークカツレットやチキンソテー、「日東コーヒー」のロールキャベツ、「ピエスモンテ」のチーズケーキを詰め合わせた。文字通り銀座の名店の料理を味わえるEC限定商品で、送料無料。
ギフトカタログは約2000点、ECは前年より24多い約1600点を掲載し、前年と同等の売上げを狙う。歳暮商戦については「ECの強化を継続する。8月末に銀座店にオープンした冷凍食品の売場、ギンザフローズングルメから8点を扱い、『選べるギフト』も買えるようにした。全体としては、歳暮は必要で買う方がほとんどで、帰省や旅行などの影響はないと考える」という。
三越伊勢丹は「みらいへつなぐ贈りもの」をテーマに、時代や地域、人をつなぐ商品を展開する。例えば、世界農業遺産に認定される「静岡県の茶草農法」の茶葉と「国東半島宇佐地域」の椎茸にフィーチャー。2016年に始めた国立博物館や東京国立近代美術館とのコラボレーションでは、今年で創立150年を迎える東京国立博物館と企画した商品を提案する。
そのほか、三越と名店が「次のスタンダード」を目指し新しい味やスタイルを追求する「美味競演」、伊勢丹の目利きと職人の手法、伝統と革新、異なる食文化や食材を掛け合わせる「ISETAN FUSION」から、冬のホームパーティーやクリスマスに最適な商品が登場。災害に備えた缶詰やレトルトの食品なども特集した。
ギフトカタログは約2000点、ECは約2400点を揃え、売上げは“前年超え”を目指す。
近鉄百貨店は「特別感があり、見た目にもこだわったスイーツを特に強化した」(同社)。バイヤーが厳選した限定品が多彩で、あべのハルカス近鉄本店に9月にオープンしたブランドも初登場。中元の売上げが前年比22.8%増と好調だった自宅用も、スイーツを充実させた。
ギフトカタログもECも約1600点を掲載し、SDGsをテーマにした商品、ビールやジュースなど20点からなる歳暮の定番が送料無料となるサービス「近畿2府5県送料無料」なども交え、前年実績のクリアを狙う。
京阪百貨店は「心が近づき、ぬくもり伝わる、京阪百貨店のお歳暮」がテーマ。ギフトカタログもECも約1500点を掲載し、52点の「バイヤー推奨ギフト」をメインに訴求する。目玉は「『岡山・新見 蝶鮫屋』キャビアバター&チョウザメスモークセット」(1万260円)だ。ECは新たに10月13日~11月30日の期間、「近畿2府4県送料無料」を実施。対象は30点を数える。
歳暮商戦については「受注はECが減少、店頭が増加を見込む。行動制限がなく、店頭回帰の傾向が窺える。物価高騰のあおりを受け、嗜好品よりも日常品を贈る傾向も強まると予測する」という。
阪急阪神百貨店は例年と同様、のれんごとに独自性を追求。阪急からは、生産者の思いが詰まった産品を集めた「Hankyu PLATFARM MARKET」が、中元に続き1冊のカタログで登場するほか、コロナ禍が一段落する中、皆で楽しめる料理の提案を強化した。販路の拡大にも着手。関西スーパーの5店舗で、阪急の歳暮の案内をスタートした。
阪神は、梅田本店が4月6日にグランドオープンして以降、いわゆる「食の阪神」としての提案を磨き上げてきたが、歳暮商戦では改めてバイヤーが伝えたい商品を特集するとともに、食の魅力を探求する「食祭テラス」で開催するイベントに関連した提案など、独自性を深化させた。
阪急は定番のギフトが並ぶ「赤いギフトカタログ」に約1000点、こだわりのギフトが一堂に会す「青いギフトカタログ」に約500点、数量限定品を集めた「プレミアムフードギフト 36のおいしいもの物語」に36点、物語のあるギフトに特化した「阪急プラットファームマーケット ギフトカタログ」に約30点を、阪神は定番のギフトが並ぶ「きいろのギフトカタログ」に約1000点、こだわりのギフトを収めた「みどりのギフトカタログ」に約450点を、それぞれ掲載。ECは赤いギフトカタログ、きいろのギフトカタログに対応しており、10月20日~12月22日に注文すると10%オフとなる(清酒やワインなどは5%オフ)。
売上げ目標は、阪急うめだ本店が前年比2%増、阪神梅田本店が同5%増。
(野間智朗)