2024年11月19日

パスワード

購読会員記事

大丸松坂屋百貨店の「明日見世」、第5弾は原点回帰 出会いの循環に的

第5弾のテーマは「持続可能をかんがえる」。19のブランドで構成する

大丸松坂屋百貨店が大丸東京店の4階に構える「明日見世(asumise)」は9月21日、「持続可能をかんがえる」のテーマの下、第5弾をスタートした。10月で1周年を迎え、原点であるコンセプト「“出会いの循環”から新しい可能性を生み出す場」に立ち返りテーマを設定。出店する19のブランドは、「植物から生み出す」、「循環させる」、「無駄なく使う」、「長く使う」と4つの視点から選定された。いずれも、サステナブルでストーリー性のあるアイテムを揃える。期間は12月13日まで。10月5~18日には1周年を記念したイベントも開催する。

秋らしいカラーバリエーションも、売場に映える

第5弾は、ファッションのブランドが最も多く出店。京都の季縁(キエン)が不用な着物をアップサイクルしてドレスに仕立てた「キモノヌッテ」、廃棄されていた魚の皮を加工して生み出した高知の興洋フリーズの「Ocean Leather」、ガブリが手掛けた天然由来の空気触媒で抗菌、防臭などの加工を施したジェンダーフリーデザインのTシャツ「Défilé(デフィレ)」など9ブランドが集う。

意外な素材を使用したアイテムなど、サステナブルなストーリーが勢揃いする

次いでライフスタイルが6ブランド揃う。静岡の演造(エンゾウ)による職人の手仕事で4通りに形状変化できる木製のPCスタンド・書見台「組格子」や、昭和2年に籐家具の製造で創業した大阪のカナタ製作所が手掛ける家具ブランド「SWITCH」などで、一つ一つのアイテムに職人の技術が光り、長く愛用されることを目的としている。

「haus(ハウス)」のスキンジェル。ヒノキの心地良い香りと質感が楽しめる

化粧品は4ブランド。宮崎県・延岡に本社を置くトレードレーベルが手掛けるのはスキンジェル「haus(ハウス)」で、間伐材や端材のヒノキから抽出したオイルを使用してつくられた。同社は、ヒノキ専門の製材を営む親会社を持つ。宮木健二執行役員兼クリエイティブディレクターは、「製材過程で出た大量の端材を何かリユースできないかと考えた。アロマ製品はすでに市場に多く、もうひとひねりして化粧品をつくろうと思った」と開発の経緯を語る。抽出したオイルは、芳醇な香りと延岡産ヒノキにしかない美しい“赤み”が特徴。「想像以上に良質なオイルが採れた」(宮木氏)。しかし化粧品をつくるノウハウがなかったため、OEM事業を手掛ける化粧品メーカーと相談を重ねること1年少々、構想から約3年を経て完成した。ヒノキを使用したボトルキャップは、障害者福祉施設に製作を依頼。「自立支援や雇用の創出につながれば」(宮木氏)と、社会貢献への役割も果たす。

「EUDITION(ユーディション)」のフェイスオイルは、贈り物にも適したパッケージデザイン

スイロが手掛けるフェイスオイル「EUDITION(ユーディション)」も、九州に生息する稀少な素材によって誕生した。鹿児島県東南部に位置する肝付町・岸良(きもつきちょう・きしら)は、日本有数の原生林が広がり、豊かな土壌と水に育まれた植生が残る。ここで穫れる柑橘が「辺塚(へつか)だいだい」、岸良の固有種である。スイロの岡田麻李CEO兼ブランドディレクター(以下、岡田氏)は、辺塚だいだいと出会った時のことを「宝物を見付けた気がした」と振り返る。昔から住人の食用や加工品としてのみ収穫され、不用な果皮と枝葉は破棄されていた。「雄大な自然の中で何百年と残った日本のもの、またそこで暮らす人達がもう少しだけ豊かになれるよう光を当てたかった」(岡田氏)。そこで果実の持つ抗菌、抗酸化作用の成分に着目。農家の生産作業に新たな負担をかけずに量産するため、植物療法士の森田敦子氏に協力を依頼し、酵母で培養し原料となるエキスの抽出に成功、商品化を果たした。

明日見世が提供するのは、ブランドの背景にあるストーリーを“共有”する場。アンバサダーの池澤寛樹本社経営戦略本部DX推進部デジタル事業開発担当は、「訪れたお客様への提案に、自分の視点をプラスすることでさらに喜んで頂ける。自分のファンのお客様ができて、来店動機にもつながる」と、現場だからこそ得られる確かな実感を口にする。

明日見世は、D2Cブランド向けのショールーミングストアとして昨年10月にオープン。3カ月ごとにキュレーションを行い、各テーマに沿ってブランドを入れ替えてきた。1月には売場にAI顔認証ソフトウェアを導入。データ分析による改善策を講じ、20~30代の新しい顧客層の取り込みに成功した。プロジェクトリーダーの廣澤健太本社経営戦略本部DX推進部デジタル事業開発担当は、「“必要な無駄”も試して、売場づくりを行ってきた」と話す。7月には、大学生が化粧品のブランディングに取り組む、初の産学連携プロジェクトを実施。トライアルの手を緩めない。

(中林桂子)