2024年11月19日

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郊外店が子供領域に注力、環境整備やサービス施設も【ベビー・キッズ特集】

今年3月に移設改装した、東急たまプラーザ1階の子供服売場

郊外型百貨店が、ベビー・キッズ領域に力を入れている。東急百貨店たまプラーザ店は今春に子供服売場を1階へ移設改装。同吉祥寺店も、夏に子供服売場をリニューアルした。東武百貨店船橋店は昨年から、幼児教室や歯科医など、子供向けサービスの施設を導入している。百貨店にとってベビー・キッズ領域は、次世代の新客を取り込む強力なフックだ。子供服に加えてサービスや設備など、様々な部分を充実させて来店を誘う。

ここ数年の百貨店のトレンドと言えば「美・食・高額品」で、とりわけ直近は富裕層による高額品やラグジュアリーブランドの購買が盛んだ。日本百貨店協会の発表によると、ここ数カ月の美術・宝飾・貴金属の売上げは、2019年を超える月も少なくない。しかし、それらの品揃えは都心店が圧倒的に優位で、郊外や地方の百貨店は独自の戦略が求められる。こうした背景もあり、ファミリー層が多く居住する東京近郊では、ベビー・キッズを拡充する百貨店が増えている。


西川 ミキハウスの最高品質ライン

「ゴールドレーベル」好発進


東急たまプラーザ店、1階へ移設 ベビーカーや祖父母の客が増加

今年3月に改装した東急百貨店たまプラーザ店のベビー・キッズ売場は、好調が続く。5階から1階に移設し、面積は縮小したものの、ベビーカー連れや高齢者の客が増加。売上げも順調で、前売場を上回る推移を見せている。

リニューアルでは既存の「ポロ ラルフ ローレン チルドレン」、「ミキハウス」、「メゾピアノ」、「おもちゃ For kids’ by こぐま」(以下、こぐま)などに加え、「オグラ眼鏡店/こどもメガネアンファン」、「ポール・スミス ジュニア」を導入した。子供靴は、同時期に再編した隣の婦人靴の自主編集売場で扱う。

この移設の背景には、同店を取り巻く環境がある。周囲には幼稚園や認定保育園、小学校、中学校が多く、横浜市の発表によると、2020年1月時点の青葉区の年少人口(15歳未満)は、市内18区中2位。年少人口比率は3位だ。この商圏住民を取り込むきっかけとしてベビー・キッズに着目し、1階での展開を決めた。さらに、ベビーカー連れなどの客の利便性を高める狙いもあった。

売場面積は、5階の約半分に縮小。5階の売場にあった、ベビーカーや抱っこひもなどベビー用品雑貨を集めた自主編集売場は廃止した。しかし、こぐまでベビー用品やランドセルの取り扱いを始め、子供用メガネが豊富なオグラ眼鏡店/こどもメガネアンファンを誘致するなど、単なる移設縮小に留まらない売場をつくり上げた。

こぐまでのベビー用品の取り扱いについて、MD統括室リーシング部伊原美也子統括バイヤーは「ベビーカーなどは5階で売上げが良く、それを落としたくなかった。(こぐまを運営する)仔熊と話し合いを重ねて、実現にこぎ着けた」と明かす。売場の面積は限られるが、売場に無い商品も電子カタログで案内し、メーカーの倉庫から客が指定する住所へ直接配送するシステムを構築することで、解決した。

子供靴は、隣の婦人雑貨売場の婦人靴コーナー内に組み込んだ

オープン後は、初日からベビーカーの客が多く訪れ、「ベビーカーで来られるからありがたい」という声が寄せられている。「やはりお客様は、上らなくてよい売場の方が来店しやすいのだと実感した。現在(9月2日時点)も、5階の頃よりベビーカーのお客様を多く見かける」と伊原氏は語る。祖父母世代や三世代の客も増え、購買単価も上昇傾向にある。7~8月はクリアランスの影響もあり、売上げは大幅に予算を上回った。前売場対比でも1.5倍以上で推移し、フロアの効率化に大きく寄与している。

こぐまのベビー用品やランドセルも反応がよく、直送サービスも定期的に利用されている。ただし、直送サービスは、売場にある商品の色違いの注文が多いという。「やはり、お子様が使うものは実際に見て試した商品を使いたいのだろう」と伊原氏は指摘する。

現在の課題は、売場の認知度の向上だ。1階に移設したとはいえ、まだその存在を知らない人も多い。今夏は子供向けの様々なイベントを実施し、中でも自由研究向けのワークショップを行った「夏休みキッズウィーク」は、500組以上が参加するなど盛況を呈した。今後も集客と認知度のため、様々なイベントを仕掛けていく。

 

東急吉祥寺店、新ブランドで独自性のある売場に

東急吉祥寺店も、今春に子供服売場を改装した

同じく東急百貨店では、吉祥寺店も子供やファミリー層の獲得に傾注する。5~7月の改装で6階の子供服売場をリニューアルし、「センスオブワンダー」、「ドレッサージュ」、「blossom39」、「kitikate」を新たに導入。9月には学生服の「ベンアンドベン」がオープンした。

トルコ発のkitikateは海外ブランドならではの色使いとデザインが特徴で、ベンアンドベンはラグジュアリーサロンのような店装で特別感を演出するなど、他にはない特色のブランドをセレクトした。「他の百貨店もショッピングセンターも、魅力的な売場をつくるため様々な施策を講じている。それに負けないよう、独自性のある売場にしていきたい」(伊原氏)。

同店は屋上を「太陽の広場」として開放したり、「紀伊國屋書店」で子供向けの洋書を増やしたりと、子供服売場以外でも子育て世代の集客に取り組む。中でも屋上は、連日ベビーカー連れの親子が訪れるなど、地域の憩いの場となっている。コロナが落ち着いたらイベントも開催する意向で、地域における存在感をさらに高めていく。

 

東武船橋店、幼児教室や歯科医院で定期的な来店を促進

「パール小児歯科」は子供が遊べるスペースやテレビもあり、楽しく通える

東武百貨店船橋店は、子供用サービスの店を増やしている。昨年から写真館「スタジオマリオ」、幼児教育の「ミキハウス キッズパル」、「パール小児歯科医院」を導入。こうした施設を基点に、子育て世代の定期的な来店や買い回りを促進する。

船橋市は人口の増加が続いており、マーケットとしては恵まれているものの、「ららぽーとTOKYO-BAY」など周辺には多くの商業施設が並ぶ。駅前に構える東武船橋店は顧客の高齢化が進んでおり、沿線の30~40代を獲得する施策に取り組んできた。

そのうちの1つが、子供向けサービスだ。昨年7月にスタジオマリオ、今年4月にミキハウス キッズパルを5階に導入。7月にはパール小児歯科医院を4階にオープンした。パール小児歯科医院はポップでカラフルな内装で、子供が遊ぶスペースを設けるなど、子供が楽しく通える施設となっている。こうした施設は定期的に通う必要があるため来店頻度が高まるうえ、1度来ると「じゃあ今日の晩ご飯はデパ地下で」といった風に、他の売場での買い物が期待できる。

実際、パール小児歯科医院の来院客に食品売場で使えるクーポンを配布したところ、かなりの利用があり、客からは好評を博している。「他にも、写真館や教室を利用すれば、そこからお子様向けのフォーマルウエアを買うという流れも出てくるだろう。まずは店に来てもらうことで、次につなげていきたい」と取締役執行役員田嶋潤也店長は手応えを掴む。

各施設の認知度や集客力は少しずつ高めていく考えだが、昨年にミキハウス キッズパルが開催した私立小学校の受験向け説明会は、約130組の客が訪れるなど、大きな反応があった。「子供の教育への関心が高まっていることを改めて実感した。他の種類の幼児向け教育の導入もいいかもしれない」(田嶋店長)。

昨年8月には、7階のレストラン街に個室型のベビーケアルーム「mamaro(ママロ)」を設置した

商品やサービスだけでなく、設備にも気を配る。昨年、7階のレストラン街に個室型のベビーケアルーム「mamaro(ママロ)」を設置。4階の屋上スペースを親子向けの空間にする計画も進行している。同店の子供がいる社員にヒアリングしたところ、「2歳頃の子供を買い物に連れて行くときは、遊ばせる場所がほしい」という声が挙がり、そこから企画されたという。「親御さんだけでなく、お子様が『遊びに行きたい!』と言うような、楽しく過ごせる店にしたい」と田嶋店長は語る。

 

親子連れで過ごしやすい空間が強みに

いずれの百貨店も、商品やサービスと並行して、設備や環境の整備を進めている。ベビーカーや幼い子供を連れて買い物に行くのは、気苦労が絶えない。しかしそれだけに、親子でも買い物しやすい、むしろ楽しめるような環境を用意すれば、強力なアドバンテージになるだろう。“ファミリーファースト”な店づくりは、新客の獲得に加えて、来店頻度の上昇にも期待ができそうだ。

(都築いづみ)