増える、本と楽しい商業施設 カルチュア・コンビニエンス・クラブの中林企画営業本部長に聞く(上)
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下、CCC)は多彩な事業を手掛けている。蔦屋書店やTSUTAYAの店舗は街中でよく見かけるが、そのほかにも柱となる事業がいくつもある。TカードやTポイントを中心としたデータベースマーケティング事業、出版事業、T-SITE事業、シェアラウンジ事業、そして図書館・公共施設の指定管理事業(指定管理・委託事業)などだ。CCC全体では“カルチュア・インフラを、つくっていくカンパニー。”をミッションとしている企業だ。今回クローズアップする図書館・公共施設の指定管理事業にしても、「図書館」を柱にして「市民活動支援」、「賑わい交流施設」、「創業支援」、「美術館」の5つの事業が推進されている。そこで、まず図書館・公共施設の指定管理事業の取っ掛かりとなった佐賀県武雄市の「武雄市図書館」との取り組みと成果、その後の進展状況を中心に、CCC公共サービス企画Company 企画営業本部長の中林奨氏に聞いてみた。
──武雄市図書館はCCCが指定管理者となって、これまでの図書館のイメージががらりと変わり、大変話題になりました。
CCCが市立図書館である武雄市図書館に関わるきっかけとなったのは、代官山にオープンした私どもの「代官山 蔦屋書店」に視察に来られた当時の佐賀県武雄市長からオファーを頂いたことが始まりです。我々にとっても図書館は初めての挑戦となりました。リノベーションして中身を大きくつくり変え、2013年4月1日に改装オープンしました。
──CCCが運営している蔦屋書店のような民間の書店と、地方公共団体による公共図書館とでは、施設やサービス、環境など運営方法も違うのでしょうね。
書店で当たり前のことが図書館では当たり前でないことが数多くありました。図書館の館内ではコーヒーが飲めなかったり、毎週何曜日が休館だったり、開館時間も違いましたね。
我々CCCとしては、市民の誰もが利用したくなる図書館をつくろうと、年中無休で開館時間も午前9時から午後9時までとし、館内に書籍や文房具・雑貨の販売をする蔦屋書店と、公共図書館で初の出店となるスターバックスを立ち上げました。
ほかにも開架蔵書を20万冊にし、席数も約280席に増やし、ライフスタイル別陳列を採用するなど「代官山 蔦屋書店」のノウハウを注入して、これまでにない図書館が実現できたと自負しています。
──指定管理者となって初めて手掛けた図書館の成果はいかがですか。
それまで25万人だった年間来館者数が約92万人に増えました。話題性もあって、市民のための図書館である武雄市図書館に、約1時間も離れた福岡県などの県外からも訪れるようになっただけでなく、コロナ禍になる以前は韓国や台湾などのアジア圏からもいらっしゃいました。ここ武雄市には武雄温泉があり、隣町には有田焼や伊万里焼などの産地もあるので、武雄市図書館も観光ルートに選ばれ、観光バスで訪れて館内のカフェなどを利用されています。
──図書館から子供の部分を独立させ「武雄市こども図書館」をオープンさせています。
武雄市図書館・歴史資料館の隣に別館を建て、17年10月1日に開館しました。地方都市の多くが人口減少傾向を辿っていることを踏まえ、武雄市こども図書館としては子育てしやすい環境をつくることを第一に、子供達がいつでも楽しみ学べる場として、知育玩具で遊んだり、イベントを開いたりして、本以外でも学びができるようにしました。
──その後、武雄市図書館で新しい動きはありますか。
武雄市とは本(図書館)で関わりを続けてきましたが、新たに街づくりのお手伝いも始まりました。武雄市、武雄市観光協会と協働させて頂き、観光交流センターを手掛けます。西九州新幹線(武雄温泉~長崎間)の開業が9月23日に予定されており、武雄市に新幹線駅ができ、武雄温泉駅が長崎への乗り換え駅となります。この武雄温泉駅にある観光案内所を拡大し、お土産を販売できるようにして、新幹線開業前に完成させる計画です。
──武雄市図書館の指定管理者となって10年近く経過します。その間に他の都市の公共図書館にもCCCの指定管理事業が広がっているようですが。
現在、CCCは9つの公共施設の運営管理をしています。武雄市図書館に続いて2番目に首都圏初となる神奈川県海老名市の「海老名市立図書館」が15年10月に改装オープン。続いて宮城県多賀城市の「多賀城市立図書館」が16年3月に、岡山県高梁市の「高梁市立図書館」が17年2月に、ともに移転・新築オープンしました。18年2月には山口県周南市の徳山駅前に「周南市立徳山駅前図書館」が新設、同じ年の4月には宮崎県延岡市に延岡市駅前複合施設「エンクロス」がオープンしました。
加えて和歌山県和歌山市には、南海電鉄和歌山市駅前の大型複合施設に「和歌山市民図書館」が20年6月に移転・新築オープン、香川県丸亀市には「丸亀市市民交流活動センター『マルタス』」が21年3月に開館。そして今年4月、熊本県宇城市の「不知火美術館・図書館」がリニューアルオープンしました。
このように、これらの市の施設が改装・新規・移転オープンしたのに合わせ、CCCが指定管理者となり、市とパートナーシップをとって運営しているということです。
──これらの施設は、それぞれ特徴がありますか。
多賀城市立図書館のある多賀城市は、東日本大震災で津波が発生し街の一部が被災しました。同図書館は被災は免れたものの老朽化していたことから、JR多賀城駅周辺の中心市街地整備事業で図書館を中核施設とした複合施設が完成。多賀城市立図書館は震災復興のシンボルとして立ち上がりました。東北で初めて年中無休とし、座席数を299席(複合施設全体で400席)、蔦屋書店、スターバックス、コンビニ、カフェ&レストランを加え、滞在型図書館を実現しました。
高梁図書館の場合は、JR備中高梁駅に隣接して駅と図書館が一体となった複合施設となっています。ここには備中松山城があり観光地でもあるので、図書館の運営だけでなく観光案内も手掛けています。施設の入口には観光案内とお土産のコーナーを設けました。
山口県にある周南市立徳山駅前図書館も建物が駅と一体化しています。館内は図書館と周南市徳山駅前賑わい交流施設が一緒になっており、ともにCCCの運営です。イベントは我々が企画して地元の方々と共同で具現化し、蚤の市、ビアフェスタ、マルシェ、お祭りなど多彩な催しを文化交流施設で展開しています。
──南海電鉄の和歌山市駅前にある和歌山市民図書館の施設は規模が大きいですね。
武雄市図書館のある武雄市は人口が約5万人、対して和歌山市はおよそ32万人ですから、図書館も必然的に大きいです。ここは市と南海電気鉄道が和歌山市駅前に開発したオフィス棟、商業棟、ホテル棟と公益施設棟などからなる大規模複合施設で、公益施設棟に入る和歌山市民図書館を我々が運営しています。1階にスターバックスと蔦屋書店、2階に郷土作家の有吉佐和子文庫、3階に移民資料室、4階に地域子育て支援室を設けており、屋上も飲食ができ、読書を楽しめる環境になっています。
市民活動の盛んな公共施設もあります。JR延岡駅前にあるエンクロスです。エンクロスは街に賑わいを創出するための中心市街地活性化を担って建てられた施設で、自治体側が市民の力、市民の活動によって賑わいをつくり出します。指定管理者である我々は蔦屋書店とスターバックスを利用できる「BOOK&CAFE」をはじめ、365日年中無休、朝8時~夜9時までの開館といったCCCのノウハウを取り込んだ新しい形の公共施設として、市民の皆様と一緒に地域活性化を果たすことが主眼です。我々が運営している図書館は、いずれも我々が企画してイベントを仕掛けていますが、ここでは市民の方々が自ら当たり、我々はサポート役に回っています。
(聞き手:塚井明彦)
(後編ではCCCが提案する指定管理事業の取り組み内容や図書館づくりの特徴を掲載します)