2024年11月19日

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松坂屋上野店、本館7階にアートゾーン

レンタルスペースを兼ねる「アートスペース」。2週間単位で入れ替え、若手のアーティストの育成に役立てる

松坂屋上野店は16日、アートを取り扱うゾーンを本館7階に開いた。「美術画廊」、「アートギャラリー」、「アートスペース」からなり、美術画廊では現在の美術界を代表する名作や名品を、アートギャラリーでは日本画や洋画、彫刻、工芸など幅広いジャンルを、アートスペースでは美術大学生をはじめ若手のアーティストを、それぞれ紹介。アートのビギナーからマニアまで受け入れられる態勢を整えた。同店が居を構える上野には、東京都美術館や上野の森美術館など多くの美術館、東京藝術大学のキャンパスがあり、「アートの街」として知られる。そのアートを強化し、集客力の向上や地域貢献に繋げる。

美術画廊は以前の「画廊」に比べて、面積が約2倍に広がった

アートゾーンは240平米余りで、従来の「上野が、すき。ギャラリー」と「画廊」を移設・拡大するとともに、レンタルスペースを兼ねるアートスペースを新設して完成した。松坂屋上野店の渡辺智邦店長は「目的は3つある」と説明する。

「コロナ禍でライフスタイルが変化し、アートは『心を潤す』として価値が上がった。売上げにも反映されており、当店の2021年度上期(昨年3~8月)の美術関連品の店頭売上げは、『ビフォー・コロナ』の19年度比で81%増。旺盛な需要に応える必要がある。もう1つは上野の『アートの街』というブランディングに貢献する。『街の画廊には入りづらい』という声は多く、当店がアートの間口を広げるための場を担いたい。最後に、顧客満足度と来店頻度の向上、そして新しいお客様の開拓。アートスペースを拠点に若手のアーティストを育成し、東京藝術大学との連携も強め、Z世代を呼び込みたい」

勝算もある。大丸松坂屋百貨店の荒川知二本社営業本部MDコンテンツ開発第1部専任部長アート担当は「松坂屋上野店の画廊は、実は縮小傾向だったが、昨年初めて『ヤングアーティスト公募展』を開いたら、学生をはじめ若い人が多く来て、売上げも好調だった。アートに特化すれば、若い人も当店に足を運び、隣接する『パルコヤ』との相乗効果も発揮できる」と強調する。

オープンに際して、美術画廊では「未来へ 村上裕二 日本画展」を22日まで、アートギャラリーでは「美しき刻一賛美抄歌 守みどり日本画展」を22日まで、アートスペースでは「藝大100ドロ展」を29日まで、それぞれ開催。藝大100ドロ展の“100ドロ”は、美術学部デザイン科の1年生が初めて課される「100枚ドローイング」(=100枚の絵を約1カ月で描く)に由来し、45人による4500の作品から厳選した400枚以上を展示中だ。

日本画や洋画、彫刻、工芸など幅広いジャンルを扱う「アートギャラリー」

東京藝術大学の押元一敏美術学部デザイン科大学院美術研究科描画・装飾研究室准教授は「展示の話は1カ月ほど前に来たが、松坂屋上野店とは以前から定期的に協業してきた。生徒も『外で作品を発表したい』と望み、藝大100ドロ展の開催を決めた。生徒が入学して間もない頃の絵を展示しており、本来なら“見せられる作品”ではないが、多くの人の目に触れると意識が高くなるし、見た人も生徒がどんなことをやっているのか、どんな風に“世界”を見ているのかが分かる。生徒には、これをきっかけに作品のクオリティを高めてほしい」と期待した。

松坂屋上野店は、アートゾーンのオープンを「名門復活の第一歩」(渡辺店長)と位置付ける。同店は、かつて全国の百貨店でトップの売上げを誇った“名門”だ。渡辺店長は「ラグジュアリーブランドはなくてもアートがあり、食品も売上げの半分を占める強みであり、他に引けを取らない。アートスペースを擁すると、Z世代が52週に亘り来てくれる。美術画廊には富裕層も訪れる。7階が活性化すれば、食品を中心とする地下1階、化粧品を中心とする地上1階も合わせて3層は問題ない。6階も今春に家庭用品のブランドを入れ、2階は下期を目途に改装する予定で、3~5階も再編を検討中」と、第二歩以降を見据える。

今年3月1日付で就任した渡辺店長の下、松坂屋上野店は復活へとひた走る。

大丸松坂屋百貨店が加速するDX戦略の要諦 大西則好デジタル事業開発担当部長に聞く