【インタビュー】三起商行 木村皓一社長に聞く 品質、人材、快適環境の三位一体で高水準を追求
ミキハウスが今年、創業50周年を迎えた。百貨店を中心に販路を広げ独自の地位を築いてきたが、小売業界や消費者の価値観が大きく変わる中で、新たな販売手法を求められつつある。これに木村皓一社長は「高品質な商品、知識や経験の豊富な販売員、充実した環境」の3つを揃え、〝あえて来る価値がある売場〟をつくる必要があると語る。同社は以前より商品のクオリティや販売員の接客力に高い水準を追求してきたが、加えて環境の満足度を高めるため、「ベビーラウンジ」の導入など新たな取り組みを進めている。インターネット通販サイトなど強力な競合が台頭する中で、次の50年へ向けた成長戦略を木村社長に尋ねた。
ネット通販が強力なライバル、商品だけでは勝てない時代に
——百貨店業界は厳しい状況が続き、コロナ禍によってさらに環境が変わっていますが、これから百貨店における子供服売場はどのようにあるべきでしょうか。
木村 社会のニーズに合ったことを行っていくべきだ、という想いがあります。百貨店では長い間、生産性を上げるために、「商品をいかに多く置くか」を重視する傾向がありました。そのため、子供服の売場には座ってじっくりと接客できる場所がなく、妊娠しているお客様も立ってお買い物をするという状態でした。お腹の大きなお客様を長時間立たせてしまっては良くないですから、当社は何年も掛け、2016年に机や椅子を備えたスペース「ベビーサロン」を実現しました。テーブルと複数の椅子を用意しますが、妊娠したお客様向けに、傾きにくく安定性が高い椅子を必ず1つは置くようにしています。
さらに18年には、個室型の接客スペース「ベビーラウンジ」を設置し始めました。これは外から区切られた空間で、お客様のプライバシーを守りながらお買い物を楽しんでいただけます。妊娠や出産の悩みも人目を気にせず話せるため、多くのお客様からご好評の声をいただいています。
——今まで以上に設備やサービスの必要性が増しているのでしょうか。
木村 百貨店の最大のライバルは、隣の百貨店ではありません。インターネット通販サイトです。私も最近では頻繁に利用しています。そんな時代ですから、わざわざ百貨店に来る動機を提供する必要があるでしょう。我々はそのために高品質な商品、しっかりと教育した知識と経験が豊富な販売員、そして快適な環境、この3つを揃えて、お客様に満足していただきたいと考えています。
——そのためには百貨店との協力が不可欠ですが、百貨店に対して期待することは何でしょうか。
木村 ずばり、〝環境の整備〟です。商品と販売員は当社が用意しますから、残る「環境」の部分を百貨店と共につくり上げていきたいと考えています。子供服市場では量販店もありますが、そこは自分で商品を選んで買うセルフ方式です。あらかじめ買うものを決めている場合は良いですが、初産などで、経験豊富な販売員に色々と聞きたいお客様もいらっしゃるでしょう。そういうお客様は百貨店に来店されますし、それに備えて、環境を整えるべきです。そうでなければ、どれほどブランドを誘致してもお客様は満足されません。商品を揃えれば良いという考え方では、通販サービスに負けてしまうと危惧しています。
例えば、私は週に一度、大阪市内のデパ地下へ買い物に行きます。タクシーを利用するのですが、往復のタクシー代は商品代よりも掛かります。それでも買いに行くのは、目当ての商品が近所のスーパーに売っていないからです。肉や魚、野菜のどれも鮮度が高く、産地や生産者も厳選されています。魚などはきめ細かくこちらのオーダーに応えて捌いてくれます。子供服売場でも考え方は同じで、「そこに行けば安心してお買い物ができる」ということが鍵となります。
——店へ足を運ぶ仕掛けをしっかりと用意すれば、時間や手間を掛けても客は来るということですね。
木村 「効率」の観点で考えれば、ベビー・キッズは決して良くはありません。ベッドや布団などを置かなければならず、スペースを必要としますから。ベビー・キッズよりももっと高価で場所を取らない、効率の良い商品やカテゴリーがあると思います。
ところが「集客」の点では、子供服売場はお店に来ていただく動機としては非常に強い。百貨店が主要なターゲットとする良いもの、良いサービスを求めるお客様はことさらです。最近は少子化が進み、子供はますます大切な存在になっています。それにふさわしい環境や信頼できる販売員を揃えれば、自然とお店に来てくれるのではないでしょうか。祖父母と一緒に来て、レストランや他の売場にも立ち寄るといったプラスの効果も期待できます。
大切なお子様に対して接客、商品、環境の全てを上質なもので揃えた万全の体制でお迎えしたい、そこでお客様に満足して喜んでいただけるおもてなしをしたい、そして「環境が良いからまたあそこへ行きたい」と思っていただきたい、というのが私の想いです。
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