2024年11月19日

パスワード

【連載】富裕層の事業継承問題①「こんな社長は要注意!会社を倒産させる経営者のパターン」

※画像はイメージです

百貨店業界の主要顧客である富裕層が「事業承継」に頭を抱えていることは、以前、連載「富裕層ビジネスの世界」でもお伝えした。そこで今回からは、ファミリーオフィスやプライベートバンカーたちの元に寄せられる相談をもとに、具体的な事業承継のノウハウを見ていくことにする。まずは、その前提として事業承継がうまく行かず会社を倒産させるパターンについて見ていくことにしよう。

他人に迷惑掛ける倒産は回避すべき

「当面の生活費という名目で99万円しか残してもらえないらしいぞ。え?月に?違うよ。総額で99万円なんだって」

ある中小企業経営者は、同業者の集まりの中でこんな話を聞いてゾッとした。というのも、この経営者が営む会社もコロナ禍で売上げが大幅に減少、決して人ごとではなかったからだ。

しかもだ。最近では技術の進歩についていけず、会社を維持していくので精一杯だった。従業員たちのことを考えると会社は潰したくないが、子どもは女の子ばかりで、皆嫁いでしまって後継者がいなかった。悩んだ経営者は、長らく世話になっている税理士を訪ねた。

こうした悩みを抱えているのは、この経営者だけではない。中小企業庁が中小企業の現状について調査したところ、70歳未満の経営者が約136万人なのに対し、70歳以上の経営者は約245万人と2倍近く、中小企業経営者の高齢化が進んでいることが分かる。そのうち、実に半数以上の127万人が「後継者が決まっていない」のだ。しかもだ。61.4%の中小企業が、後継者に事業承継できなかったことを理由に、黒字であるにながら休廃業や解散に追い込まれているのだ。それでなくても、中小企業の休廃業・解散件数は右肩上がり。5年間で1万社以上増加しており、〝黒字廃業予備軍〟が60万社はくだらないと見られている。

こうした問題は、今に始まったことではない。経済産業省と中小企業庁の試算によれば、事業承継問題を解決しなければ廃業が急増、25年ごろまでの10年間累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性があるという。中小企業の「2025年問題」と呼ばれるものだ。

ところが、25年を待たずして2025年問題が到来してしまう可能性が高まっている。理由は、「新型コロナ」だ。東京商工リサーチの試算では、20年に休廃業・解散する中小企業は5万件、倒産は1万件に達する見込み。となれば、事業承継できずに休廃業してしまう会社も急増する可能性があるというわけだ。つまり、事業承継しないと倒産の危機にひんしてしまいかねないというわけだ。

 

倒産させる社長はこんな人だ

後継者に会社を引き継げず倒産させてしまう社長には、「いくつかのパターンがある」と信用情報会社の幹部は明かす。まず、「会社を、自分や一族のものだと思っている」点だ。そもそも会社は株主のもの。ステークホルダーも従業員を始め取引先、債権者など数多い。ひとたび倒産してしまえば、こうした人々に多大な迷惑をかけるのにもかかわらず、会社は自分のものだと勘違い、いつまでも手放そうとしない。そうしているうちに業績は悪化の一途をたどり、手のつけられないところまでいってしまう。

過去の成功体験が忘れられない人も少なくない。中小企業には創業者がいまだ社長を務めている会社も少なくない。もちろん、会社を立ち上げ成長させた実績は評価すべき。しかし時代の移り変わりと共に、会社も従業員も変わらなければ生き残ることはできない。しかし、「俺の時代はこうだった」「そんなやり方はおかしい。こうやって成功してきたのだから、その通りにやればいいんだ」と社員に怒鳴り散らす社長はそこら中にいる。現状が見えていないのだから、将来などいわずもがな。倒産まっしぐらだ。

そしてひどい例になると、会社を自分の財布と勘違いし、何でも経費で落とす社長も意外に多い。車の購入費用や、ゴルフや買い物の費用など全て経費扱い。こんな会社は、当たり前だが将来はない。

こうした社長たちは皆、理由の差こそあれ、共通するのは「問題を先送りしてしまいがち」なこと。今の立場にいるのが一番気持ちいいし、だからこそ「変わりたくない」と考えてしまうからだ。会社を譲るなんてもっての外。いつまでも自分がトップでい続けたいのだ。だが、問題を先送りしてしまえば、あらゆる問題の解決が困難になり、タイムアウトを迎えてしまう。従業員の退職金や転職先の問題、借金の返済、取引先への売掛金や買掛金の処理など、時間的な余裕があるときに検討しておけば、万が一のときにでも迅速な対応を取ることができる。これは資金面でも同じこと。誰にも迷惑を掛けず、きれいに身を引くことができるのだ。

東京商工リサーチの調査によれば、経営者の年齢と業績は反比例することが分かった。つまり、若い内は業績がいいものの、年を取れば取るほど業績は悪化しているというわけだ。年老いた社長が居座っていて業績が悪化した企業など、誰も救ってくれない。後継者がいなければ、残された選択肢は廃業か倒産。準備を怠っていれば倒産しか道はない。

倒産した後に「再起を狙えばいいではないか」なんて考えも捨てた方がいい。これまでの倒産事例では、「取引先が協力してくれず、誰も助けてくれないケースが多い」(信用情報会社幹部)。それもそのはず。散々迷惑をかけられた会社や社長に協力しようなどという取引先は皆無だからだ。しかも、倒産時に財産を隠していたり、決算書を偽造していたりすればなおさら。誰からも相手をされなくなってしまう。

 

後継者の有無で大きく分かれる

では、事業承継にはどのような手法があるのか。

大きく分けて6つで、最大のポイントは「後継者の有無」だ。まず後継者がいて、それが親族ならば「相続」して株式を譲渡する。親族にはいないが社内に後継者がいる場合には「MBO(役員による買収)」か、社員を昇格させて経営を引き継がせる「内部昇格」のいずれかで承継する。

一方、後継者がいない場合には、第三者に承継するか、できなければ最後は廃業だ。第三者承継には、外部から人材を招いて経営を引き継がせる「外部招聘」と、「M&A(第三者への株式譲渡)」で会社を売却する手法がある。M&Aといえば大企業が対象とのイメージが強い。だが、後継者に乏しい中小企業の事業承継においては、今やM&Aが主流となりつつある。こうした手法を使ってタイミング良く、上手に事業譲渡することができれば、社長自身もハッピーだし従業員やその家族もみなハッピーになる。

そこで次回からは、上手な事業承継のテクニックを紹介する。

 

つづきはこちら

【連載】富裕層の事業継承問題② 上手に親族に事業を承継するノウハウを伝授

【連載】富裕層の事業継承問題をまとめて読む