2024年11月19日

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高島屋の介護保険適用施設、順調な滑り出し 百貨店に対する信頼が支持の源泉

今年4月1日に開業した「タカシマヤ ユアテラス 二子玉川」

4月1日に開業した「タカシマヤ ユアテラス 二子玉川」(以下、ユアテラス)では、同21日時点で10人の要介護認定者が機能訓練のプログラムを受け、近く20人以上まで増える見通しだ(5月20日時点)。文字通り、高島屋が運営。順天堂大学大学院医学研究科の藤原俊之リハビリテーション医学主任教授の助言を基に構築した独自のプログラムを、百貨店のホスピタリティを学んだスタッフが、利用者の課題に応じて提供する。原則として、要介護および要支援の認定者が利用可能。全国的にも珍しい、百貨店が立ち上げた介護保険適用施設だ。

ユアテラスは、東急田園都市線・東急大井町線の二子玉川駅から徒歩で10分余りの距離に位置する。利用者は、まず自宅に迎えに来てもらい、ユアテラスで体調をチェックした後、認知・口腔機能のウォーミングアップ、看護師による口腔のケア、運動機能を高めるマシーントレーニング、日常生活動作の向上を目的とする「レッドコード」などに臨む。その後は再度の体調のチェックを経て、自宅に送ってもらう。

日常生活の動作の向上を目的とする「レッドコード」

より高い目標を掲げる利用者には、高島屋が選んだ外部事業者が手掛けるオプションサービスも用意。リハビリテーション科の医師によるアセスメントやプログラムの作成、理学療法士によるマンツーマンのトレーニングなどで、実費で介護保険サービスの提供時間内に利用できる。

ユアテラスは、高島屋が2017年度(17年3月~18年2月)に設けた社内起業提案制度「フューチャープランニング」を通じて実現した。応募し、その1期生に名を連ねた福田有里子経営戦略部介護事業推進マネジャーが想いを明かす。

「これまでの経験から、人が持つ回復力には驚くべきものがあり、要介護認定となった後でも軽度のうちに日常的かつ適切に機能訓練を受ければ、改善したり、少なくとも維持できたりする可能性があると分かった。それが提案のきっかけ。百貨店には高齢のお客様が多く、ヒアリングすると、モノよりも健康に関心が移っている。しかし、お客様が求める、自負や自尊心を保ちつつ心地よいサポートを受けられる介護施設は少ない。百貨店ならではの『お客様視点』でニーズに合った介護施設を立ち上げれば、確実に需要はあると考えた」

百貨店内では、杖をついたり、ショッピングカートを押したりして歩く高齢者が珍しくない。来店には苦労がともない、いずれは足が遠のきかねない。実際、高島屋のカードホルダーのデータによれば、厚生労働省が発表する「健康寿命」を超えると、年間の買上げ額が下降傾向に転じるという。つまり、健康な高齢者を増やせれば、年間の買上げ額の減少も緩やかになる。健康な高齢者の増加は社会保障費の抑制にも結び付き、社会貢献を重視する百貨店の理念にも合う。ユアテラスは、理に適う事業だ。

福田さんは「やりたいことを諦めない、豊かな毎日を送るサポートをしたい」と話す。会社から18年2月に事業の検討についてゴーサインが出されると、介護保険制度や業界の構造を調査し、20近い〝同業者〟を訪れてノウハウを研究するとともに、プログラムの監修者を模索。当初は整形外科医を考えたが、人間の能力を最大限に引き出し、望ましい生活ができるように治療、支援するリハビリテーション科専門医に目を向け、ユアテラスの事業に深く共感した藤原教授に依頼した。

並行して、スタッフの雇用やサービスの充実化に奔走。スタッフは開業までに7人を揃え、サービスの充実化では、一部の例外を除いて「混合介護」が認められない中、管轄する行政と相談を重ね、ワンストップで介護保険サービスの提供時間内に実費のオプションサービスを提供できる許可を得た。

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