2024年11月19日

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2021年バレンタイン特集【前編】ECやBOPISに活路

今年もバレンタイン商戦が盛況を迎えている。各百貨店はコロナ禍による店頭の客数減を補うため、インターネット通販(EC)サイトでの拡販に勤めたり、買い物から配送まで請け負うデリバリーサービスを導入したり、「ウィズ・コロナ」の時代に合わせた「リモート映え」や「イエナカ時間」をキーワードにしたチョコレートを充実させたりする。店頭ならではの賑わいやライブ感は購買意欲を喚起する重要な要素であるため、外出の自粛が続くのは痛手だが、あの手この手で需要を取り込む。

【写真】そごう・西武はイエナカ時間で楽しめるようなチョコを提案する

今年に入り、1月7日に1都3県を対象に緊急事態宣言が発令され、不要不急の外出や午後8時以降の飲食店の営業の自粛などが要請された。13日には7府県が追加。期間は2月7日までと定めていたが、2月2日に延長が正式決定すると目され、収束の目途は不透明だ。バレンタイン催事の客数減は免れない。とはいえ、チョコの需要が無くなったわけではない。密を避けて購入できるECサイトが鍵を握っている。

 

ECを活路に 大幅に品揃えを拡充し、コンテンツも充実

松屋は初めてECで販売。店頭展開ブランドの約7割を展開と力を入れる

各社はECサイトの品揃えを大幅に拡充し、店頭を避ける人への訴求力を強める。国内百貨店で最大級の売上げを誇るジェイアール名古屋タカシマヤはECサイトで前年比約4倍となる約200種類を、東武百貨店は同約7割増の約290種類を揃えた。大丸松坂屋百貨店は約3割増となる約220ブランド、京王百貨店は約3割増の115ブランドに増やし、多様なラインナップを用意する。

松屋は今年、ECサイトで初めてバレンタイン商品を販売。店頭で展開する71ブランドのうち50ブランドを揃え、バイヤーが小箱や個包装商品などをセレクトし詰め合わせた「バレンタインボックス」など、EC限定も20種類用意した。「バレンタイン催事は、若いお客様が足を運ぶ貴重な機会。店へ来るのを避けたとしても、ネットの利用に慣れている方も多いはず。ネットと店頭の両軸で展開し、売上げを確保したい」(広報担当者)考えだ。

商品数を増やすだけでなく、「買いたい」と思わせるようなコンテンツの充実も重要だ。店頭では売場の編集や販売員の接客が購買を促すが、EC上でも商品の魅力を引き出す要素が求められる。阪急うめだ本店は、広報担当者がチョコレートの魅力を伝える映像を、動画投稿サイト「ユーチューブ」へ投稿する(広報公式チャンネル「Hankyu_PR_Channel」)。12月2日に催事「バレンタインチョコレート博覧会」の担当者に直接話を聞く動画をアップしたのを皮切りに、同イベントのガイドブックの製作現場に潜入した動画(12月16日)や、バイヤーとともに出展ブランドの担当者に話を聞きに行く動画(12月23日)など、随時更新している。

三越伊勢丹は、ポッドキャスト「聴くチョコレート」でチョコの魅力を発信する

三越伊勢丹は、家で過ごす時間の増加にともない急成長しているオーディオメディアに着目し、ポッドキャスト「三越伊勢丹ラジオショコラ」の配信を開始した。パーソナリティに人気声優の西山宏太朗氏を迎え、「サロン・デュ・ショコラ」などイベントの魅力をはじめ、チョコのトレンド情報、ショコラティエやバイヤーをゲストに迎えたトークなどを発信する。1月20日から全8エピソードを配信。2月24日まで聴ける。

東急百貨店はECでのチョコ選びを楽しんでもらうため、チョコのトレンドを発信する空想放送局をコンセプトにした特設ページ「Chocolate Station」をオープン。テーマ別に、一押しのチョコを動画を交えて紹介する「チョコレート+αミュージアム」や、チョコレートのプロがチョコレートの世界を楽しく深掘りする「わたしがチョコレートを好きなわけ」といったコンテンツを掲載する。

 

年末年始の自家需要や事前の「お試し」に照準

高島屋の「お試しショコラ オンライン」は1週間でほぼ完売してしまうほどの人気ぶりだ

バレンタイン市場では誰かに贈るのではなく、自分のために買うニーズが年々増えている。松屋銀座がメールマガジン会員を対象に実施したアンケートでは、「誰のために買う予定ですか?」という問いに「自分へのご褒美チョコ」が約62%を占め、昨年より4ポイントアップした。加えて今年は年末年始も家で過ごす人が増え、店頭で試食ができないため「ECでも事前に試したい」というニーズが高まったことから、ECサイトの予約期間を早めたり、先行受注を行った百貨店も目立つ。

そごう・西武は「おためしバレンタイン」と銘打ち、昨年12月1日に先行受注を始めた。約30ブランドを対象に1月7日まで受け付け、20日以降に配送する。小田急百貨店は、12月25日に販売を開始。また、昨年行った、人気ブランドや新作のチョコをいち早く届ける「おためし×chokolat」が好評だったことを受け、今年も開催。12月25日~1月18日の午前9時までに注文すると、1月24日以降に届けられる。東急百貨店は12月17日に、バレンタインも含めた自家需要をターゲットに、有名ブランドのチョコレートを紹介、販売する特集ページ「Chocolate Station<petit!>」を立ち上げた。

高島屋は本命の商品を買う前の「お試し」に照準を合わせ、30ブランドの中から1粒ずつ選んで購入できる「お試しショコラ オンライン」を販売。「ピエール マルコリーニ」、「ピエール・エルメ・パリ」、「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」など30のブランドから購入でき、本格的に買う前の食べ比べが可能だ。

これらの施策の結果、そごう・西武は先行期間である12月1日~1月7日で売上高が前年比で2割増となった。他でも小田急百貨店が前年比約4倍(12月25日~1月26日)、高島屋も同約3倍(1月6~28日)、東急百貨店は同約2倍(1月10~26日)とEC全体で好調に推移しており、各社の広報担当者は「外出自粛の影響なども大きいが、事前受注による訴求も寄与した」と効果を語る。

中でもヒットしたのがお試しショコラ オンラインで、「販売を開始してから1週間で〝ほぼ完売〟となった。販売を終了した26日までに約2万個が売れ、注文件数は約2000件に上る」(広報担当者)というほどの好調ぶりだ。様々なブランドを少しずつ試せるのは店頭催事の大きなメリットだったが、それをネット上でも再現したのが消費者の心を掴んだといえる。

 

自宅配送以外の密回避「BOPIS」に熱視線

小田急百貨店は物産展で行っていた店頭受け取りをバレンタインにも導入した

ECは自宅への配送が主流だが、注文した商品を業者が店頭でピックアップして自宅まで届ける買い物代行サービスや、ネットで注文した商品を店頭で受け取る「BOPIS」(=Buy Online Pick-up In Store)もコロナ禍以降注目を集めている。CBCloud社が運営する、注文者と購入・運送業者をマッチングする買い物代行サービス「PickGo(ピックゴー) 買い物」はグランデュオ(昨年7月)や小田急百貨店(9月)、そごう・西武(10月)などが導入している。

そごう・西武はバレンタインにもピックゴー買い物サービスを取り入れた。すでに同サービスを展開している7店舗で、店頭催事で扱う商品の一部が注文可能だ。期間は店舗によって異なるが、1月下旬~2月14日まで。また、西武ホールディングスが主導となって2月8日に始める駅配サービス「BOPISTA(ボピスタ)」もバレンタインの利用を見込む。ボピスタは専用サイトで申し込みをすると、西武池袋本店のスイーツやギフトに適した化粧品や雑貨小物などを、西武池袋線の池袋駅、富士見台駅、所沢駅のスマートコインロッカーで受け取れる。注文から最短3時間で配送する。

西武ホールディングスは「バレンタインやホワイトデーといった繁忙期でも店の混雑や閉店時間を気にせず買い物ができる」とメリットを挙げる。駅間の輸送は西武グループが鉄道を利用するため、物流の負荷も低減される。実証実験という位置付けで、まずは3月31日までの期間限定で行う。

小田急百貨店は、1年半ほど前から物産展で行っていたBOPISをバレンタインに導入。2月9日の午前9時までにECサイトで対象のチョコレートを購入すると、5日~14日に新宿店で受け取れる。対象商品は約65点。緊急事態宣言下ではあるものの新宿エリア近辺で通学や通勤を避けられない学生、ビジネスパーソンに向け、短時間で購入できる手法として提案する。

 

今年は本格的なコロナ禍での初めてのバレンタイン商戦とあって、各社様々な対策を重ねている。日本百貨店協会の発表によると、「昨年末のクリスマスケーキやおせちのEC受注は活況で、EC全体も確実にシェアを伸ばしている」という。バレンタインも大幅な伸長が期待できそうだ。