そごう・西武 SNSで〝バズる〟逆転の発想 驚きと共感
2020年1月上旬、SNSで話題を呼び、多くのメディアで取り上げられた広告がある。制作した企業は、そごう・西武だ。
広告の中央で小さく写る力士・炎鵬の上には「大逆転は、起こりうる。わたしは、その言葉を信じない。どうせ奇跡なんて起こらない。それでも人々は無責任に言うだろう。小さな者でも大きな相手に立ち向かえ。誰とも違う発想や工夫を駆使して闘え。今こそ自分を貫くときだ。しかし、そんな考え方は馬鹿げている。勝ち目のない勝負はあきらめるのが賢明だ。わたしはただ、為す術もなく押し込まれる。土俵際、もはや絶体絶命。」の文字が添えられた。
悲観的に映るが、逆から読むと一変する。このトリックに驚き、感心した人の“手”で急速に拡散。「YouTube」で公開中の動画の再生回数は73万5000を超える(1月17日時点)。
そごう・西武は2017年の元日、コーポレートメッセージ「わたしは、私。」を発表した。それ以前は定めておらず、社内から「なぜ、経営理念がないのか」といった声が噴出。体制が変わった時期でもあり、従業員が同じ方向を見て、一人ひとりが主役になって難局を乗り越えようと「わたしは、私。」に決めた。「お客様から従業員まで、ステークホルダーが年齢や性別、役割などに囚われずに装い、生きるため、そごう・西武が手伝う」(相原秀久販促本部営業企画部広告・宣伝担当部長)という意味も込めた。
以降、同じコーポレートメッセージを掲げながら、広告のモデルやキャッチコピー、ビジュアルは変え、1年間の所信を表明してきた。17年は故・樹木希林で「年齢に縛られず、自分らしく装い、生きる」を、18年は木村拓哉で「予定調和を跳ね除ける自分らしさ」を、19年は安藤サクラで「女性の制約からの解放」を、それぞれ訴求。時に賛否両論の声が上がりながら、注目を集めてきた。
20年は、19年10月10日に5店舗の営業終了を発表した後で、客の捉え方や社員のモチベーションにも配慮。「百貨店業界を含め、逆境でも前向きな人々を応援したい。社員には、新しいチャレンジを心掛けて欲しい」(相原氏)と、キャッチコピーを「さ、ひっくり返そう。」に決定した。モデルは当初、ラグビーの日本代表選手を検討したが、ワールドカップで前評判を覆す大活躍。〝ひっくり返す〟イメージが良い意味で薄れ、再考の結果、幕内最小でありながら、着実に番付を駆け上がる炎鵬に白羽の矢を立てた。
さらに「ポジティブなメッセージを発信しても、耳当たりが良過ぎて残らない、話題を集めない、拡散されないのではないか」(相原氏)と思案。逆から読むと意味が一変する文章を添える方法に辿り着いた。
広告のビジュアルもこだわった。「力士は顔や身体などを大きく使うのが一般的だが、パッと見た時のインパクトを大きくするとともに、文章を引き立てるため」(相原氏)、炎鵬の姿を意図的に小さく配置。一方で、背景の青色はグラデーションで中央を薄くし、炎鵬に視線を惹き付ける。青色はそごう・西武のコーポレートカラーでもある。
元日に新聞の全面広告や店舗内のポスター、自社のウェブサイトなどで公開すると、その斬新さにウェブメディアが反応。SNSでも拡散され、民放の情報番組が相次ぎ取り上げた。動画の再生回数は73万を超え、相原氏は「雪だるま式に広がり、想定以上の反応を得られた」と驚く。受験のシーズンでもあり、多くの学校から「ポスターを貼りたい」、「動画を流したい」と依頼が届いた。「成人式のスピーチに使いたい」という要望も寄せられたという。
「新しい広告を出す度に色々な声が上がり、手応えを感じる」と相原氏。今後も広告を通じ「(顧客や従業員に)逆風に怯まず、新たな挑戦を継続していくと示す」(相原氏)意向だ。イメージを良化させ、逆風を追い風に変える。この発想が、ネガティブな言葉で報道されがちな百貨店業界に必要だ。