2024年11月19日

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百貨店 構造改善の潮流と進度 第1回

百貨店業界では、構造改善が急ピッチで進む。2019年における最大の潮流は、都心、郊外、地方を問わず加速する専門店との融合で、3月5日にグランドオープンした日本橋髙島屋S.C.、9月20日に新装開業した大丸心斎橋店の本館は、その象徴だ。食料品や化粧品など百貨店が優位性を発揮できるカテゴリーの拡充、デジタルの本格的な活用も目立った。特に食料品は売場の新装が相次ぎ、増加する共働き世帯や単身世帯の中食需要や時短需要に対応する。デジタルの活用はインターネット通販の強化に限らず、新たな情報発信拠点の構築、カードの〝アプリ化〟、「RPA」まで多様化しつつある。百貨店が強みとする接客を磨き上げるだけでなく、小売業で人手不足が深刻化する中、それを維持ための「働き方改革」にも、各社は力を注ぐ。2019年の潮流から、20年を占う。

 

惣菜、生鮮に力点 食料品売場を強化

2019年、百貨店業界では食料品売場の改装が相次いだ。消費者の関心が強く、「デパ地下」という言葉が特別な意味を持つように、百貨店に優位性があるカテゴリーだが、近年は駅ビルやショッピングセンターらも力を入れており、競合が激化。とりわけ郊外や地方に居を構える百貨店にとって、食料品は最大の集客装置、“生命線”であり、リニューアルで魅力を高める。特に目立ったのは、共働き世帯の増加などを背景に需要が旺盛な「中食」や「時短」への対応だ。惣菜売場や生鮮品売場を中心に「出来立て」、「ヘルシー」、「少量」、「半調理品」などのキーワードを掘り下げ、受け皿を整備。デパ地下は、時代を捉えて進化する。

 

 出来立てや少量拡充 半調理、カスタマイズ伸び代

食料品売場のリニューアルは、引きも切らない。2019年は、井筒屋小倉本店、恵比寿三越、京王百貨店新宿店、京阪百貨店モール京橋店、髙島屋玉川店、同横浜店、同堺店、高崎髙島屋、東急百貨店たまプラーザ店、東武百貨店船橋店、東武宇都宮百貨店本店、鳥取大丸、神戸阪急、高槻阪急、松屋銀座本店、水戸京成百貨店らが売場を新装した。

各店が特に重要視するのは、惣菜と生鮮品だ。従来の中心顧客に加え、会社帰りのビジネスパーソンの購入も見込める。中でも惣菜は、高齢化や核家族化、女性の社会進出などによって市場の成長が著しい。一般社団法人日本惣菜協会が5月16日に発売した「2019年版惣菜白書」によれば、2018年の市場規模は前年比2%増の約10兆2518億4400万円。08年は8兆2156億円で、10年間で1.2倍余りに増えた。百貨店にとって、有望な領域だ。

スーパーマーケットの得意分野でもあるが、各社は百貨店ならではの“こだわり”や安全・安心と、スーパーマーケットが強みとしてきた“出来立て”、さらには関心が強まる「ヘルシー」や「少量」を融合。競争力を高める。

例えば、京王新宿店は厨房を併設したショップを増やして惣菜や弁当の出来立てを充実させるとともに、少量・多品種の惣菜の詰め合わせや弁当などを編集する「デリカコーナー」をリニューアルし、サンドウィッチやデザート、飲み物など働く女性が好む商品を取り扱い始めた。18年秋から19年8月にかけて改装したが、19年12月6日時点で過去1年間のフリー客の売上げは前年比7%増と伸長。19を数える店内厨房を生かした、1時間ごとの商品の打ち出しが購買意欲の喚起に結び付いているという。

19年11月28日に惣菜売場を新装オープンした東武百貨店船橋店は、30代~40代の女性に照準を合わせ、同世代が好むブランドを導入したほか、既存のブランドを含めてヘルシーな商品や少量の商品を拡充。柱周りの厨房を撤去したり、各ショップのサインを大きくしたりして、売場の視認性も向上させた。

12月2日時点での売上げは前年比で二桁増。牽引役は少量の惣菜を強化した既存のショップで、50グラムと100グラムの惣菜のパックをコーナー化した「ITO」は、売上げが前年の1.3倍にジャンプアップ。50グラムの惣菜のパックを日替わりで販売し始めた「まつおか」も同23%増で推移する。女性の心を射抜いた形だ。

出来立て、ヘルシー、少量。百貨店の惣菜売場に求められるキーワードだ。そして20年には「カスタマイズ」や「体験」が加わるかもしれない。ニーズを掘り下げていけば、よりキメ細かい対応、エンターテインメント性が百貨店の武器となる。例えば京王新宿店は、だし巻き卵の実演や食べたい具材だけを入れられる手巻き寿司の販売などを取引先と検討中。だし巻き卵の実演は料理法の指南でもあり、客の知的欲求も満たせる。19年9月4日に食料品売場を一新した東武宇都宮百貨店は、惣菜売場の一角にオープンキッチンを備えるコミュニティサロン「フードサロン」を開いた。料理教室、試食会、試飲会などのイベントを行い、レストスペースの役割も果たす。両店はカスタマイズや体験型のモデルだ。

一方、生鮮品売場も変貌しつつある。19年4月に生鮮品売場を新装した髙島屋玉川店は、食材の調理方法や日々の献立、歳時記にちなんだ料理などを紹介する「TAMAGAWA クッキングスタジオ」を鮮魚と青果の売場に新設。鮮魚の売場には、経験豊富な仲買人が旬の魚の最も美味しい食べ方を提案するコーナー「あまね」も構えた。青果の売場は、短時間で調理できるミールキット、野菜や果物を試食できるコーナーを充実化。コンサルティング、エンターテインメント性に長けた、百貨店ならではの生鮮品売場だ。

髙島屋では、厳選した青果やグロサリーなどを扱う自主編集売場「髙島屋ファーム」も好調に推移。2014年5月に横浜店に構えて以降、消費者の安全・安心に対する関心の強まりも追い風に、売上げは右肩上がりで、農薬や化学肥料を使わずに育てた野菜、米が人気だ。19年10月23日には大阪店に6番目となる売場を新設した。

生鮮品売場では、半調理品や個食対応の強化も活発だ。惣菜と同様、消費者の変化を捉えた変革が進む。惣菜や生鮮品以外でも加速していくに違いない。