2024年11月19日

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高島屋新宿店、3年後に過去最高の売上高を達成へ 難波斉店長の勝算と布石

高島屋に売上げの伸長率が突出した店舗がある。新宿店だ。直近の9月は前年比39.4%増、8月は同42.1%増、7月が同33.4%増、6月が51.1%増、5月が96.2%増、4月が同41.2%増、3月が同16.4%増と、2022年度は全て2桁増。第2四半期までの売上高は前年比42.8%増の365億5500万円で、新型コロナウイルスの感染が拡大する前の2019年度(19年3月~20年2月)の第2四半期(361億1400万円)を上回り、同社の大型店では4番目に売上高が大きい京都店(2022年度第2四半期までの売上高は390億9000万円)の背中が視界に入ってきた。コロナ禍前には売上げの約15%を占め、収益を支えたインバウンドが依然として回復途上にもかかわらず、なぜ飛躍を遂げたのか。「3年後に過去最高の売上高を達成したい」と意欲を燃やす難波斉執行役員店長に、好調の要因と展望を尋ねた。

(取材は10月4日)

――第2四半期の決算発表によれば、高島屋の国内子会社を含めた全店舗の売上高前年比は19.6%増でした。新宿店の42.8%増は突出しています。

ラグジュアリーブランドの売上げが高伸長しており、コロナ禍前の1.8倍です。宝飾品や時計、美術も好調で、これは百貨店業界に共通の傾向ですが、一時は半減した衣料品の売上げも復調してきました。メンズの方が戻りは速く、雑貨を含めるとコロナ禍前の約8割、レディスは婦人服のみで約7割の売上げです。このマイナス分を補って余りあるのが、ラグジュアリーブランドと言えます。

コロナ禍前にはインバウンドが売上げの5割を占めた化粧品も回復は遅く、国内需要が鈍いです。「(アフター・コロナでも)マスクを外したくない」という女性は多いようで、その理由としては「表情を悟られづらい」、「化粧をしなくて済む」などと聞きます。

現状をまとめると、トップラインは回復しつつあるものの、営業利益ベースではまだまだです。高島屋が今春の大阪店を皮切りに進めるコスト構造改革で経費は圧縮できていますが、商品利益率は2%ほど低下しています。

――構造改革は今秋から他店にも広がりました。新宿店での成果はいかがですか。

そもそも新宿店はこれまでにも段階的に要員の効率化に取り組んできました。その延長線上に今があります。一部、生鮮品の品出しやレジなど新たに内製化した業務については、しわ寄せがあるのは否めませんが、全体としては混乱していませんし、むしろ目に見えるメリットも浮かんできました。

具体的には組織改正です。当社は従来、店長から副店長、部長、副部長、マネジャー、セールスマネジャーまで6つのレイヤー(階層)でしたが、今春の大阪店から店長、副店長、部長と続き、その下に仕入れに特化した「ストアマーチャンダイザー」、販売や顧客づくりに特化した「マネジャー」、商店主のように売場の方向性やターゲットなどを定める「ショップマネジャー」が並ぶ4つのレイヤーに切り替えました。ストアマーチャンダイザーは新たに設けられた役職です。

今秋には日本橋店、新宿店、横浜店、京都店も追随し、新宿店は各ディヴィジョンに1人ずつストアマーチャンダイザーを配するとともに、マネジャーのポストをフロア単位で細分化しました。例えば、主にレディスファッションを扱う4~7階の中には、マネジャー以下3人で担当している売場もあります。指揮系統や役割分担が整理され、これまでは難しかったブランド単位まで目が届くようになり、取引先との関係性が強まり、品揃えの精度も向上。9月は43マネジャー班(組織改正によりマネジャー班が以前から12増加)のうち42班が予算をクリアしました。これは当社でもレアケースだと思います。

9月のトピックスとしては、売上げが前年の1.3倍を記録した「美味コレクション」があります。文字通り全国から美味を集める催事ですが、今年は約90店舗に出て頂き、14~26日に開催しました。伸長の要因は、内容のブラッシュアップです。入社4年目の若手社員を京都府や石川県などに派遣して新しいモノを見付け、交渉して出店にこぎ着けてくれました。

こうしたZ世代の社員による企画を23年度の上期に検討しており、プロジェクトのメンバーを募集すると、予想以上に多くの手が挙がりました。それとは別に入社1~3年目の社員とミーティングを行ってきましたが、想像した以上に前向きな声を多く聞けました。だからこそ、Z世代のプロジェクトを立ち上げたとも言えます。

――業績以外にも収穫が多いですが、足下の課題は何でしょうか。

以前のインタビューでも言及しましたが、商品利益率です。まずは季節商材のセールの開始を遅らせました。パラソルや手袋などの「シーズンパーツ」はプロパーの売上げ比率が約20%から約60%に、半袖のワイシャツは約40%から約80%に上がり、利益率は前者が約4%、後者が約2%、それぞれ上昇しました。この秋冬はコートや帽子、ブーツ、肌着なども、お客様のニーズに基づいて、値下げを始めるタイミングを遅らせます。需要が旺盛な時期に安売りしては利益に結び付けられないですからね。

次に、ワイシャツやネクタイ、スーツ、コートなどのアイテムで、プロパーで長期的に販売できる定番を「高利益率商品」と位置付け、拡販に力を注いでいます。「短くても2年は定価で売り続けられる商品」で、リクルートスーツやパンプスにも広げつつ、全体で型数を増やしていきたいと考えています。お取引先と交渉して、率を下げてもらう時代ではありませんからね。

3つ目は、市場における価格競争力を意識した裾値の設定です。ハンカチは売上げの7割がギフトですが、それを比較購買できる平場は百貨店にしかありません。実質的に競合する相手がいない、極めて少なければ、安売りする必要はないですよね。市場優位性があるアイテムは価格を下げず、お客様からのニーズを見極めた価格設定をしていきます。お取引先も歓迎してくれています。よって、ハンカチの売場では裾値を上げており、今は原則として700円に設定しています。ネクタイの売場でも5000円台などをやめる方針です。

4つ目は仕入れ条件のコロナ禍前への“回復”、5つ目は最終営業利益を意識した働き方への転換です。スピードを持って身に付けるために損益計算書(PL)を勉強させ、お取引先と当社がともに利益を維持し発展していくため、その視点を持つように指導しています。結果は着実に表れており、22年度上期には全マネジャー班(31班、8月末日までの数)で増収増益となりました。ようやく意識が変わったと感じます。

課題の“本丸”はエリア戦略です。東京都23区内の組織顧客の分布を見ると、板橋区や北区、練馬区、豊島区などに空白地が存在し、玉川店のメインである世田谷区にも新規顧客開拓の余地はあります。さらなる開拓が見込めるエリアを路線、幹線道路、町単位に細分化し、日本橋店や玉川店と連携しながら攻めていきます。攻め方としては、例えば大型催事に合わせてエリアを絞って媒体を投下するなどです。

当社の他店舗との連携に関しては、特に日本橋店は時計や呉服、日本画などに強く、ラグジュアリーブランドやゴルフ、現代アートなどに強い新宿店とは、お互いに補完し合えます。それを生かして、新しいお客様を獲得します。

小田急百貨店新宿店の本館や東急百貨店本店の営業終了に伴う変化も見据え、今の段階でエリア戦略を明確化しておかなければなりません。これに構造改革と商品利益率の向上策を加えた三本柱を当店は推進しています。

――23年度以降の展望を教えて下さい。

各地で商業施設、オフィス、ホテルからなる複合施設が開発されていきます。百貨店の強みを追究しなければなりません。ミレニアル世代やZ世代は新しい商業施設に流れていきますからね。幸いにも新宿店は30~40代に強く、外商も擁しますが、安穏としてはいられません。百貨店には、お客様の層が深く広いという優位性がありますし、カテゴリーでも化粧品、ラグジュアリーブランドなどは他の業態の追随を許しません。

難しいのは食品とファッションです。徹底的に強化していきたいと考える食品については8月から段階的に改装しています。食品は最も差異化しなければならないと思っています。新宿地区の他の百貨店と対比しつつ、独自性を磨き上げます。ファッションについてはまだ拙速に動かず、様子を見極めている状況です。ショッピングセンターやエキナカの商業施設など、競合が多く、同質化が目立つカテゴリーでもありますからね。

売場の改装は化粧品で進めていますが、リターンが確実なカテゴリーには投資し、3年後に過去最高の売上げを目指します。

(聞き手:野間智朗)