2024年11月19日

パスワード

購読会員記事

そごう・西武に“三村マサカズ特需” 個性的なイラスト、ファンに刺さる

西武池袋本店の地下1階の南口(クラブ・オンゲート)付近には、大規模なVPを構築

そごう・西武の夏商戦に“三村マサカズ特需”だ。そごう・西武が7月11日に受注販売を始めた、芸人の三村マサカズ氏が書き下ろしたイラストを使ったキャップやTシャツ、スポーツタオルなどの売れ行きが良い。8月22日までだが、8月14日時点での販売点数は約630に上る。三村氏の個性的なイラストがファンの心に刺さったほか、同じく池袋の「ミクサライブ東京」では「モヤさまドイヒー展」が7月7~31日まで開かれており、運営するテレビ東京の協力を得た相互送客も西武池袋本店での受注を押し上げた。

画面を立体的に使い、三村マサカズ氏のイラストを視覚的に演出(写真は西武池袋本店)

そごう・西武は2021年4月以降、クリエーターとの協業を強化してきた。同月のLily Kongさんを皮切りに、国内外のイラストレーターや画家、アーティストらの作品を店舗の装飾に起用。クリスマスのプロモーションに当たる昨年11~12月には、オートモアイ氏が書き下ろした作品を西武池袋本店で12月9~14日に展示・販売し、独自商品の開発にも乗り出した。オートモアイ氏の作品は100~300万円と高額ながら完売。以降は装飾と独自商品の2軸でクリエーターとの協業を続けるが、その背景には「来店の動機付け」(後貴芳美販促本部営業企画部広告・宣伝担当)がある。

新型コロナウイルスの感染が拡大してからインターネット通販の成長は一段と加速。リアル店舗には“訪れる価値”が求められて久しい。著名なクリエーターが手掛ける装飾や独自商品をフックに、巷間に「どうせ(リアル店舗で)買うなら、そごう・西武へ」という動機を醸成する。

三村氏とのコラボレーションは雑談から生まれた。後さんの上司である清水宏販促本部営業企画部長が、仕事で連絡を取り合うホリプロの社員にクリエーターとの協業について話すと、「うちの三村マサカズはどうです?」と提案されたという。

今年の2月には「イラストをメインに、店内で楽しんでもらう」(後さん)と方向性が固まり、時期は三村氏と大竹一樹氏のコンビ名「さまぁ~ず」にちなみ、7月11日~8月22日に定め、タイトルは「エンジョイさまぁ~★2022」と銘打った。4月上旬には、三村氏にイラストの制作を依頼。三村氏は27点を書き下ろした。

そごう・西武は、三村氏のイラストを施した「スポーツタオル」(4400円)、「親子Tシャツ」(子供用が2750円、大人用が3190円)、「キャンバストートバッグ」(2420円)、「キャップ」(3740円)、「サーモタンブラー」(5170円)、「折りたたみ雨傘」(7480円)などを西武池袋本店、そごう横浜店、ネット通販サイト「e.デパート」で受注販売。西武池袋本店は7月11日~8月2日、そごう横浜店は7月11日~8月15日に三村氏の原画を展示し、7月11日には専用のウェブサイトも開いた。

西武池袋本店では、イラストの原画やオリジナルグッズを展示

また、独自商品を注文した先着300人にはオリジナルのクリアファイルを、そごう・西武の10店舗の対象売場で6000円以上(1レシート当たり)を買上げた先着9940人にオリジナルのクッキーをプレゼント。購買意欲を喚起した。

さらに、西武池袋本店から近いミクサライブ東京を会場とする、モヤさまドイヒー展と相互送客を実施。西武池袋本店は同展の招待券を配り、ミクサライブ東京はエンジョイさまぁ~★2022の宣伝媒体を置き、特設サイトは相互にリンクし、「Twitter」では互いの発信をリツイートした。

反応は上々だ。モヤさまドイヒー展との連動は相乗効果が大きく、三村氏やマネージャーのツイート、リツイートも追い風となり、特設サイトのインプレッションは150万に迫る(7月11日時点)。西武池袋本店のアカウントのフォローと対象のツイートのリツイートを条件とするプレゼントキャンペーンには、約8000のアカウントが応募。通常は3000前後で、約2.7倍だ。

受注販売も好調。8月14日時点での注文は、店舗で約300点、e.デパートで約330点を数える。7月11日時点での売れ筋は、キャップを筆頭にキャンバストートバッグ、スポーツタオルと続く。「こんなに売れるとは思っていなかった」と後さんは驚く。受注販売は在庫を抱えるリスクがなく、採算性も高い。数週間や数カ月など一定の期間を待たされる受注販売は、かつて嫌がる客も多かったが、「今は待ってくれる」(後さん)という。

受注販売では、キャップが1番人気(点数ベース)

芸能人とのタイアップは経費が嵩みやすく、今回もイラストの制作費やグッズの売上げの一部をホリプロに支払うが、後さんは「代理店を通しておらず、かなり抑えられた。経費対効果としては悪くない」と強調。続けて「経費の面だけでなく、自分達で主導権を握り、立体的に企画できたからこそ、想定以上の反響や結果を得られた」と、代理店に委ねないメリットを指摘する。

ホリプロやテレビ東京とは過去の販促などで関係性を強めており、それも交渉を素早く、円滑にさせた。単に芸能人を起用すれば手に入れられる成果ではない。

「ポイントは話題性。今後も話題性のあるアーティストと3カ月に1回ほどのペースで協業していく。アーティストとアーティスト、あるいはメーカーとメーカーのコラボも促したい。今回はイラストだったが、写真もあり得る。いずれにせよ『視覚的』が大事。個展も交えて店舗での販売も積極化する。ビジネス的な観点ではターゲットの年齢もカギで、購買力がある40~50代を呼び込めると収益性は上がる。実際、モヤさまは15周年で、40~50代のファンが多い」

後さんは展望を明かす。クリスマス商戦でも、有名人との協業を計画中だ。

(野間智朗)