2024年11月19日

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【連載】富裕層ビジネスの世界 富裕層が利用するプライベートバンクの実像(2)

プライベートバンクは資産運用に特化した金融機関だ。保有資産数億円以上の富裕層の多くが利用している。前回に続いて、富裕層が使っているプライベートバンクについて解説していく。今回は日系のプライベートバンクだ。

日系のプライベートバンク(PB)の代表格といえば、メガバンクや大手銀行内のPB部門(以下、銀行系PB)だ。

銀行系PBは、保有金融資産や最低預かり残高などの「最低基準」が明確に設定されていないケースが多い。また最低基準を設定しているPBでも、保有金融資産が数億円以上など、そこまでハードルは高くない印象だ。

それよりも銀行にとって重要なのは、本業である「融資」の対象かどうかだ。融資の中でも特に法人への事業融資が銀行にとってはビジネス的な価値が大きく、融資対象会社の「オーナー経営者」が銀行系PBにとってメインの対象顧客となる。融資以外の取引も優位に進めてくれる可能性が高く、銀行系PBと取引するメリットは大きくなるからだ。

機能面での銀行系PBの価値も「融資」にある。たとえば、不動産投資のための不動産担保ローンを有利な金利で調達するには、銀行系PBとの付き合いがなければ難しいだろう。また、「MBO資金の融資や自社株式の買取資金融資など、銀行との長期的なリレーションがあって実現可能な融資も存在する」とプライベートバンカーのAさんは指摘する。

さらに、銀行系PBのメリットとして「相続・事業承継対策機能」が存在することもあげられる。銀行系PBは、銀行の中でもトップクラスのバンカーや税理士、会計士、その他の専門家を集め、優良顧客に対して相続対策提案などを行っている。

銀行系PBは、融資機能や相続・事業承継対策機能が必要なオーナー経営者にとって利用価値が高いと言えるだろう。

続いて証券会社のPB部門だ。

証券系PBも銀行と同様に、保有資産の最低基準が明確には設定されていないことが多い。証券系PBが顧客にしたい対象は、上場会社の創業者や経営者といった「上場会社オーナー」だ。

上場会社オーナーにとって証券系PBを使うメリットは2つある。

1つ目は、幅広い支店網を活用した保有株式の売却だ。上場会社オーナーは会社の成長に伴い、少しずつ自社の株式を売却することが多い。その時、多くの優良個人投資家に株式を販売してくれるのが証券会社の支店にいる証券マンたちだ。全国に支店網があることは、証券PBの大きな強みだろう。

2つ目は、自社上場株式を担保にした証券担保ローンだ。たとえば、上場会社オーナーが保有する自社上場株式10億円を担保に3億円を借り、資金使途を問わず自由に使うことができる。資産の大半を自社上場株式が占める上場オーナーにとっては非常に有用な機能だ。

自社株担保ローンは上場オーナーにとって必要不可欠な機能だが、実は、この機能を提供している金融機関はかなり少ない。証券系PBは上場会社オーナーにとって価値が高く、特に自社上場株式を担保とした証券担保ローンを行いたい場合は、証券系PBの利用を検討してもよいだろう。

そして次は信託銀行系PBだ。

信託系PBが主に顧客にしたい属性は「地主などの不動産オーナー」だ。信託銀行としての不動産売買、信託、融資機能などをフルに活かすことができるのが同属性ということだろう。

特に「信託」は、主に信託銀行しか提供できない機能なので、顧客の状況によっては非常に有用な価値がある。信頼している信託銀行に資産の管理や判断を任せたいというニーズや、不動産をたくさん保有している親族(両親など)が高齢で、亡くなった時や意思決定ができなくなった時に備えたいという相続、遺言、資産管理ニーズに応えられるのが信託機能だ。

また最近では「上場会社オーナー」にもリーチしている。「処分信託」と呼ばれる「タイミングを分散して上場株式を売却する手法」を提供したり、証券系PBと同様に自社上場株式を担保にした証券担保ローンの機能を提供したりすることもある。

地主などの不動産オーナー、上場会社オーナー、信託機能が必要な富裕層にとっては相談する価値があるPBだろう。

そして最後に富裕層向けIFA(Independent Financial Advisor)だ。

IFAとは、独立系の金融商品仲介業者。IFAの主な顧客は資産形成層というイメージが強いかもしれないが、対象を富裕層に限定しているIFAも存在する。前述の金融機関と異なり、会社ごとに特色が異なるのがIFAの特徴だ。

対象顧客の最低基準などは設けていない会社が多いが、対象を保有資産1億円以上や上場会社オーナー、経営者に限定しているIFAも存在する。

富裕層向けIFAの最大の強みは「少数精鋭」であることだろう。主に外資系PBや日系PB出身者が集まり、大手に在籍していた時は実現が難しかった「本当に顧客にとって有益な提案を行うこと」に注力している点が大きな付加価値だ。

機能面では、契約している証券会社に依存していることが多く、通常の株式や債券、投資信託の提案は可能だが、証券担保ローンの機能などは使えないのが弱みだろう。使えないものは使えないと割り切って、証券担保ローンなどは証券会社と連携するなど、競合と補完的な関係が成立していることもIFAの特徴だ。

IFA自体がここ十数年の歴史しかなく、経営者によって方針がまったく異なるので、会社によってサービスの質が玉石混合であることは否めないが、「大手」が苦手な富裕層にとっては1つの選択肢にはなるだろう。

富裕層たちは自らの資産規模と目的に応じて、こうしたPBを使い分けているのだ。

<前回の記事を読む 【連載】富裕層ビジネスの世界 富裕層が利用するプライベートバンクの実像(1)