【連載】伊勢丹新宿本店、「オンライン顔タイプ診断」で接点を拡大 領域超えた提案も
‟顔タイプ診断”が百貨店に広まり始めている。昨年8月に伊勢丹新宿本店が自社アプリ「三越伊勢丹リモートショッピングアプリ」で、9月にジェイアール名古屋タカシマヤが化粧品売場で導入。顔の形やパーツの比率から8つのタイプに分類する同診断は、客の個性にフォーカスしたサービスを実現すると同時に、複数の商品カテゴリーに跨る「横軸」の提案も可能にする。両店に、サービスを取り入れた成果と今後の展望を聞いた。
《連載》接客をよりパーソナルに深化 「顔タイプ診断」 前編 伊勢丹新宿本店
伊勢丹新宿本店はアプリによる「オンライン顔タイプ診断」を通じて顧客接点を拡大し、購買意欲の活性化に繋げる。20~40代の若年層や新客を獲得し、利用者のうち一定数は商品の相談や購入に移行。買い物の入り口としての機能を果たしている。今年3月にはアクセサリーの情報コンテンツ「アクセリウム」で特集するなど他の売場との協業も始め、今後もその輪を広げていく考えだ。
同店はパーソナルカラーや骨格を診断する「イセタン スタイリング ローブ」、3Dボディスキャナーを使って似合う商品を提案する「マッチパレット」といった、コンサルティングサービスを専門に行う婦人ファッションのチーム「婦人カテゴリースペシャリスト」があり、顔タイプ診断も同チームが行う。
スタートしたのは昨年8月。以前から顔タイプ診断に注目し、導入を検討していたが、コロナ禍による危機感が後押しした。「昨春は緊急事態宣言によって、多くの売場が休業を余儀なくされていた。また、外出の機会が減ったことで、世間全体でファッションを楽しむマインドが低下していた」とクロージング&アクセサリーⅠグループ新宿婦人営業部ブランドショップ担当(婦人服)セールスディレクター(3月末時点)の宮本愛子氏は振り返る。
こうした問題の解決のため、自社アプリ「三越伊勢丹リモートショッピングアプリ」を利用したオンライン顔タイプ診断の導入を決めた。アプリであれば場所や時間の制限が無く、気軽に利用できる。20年にリリースされた同アプリは売場の販売員と客がチャットやビデオ通話によってコミュニケーションを取り、買い物までワンストップで行える。
オンライン顔タイプ診断は、客が専用ページに自分の顔の写真を送り、料金を支払うと、3営業日以内に診断結果が送付される。その後、チャットやリモート接客による買い物の相談ができる。アプリだけでなく店頭でも、客が売場を回るのに同行したり、希望の条件をもとに事前に商品を集めて、それを見ながら販売したりといった対応が可能だ。現在5名のスタッフが担当している。
価格は5500円に設定。専門のサロンなどは1回1万円~2万円前後が平均的だが、それに比べて廉価に抑えた。「当店はサロンと異なり、多様な商品を揃えるという強みがある。買い物の入り口という位置付け」(宮本氏)とした。
次世代層や新客を獲得、買い物の入り口に
サービスの開始直後は月に120件ほど利用があり、その後も安定して予約が入っているという。顔タイプ診断がSNSを通じて若者に浸透していることから当初は20~40代が多く、最近は50代の利用も増加。オンラインでできるという手軽さから新客の数も多く、百貨店が獲得を狙う次世代層を中心に、掘り起こしに成功している。
診断を受けた後、買い物の相談へと移行する客も少なくない。「従来からあったパーソナルカラー診断や骨格スタイル分析もご支持を頂いてきたが、顔立ちも人のイメージを決める重要な要素。よりいっそう一人一人の個性に合う提案が可能になった」と宮本氏は語る。
遠方に住む客の利用もある。例えば、「地方に住んでいるが、仕事で東京に来る度に当店に来てくださるお客様がいた。コロナ禍で来店されなくなってしまったが、顔タイプ診断の利用をきっかけに久し振りにコミュニケーションが取れた。サービスを喜んでくださり、当店に伺うのが楽しみというお声を頂けた」(宮本氏)ケースだ。「デジタルを通じて店頭に来れない顧客と繋がる」という当初の目的を達成した好事例と言えるだろう。
今春のアクセサリーイベントに導入、売場との連携が活発化
通常のサービスに加え、他領域との連携も始めている。利用客に、アクセサリーや眼鏡など、顔周りのアイテムに関心を寄せる人が多いことから、今年3月にアクセサリーの情報コンテンツ「アクセリウム」に顔タイプ診断を取り入れた。
アクセリウムのカタログに、各商品が似合う顔タイプ分類を表記。店頭でも客の顔タイプを診断し、それに合う商品をブランドを超えて提案した。アクセサリーの販売員とも事前にミーティングを行い、顔タイプ診断についての理解を深めてもらった。すると高単価な注文が相次ぎ、イベントは活況を呈した。今後も、例えばサングラスなど、様々なアイテムに特化したコンサルティング接客を検討している。
他にも、顔タイプ診断をきっかけに様々な売場とのコミュニケーションが増えたという。接客に商品知識が必要となるため、当初からチームの課題としていたが、最近では取引先の販売員が接客の参考のために聞いてくるなど、垣根を超えた交流が盛んになっている。「店全体が一丸となったおもてなし」は百貨店が目指すべき姿の1つだが、顔タイプ診断がその一助になりそうだ。