【インタビュー】山元 山元彩容子社長に聞く M&Aで装飾、設計事業を拡大へ 「夢を売る空間創造」に挑戦
什器のレンタルを生業とする山元は、装飾や設計などを強化して事業の幅を広げ、「夢を売る空間」の創造に挑む。2019年に装飾や店舗設計を行う「アートクリエイティブスタジオ」を、今年2月に創業100年の実績があり商業施設の内装工事・設計や家具製造などを手掛ける「ウエタニ」を子会社化。もともと什器のクオリティや品揃えを強みとしていたが、ディスプレイや改装も含めた包括的な空間提案も可能にした。同社は百貨店の催事場だけでなく、小規模なポップアップや常設の売場、さらにはショッピングモールやアウトレット、ファッションビルといった販路の拡大を狙っており、それに弾みを付けたい考えだ。目指すべき姿として「夢を見る・売る・買う空間を創る」をビジョンに掲げる山元彩容子社長に、新市場の開拓に向けた方針と戦略を尋ねた。
今年2月に施工に強い企業を子会社化、商業施設の内装工事も請けられます
――御社はM&Aを行うなど、事業拡大に向けて積極的な姿勢を打ち出されています。
山元 当社は什器の在庫、バリエーションを豊富に揃え、百貨店の催事場のイベントや、上顧客向けの店外催事へのレンタルを得意としていますが、使って頂く場をさらに増やしたいと考えていました。また、最近は取引先から、売場のプランニング、制作、施工などの要望も多く寄せられます。この両方を叶えるため、デザイン性に力を入れることを決めました。
そのためにまず、もともと当社が装飾などを依頼していた「アートクリエイティブスタジオ」を2019年の夏に子会社化しました。装飾や店舗設計を行う会社で、主にラグジュアリーブランドの店内装飾、ポップアップを手掛けています。そこを子会社化することで、両社のシナジーを狙いました。
さらに今年2月には、施工や店舗設計を行う「ウエタニ」を子会社化しました。ここもラグジュアリーブランドのブティックなどと取引がある会社です。
――アートクリエイティブスタジオの子会社化の後にコロナ禍となりましたが、狙っていた効果は生まれていますか。
山元 相乗効果が少しずつ出ています。デザイン性などのレベルが非常に高いので、その力を借りています。もちろん什器については当社が強いので、装飾や造作物が必要な時やブランドポップアップ提案の際には当社の什器使用を含む形で連携しています。同じグループになったことで、お取引先様にもより安心して頂いています。グループになったことで今まで以上に融通も利くようになり、提案の幅が広がったので、現時点ではプラスの要素ばかりです。
――ウエタニの子会社化には、どのようなメリットを期待しますか。
山元 当社と繋がりがない取引先を持っているので、新規の販路開拓のきっかけにしたいです。また、ウエタニは施工を中心に、店舗設計、家具の製作などを手掛けているので、そうした方面にも当社の事業が広がることが期待できます。
中でも、百貨店など商業施設が改装する際に、コンペティションに参加できるようになるのが大きなメリットです。既にノウハウを持っているうえ、一級建築士等の有資格者もいるので、非常に心強いです。改装のコンペティションに参加できれば内装工事の受注に加え、状況や予算によっては当社の什器のレンタルもできるようになります。従いまして、当社で一括で受注できる、〝ワンストップ〟が可能になります。什器の長期レンタルのほか、短いサイクルで替えて都度売場の雰囲気を変えることもできますし、M&Aによる内製化によって、オリジナル什器の製作をローコストで請けることもできます。
当社は長年什器の製作を依頼していた「ジューキ工芸」を20年に事業譲渡し、今は社内で行っています。ウエタニも家具製作や造作工事を行っているので什器の製作が可能ですし、互いに協力できるようになるのではと考えています。現在、こうした提案もできるようになることを、個々のお客様に説明しているところです。
――什器のレンタルに加えて装飾、店舗設計と、大きく幅を広げましたね。
山元 とにかく時代の変化が速いので、指をくわえて見ているわけにはいきません。何か新しいことにチャレンジしないといけない、という想いがありました。
社員にも意識を高めてもらうため、私が社長に就いてから、今の仕事に何かもう1つをプラスする「プラスワン」の推奨を始めました。例えば什器をレンタルするのであれば、そこに装飾の提案も入れてみる、といった感じです。次に、「プラスワンチャレンジ」という言葉も掲げました。〝プラスワン〟を頭の中で考えているだけではなく、実行しようという意味です。失敗しても良いので実行することが大切ですから、ことあるごとに「プラスワンチャレンジをしよう」と伝えています。最初は社員も戸惑いがあったかと思いますが、今は積極的に新しい販路を開拓したり、提案したりと頑張ってくれています。
お困りごとがあるとスピーディーに対応する、機動力は先代の頃から大切にしてきました
――「プラスワン」、「プラスワンチャレンジ」によって、どのような成果が出ていますか。
山元 以前からメーカーの展示会などが有望だと睨んでいましたが、少しずつ、当社の什器を使って頂く機会が増えてきました。小さなポップアップで、試しに任せて頂いたこともありました。新たな取引は、百貨店での仕事をきっかけに営業社員同士が知り合うケースが多いです。当社が百貨店の手配で什器をレンタルするときに、メーカーの営業の方にお困りごとを相談されることがあり、そうしたところから関係性が生まれます。オファーを頂くこともあれば、当社が提案し、コンペなどで採用して頂く事例も増えています。
百貨店との取引も、使って頂く場所を広げています。百貨店は大規模な催事場以外にも各フロアにイベントスペースがあり、エスカレーターの前などにも小さなイベントスペースがあったりします。そういったところで百貨店やメーカーと協業し、什器をレンタルするにしても「プラスワン」でオリジナルの装飾を足すなどしています。
当然、催事場へのレンタルといった既存事業もしっかりとやっていきます。コロナ禍もありますが、今まで通り催事を行う店舗もありますし、再開したいという声も聞きますので、そこに期待をしています。
――御社の什器を使用した取引先からの反響はいかがですか。
山元 提案力や対応力などもそうですが、何より什器の良さを認めて頂き、「当社の催事でも使えますか」と問い合わせを頂くことがあります。
また、昔からよく「機動力の山元」と言われています。何かお困りごとがあるとスピーディーに対応しているので、そういう部分がちょうど皆様のご要望に応えられているのかもしれません。
現在当社の営業所は、本社を含めて18カ所あります。そこでしっかりと地域に根差し、北は札幌、南は熊本まで広くカバーしています。もし東京以外の地域で催事をするとなると、通常は東京からトラックで運搬しなければいけませんが、当社は一部のオリジナル什器を除いて最寄りの営業所から出荷できます。そのため運送費や手配の手間も軽減されます。営業担当が受注したら全国どこでも手配ができるので、1つの窓口で全国的な対応が可能というのは大きなアドバンテージです。
物流センターはシフト制ですので、土曜日や日曜日の搬入・搬出も全く何の問題もなくできますし、急なトラブルや発注にも応えられます。そういった部分も機動力を構成する1つなのかもしれません。こうした姿勢は先代(創業者である故・山元春三氏)の頃から大切にしていたもので、「お客様が困ったときにはできる限りの対応をしなさい」と教えられてきました。
――直近では、コロナ禍の影響が大きかったのではないでしょうか。
山元 20年の2月前半までは今まで通り催事が行われていましたが、中旬以降は段々と大きな催事のキャンセルの連絡が相次ぐようになり、最終的にはほとんどキャンセルとなりました。ただ、その頃に長年に亘る協力会社の社長から「大丈夫です。私はしっかりと待っています」と連絡を頂き、その言葉は本当にありがたく感じました。そういう励ましの言葉を頂くと、やはり「自分だけではない」と思えます。どうにか頑張らないといけない、と気を引き締め直しました。
20年の夏頃から少しずつ感染者数が減少し、それに連れて百貨店も元に戻り始め、9月以降は催事の数も増えてきました。21年はまた感染者数の増加によって催事が中止になることもありましたが、20年のようにどこも営業休止、ということではありません。おかげで、少しずつですが回復基調を見せています。しかし厳しい環境に対応できるように、事業の拡大や基盤の安定化も欠かせません。
目指すゴールは「見る人、買う人、売る人たちが、一緒になって夢を売る空間」と定義しました
――今後に向けてはどういった舵取りを行いますか。
山元 改めて私の中にある企業理念、経営ビジョンを見つめ直して具体化し、中期経営計画(22年~24年9月期・60周年)を策定しました。大きな方向性としては、「チャレンジ精神を忘れずに色々なことに取り組み、当社が活躍できる場を自分達で開拓して広げていく」ということです。もちろん私が旗振り役ではありますが、社員の一人一人が、何をするべきか、何ができるのかというアイデアを持ち寄り、全員でゴールに向かうという形を目指します。
今は、全員を型に嵌めて一緒に進もう、という時代ではありません。人の個性や発想を生かすべきだと思います。また、当社はお客様もそれぞれに異なります。百貨店、ラグジュアリーブランド、量販店など業態は様々ですし、百貨店も成り立ちや強み、価値観、店の雰囲気など各社各様です。そこに当社の担当が、お客様が何を求めているのか、何を提供したら一番役に立つのかということを、それぞれ考えなければいけません。そのためのきっかけをつくり、最終のGOサインを出すのが私の役目なのだと捉えています。
――目指すゴールとは、どういったものでしょうか。
山元 私達が仕事をさせて頂く場所を、単にモノを売るだけではなく、「見る人、買う人、売る人たちが『一緒になって夢を見る空間』」と定義しました(上図)。例えば美術館は、見るだけでも夢が広がり、感性が豊かになります。モノを買う人の中には、一生懸命働いたりお小遣いを貯めたりして努力して、実際に買えたら「夢が叶った」と思う人がいます。それは裏を返せば、売る側もお客様に夢を売っているということです。そして、その場所・空間を、私達が装飾などを施し創らせて頂く。こういった構図なのではないかと考え、具体的にビジュアル化しました。このゴールに向かっていこう、というのがお客様へ提案する上での基本理念になります。
こうした発想の根底には、私の幼少期の経験があるのかもしれません。親がこの仕事をしていたこともあり、子供の頃連れて行ってもらう場所はいつも百貨店でした。当時はディズニーランドなんて無い時代ですし、私にとってのディズニーランドは百貨店だったんです(笑)。前の日に母親から「明日はデパートへ行くわよ」と言われたら、何を着て行こうか考えたりして、私自身が百貨店に夢を持ってワクワクしていました。ですから、今百貨店へ行く方にも夢を持ってワクワクしてほしいですし、関わっている身としてはその想いを忘れてはいけないと感じます。
それは量販店やショッピングモール、アウトレット、ファッションビルも同様で、どの場所もそれぞれが夢を見せてもらえる空間なのだと思います。
環境問題に向き合う姿勢を明示し、IOS認定の取得に向けて動いています
――百貨店は今後も重要なマーケットとなるかと思われますが、こうしたビジョンをどのように実現していきますか。
山元 百貨店とは今後もしっかりと取引させて頂きたいですし、そのためにも、私はよく社員に「地下から屋上まで」と声掛けをしています。これは先程も述べたような、催事場以外にも当社ができることを徹底的に探そうという発想です。自分たちで店の端から端までしっかりと観察をすることで、社員の視野も広がります。単なる「レンタル什器屋」というだけではなく、そこにプラスして提案の幅を広げ、仕事の場を増やしていきます。もちろんアイデアだけではなく、コスト面も意識させています。
やはり私達は百貨店に育てて頂いたという気持ちがとても大きく、百貨店が無ければ当社の商売は全く成り立ちません。これから先も、百貨店がある限り、共に仕事をさせて頂きたいという想いがあります。
――逆に、他の商業施設についてはどのように考えていますか。
山元 特定の業態にこだわる訳ではなく、広くやらせて頂きたいと考えています。当社は1つ100円の食品から、何十億円もするジュエリーや骨董品まで、全てに対応できる什器を揃えています。有難いことに百貨店やラグジュアリーブランドとの取引も多いですが、ラグジュアリー感のある、高級な場所でしか仕事をしないということはありません。食品の物産展に出ることもありますし、見るだけの絵画展なども手掛けています。モノを売る、展示する場所であれば安心して任せて頂けるという自信はあります。
様々な場所で取引をスムーズに行うためにも、環境問題に向き合い、その姿勢を示すことも指針の1つにしています。昨年10月には継続的に環境保護に努め、法令を遵守する旨の「環境方針」を発表しましたし、現在はISO(国際標準化機構)の認定を取るために動いています。環境問題への意識は、特に海外のラグジュアリーブランドが高く、取引を円滑に進めるためにも取得しようと決めました。日本でもトラックの排気ガスやモノの廃棄などについて問題視され始めています。現在申請中で、順調に行けば今年の夏には認定される予定です。
宝飾ケースはLEDライト化へ改良を始め、温めていた新作は春から順次リリースします
――販路の拡大のためにはやはり什器のクオリティ、品揃えも重要ですが、新作の発売などの予定はありますか。
山元 需要や技術の変化に合わせて、什器もアップデートしています。今、当社で一番メインになっている宝飾ケースはLEDライト化へと改良を始めていて、春には一定の数が揃う予定です。創業55周年を記念した新作什器の展示会を20年に行う予定で温めていたのですが、コロナ禍で開催できなくなってしまったので、今春以降に商品化します。在庫は東京と大阪に置き、地方でも必要があれば配送して使う形を考えています。4月頃には、お客様に見て頂ける状態になるので、ぜひともご覧になって、使って頂きたいです。
――装飾などはM&Aによって補強されましたが、什器のデザインや製作は御社が手掛けられています。質を高めるために、講じている施策はありますか。
山元 内部の人材の強化の必要性も感じています。そのため、20年10月に、デザイン室の若いデザイナーによるインスタグラムを始めました。ポップアップや装飾のアイデアとして、イラストで提案します。これはお客様への営業ツールにもなりますし、デザイナーや営業社員の勉強、経験にもなります。最初は「大丈夫かな」と心配することもありましたが、最近は良いデザインを提案できるようになっています。
インスタグラムを見たお客様から「これをやってみたい」とご要望があり、実際にショーウインドウやポップアップに使って頂いた事例もあり、実績に繋がっています。自分がつくったものやデザインしたものが実際に形になり活躍すると、デザイナーのモチベーションも上がるので、提案や営業と同時に勉強の場としてしっかりと機能しています。これも「プラスワンチャレンジ」で始めたことの1つです。
――現在は成長に向けた布石を打っている状態ですが、アフター・コロナには期待できそうですか。
山元 コロナ禍さえ落ち着いてしまえば、今まで我慢していた分、回復に向かうのではないでしょうか。おそらくまたリアル店舗が必要とされ、人が集まるようになります。若い人の中にも、インターネットで買うだけではなく、「(モノによっては)現物を見ないとわからない」と思う人は少なくないようです。レンタル什器の事業も装飾を含めた空間提案も大いに商機はありますし、逃さず取り込んでいきたいです。
(聞き手・都築いづみ)