【連載】JR名古屋タカシマヤ、改装を機に「家具」を常設展開~リビング再創造へのリノベ~
注)僚誌「ストアーズレポート」2021年5・6月合併号に掲載した記事を再編集しました。データや名称等は当時のものですので、ご注意ください。
21年2月24日に改装した、ジェイアール名古屋タカシマヤのリビング売場が好調だ。同年3月の売上げはコロナ禍の影響がない前々年比でプラスとなった。今回の改装では今まで無かった家具の常設展開を始めたことでニーズの掘り起こしに成功。イエナカ時間への関心の高まりも追い風となった。店頭に置ける商品の数は限られるが、メーカーのショールームへ送客して補う。実は家具の強化は数年前から行っており、店外催事の数を増やしたり、ショールームについてまとめた冊子を制作・配布したりしていたが、「ジェイアール名古屋タカシマヤでは家具を扱っている」ことがまだ十分に知られていなかったため、売場での常設を決定。改装は近年40~50代を中心に活況となっている美容・健康、ホームウェアも対象とし、客層の若返りを図った。
ショールームへの送客や店外催事で右肩上がり
9階に構えるリビングフロアは「寝具&バス・トイレタリー」、「インテリア」、「キッチン&テーブルウェア」の3つのゾーンに大別できるが、今春の改装までは家具の常設売場は無かった。家具はその大きさからスペースを広く必要とし、置ける種類にも限りがある。「面積効率の観点から避けていた」と営業第4部家具・インテリア・手芸用品マネージャー横田美緒里氏は語る。
取り扱いが全く無い訳ではなく、名古屋市内など近隣に立地する家具メーカーのショールームへの送客は行っていた。とはいえ連携する取引先はほぼ1社のみと少ない。ショールームを通じて家具を販売しているということも知られておらず、外商販売員が顧客に案内するケースがほとんどだったため、家具の売上げは外商顧客が大半を占めていた。
新規開拓の余地が大きいと考え、2018年にアプローチの強化に着手した。店外催事で「シモンズ」、「リアルスタイル」など今まで取り引きがなかったブランドを始めたり、年2回に増やしたりなど、内容と数を充実。回数を重ねるに連れて、売上げは右肩上がりとなった。ショールームについては、外商顧客だけでなく一般顧客にも広く認知してもらうため、案内しているメーカーの一覧をまとめたガイドブックを作成。18年9月から売場で配布し、ホームページにも電子版を掲載するなど、積極的にPRした。すると家具における一般顧客の売上げ構成比は上昇。しかし認知度はまだ十分ではなく、さらなるテコ入れが必要と判断し、9階での常設展開を決めた。
昨今ではインターネット通販の台頭が目覚ましいが、「家具は日用品や衣服と異なり一度は現物を確認して買いたい人も多いため、需要はある」(横田氏)という勝算もあった。
同時に、美容・健康とホームウェアも改装した。「最近では消費者の美容に対する意識が、特に40~50代の女性が以前に比べて高くなっている」(営業第4部家具・インテリア・手芸用品・寝具・バストイレタリーグループグループマネージャー前中崇秀氏)ためであり、顧客層の若返りを図った。同店の客の中心年齢層は40~50代だが9階は平均で60代で、若い客を獲得できていないという課題を抱えていた。
また、タオル・バストイレタリー領域の不振も背景にある。タオルは香典返しなど仏事の用途が多いが、最近では高齢化や家族葬など小規模な葬儀が増えたことで参列者は減り、市場は停滞傾向にある。タオルは今回の改装で縮小し、その分を前述の領域に充てた。
ライフスタイル提案型のインテリアショップ導入
リニューアルのテーマは、「Enjoy your home time(おうち時間を堪能する)」。新ブランドとして、家具・インテリアでは「リアルスタイル」、「サラグレース」、「ニーディック テキスタイル」、「シモンズ」、「ベル・フルール」を、美容・健康では「ザ ハーブス」、「ヴェーダヴィ」、「アーティスティック&シーオー ボーテ」を導入した。ホームウェアでは「フェイラー」、「ファブリック ファニッシング・バイ・ワイズフォーリビング」、「ラルフローレン ホーム」を改装し、リカバリーウェアの「ベネクス」をナイトウェアの編集売場に加えた。
改装の目玉となる「リアルスタイル」は、ライフスタイルを提案するインテリアショップブランド。国内外のインテリアアイテムや、国産のオリジナル家具を取り扱う。名古屋で始まったブランドで、名古屋市内に本店(中区)、名古屋東店(天白区)も擁し、百貨店への出店は今回が初となる。一級建築士事務所も展開しており、空間設計を含めたコーディネート、リノベーション、建築の相談もできるのが特徴だ。同店の売場でも一級建築士事務所による注文住宅・リノベーション相談を常時受け付けている。
売場面積は約70平米。置ける商品の数に限りはあるが、市内にあるショールームも案内してカバーする。展開する商品は定期的に入れ替え、鮮度を保つ。
導入の理由について、横田氏は「ほかの有名な家具ブランドを入れようという話も上がったが、同ブランドはリノベーションを始め、幅広くイエナカ空間の相談ができるという強みがあった」と説明する。家具だけでなくコーディネートやリノベーションも受注できれば客と店の関わりは深くなり、生涯顧客になる可能性もあるなどメリットは大きい。
さらに、同ブランドとは以前から店内外催事を行っていたが、多くても年に2回、期間は約1週間しかないため、購入に至るまでのサポートが十分でないと感じていた。売場を常設し、客との接点の維持を目指す。
家具・インテリアでは加えて、国内外の多くのホテルで採用された高級ベッドを扱う「シモンズ」、オリジナリティ溢れるテキスタイルを展開する「ニーディック テキスタイル」、フレンチスタイルをベースに独特の世界観を持つ、洋食器や家具をヨーロッパから直輸入し販売する「サラグレース」、デザインと素材にこだわったフラワーデザインスクール&プリザーブドフラワーショップの「ベル・フルール」など百貨店らしい上質なブランドを集積。内装は異なるブランドでも比較しやすいように間に壁を設けず、見通しがよく回遊性の高い空間を構築した。
美容・健康とホームウェアでは、昨今ニーズが高まっている機能性や効能が確かなブランドを集めた。「ザ ハーブス」は海外の最適な環境で育ったハーブを直輸入し、自社でハーブエキスの抽出を行うコスメブランド。「ヴェーダヴィ」は体調や生活習慣に応じたカウンセリングを行い、ハーブティーやマヌカハニー、ボディ用品などを提案する。「アーティスティック&シーオー ボーテ」は、セルフエステができるハンディ美容機器やスキンケア、コスメを揃える。「ベネクス」は上質な休養を得るために開発した「リカバリーウェア」を取り扱う。
3月は前々年比でプラス、イエナカ需要増が追い風
こうして家具、美容などを拡充した結果、リニューアルした売場の21年3月の売上げは、コロナ禍の影響を受けない前々年実績を大きく上回った。商品分類で比較しても、同店の紳士衣料が前年比71%、婦人衣料が同73%となる中で家庭用品は同91%となり、コロナ禍で全館的に苦戦する中でもマイナス幅は小さい。コロナ禍以前からの計画だったが、結果としてイエナカ需要が高まっている時期だったのも追い風となった。
一般顧客への認知度の上昇を目指した狙い通り、売場を目にすることで販売員に家具の購入を相談する客の姿も多く見られたという。リアルスタイルの店外催事で購入を検討していた客が来店し、再度相談をするといったケースもあり、店頭を中心に店外催事、ショールームとの相乗効果が生まれつつある。
〝攻め〟のアプローチ奏功、エバーリニューアル継続
早速改装の効果を享受した格好だが、実は今回の改装では心残りがあったという。コロナ禍によってダメージを受け、出店を断念した取引先も少なくなかった。そうした取引先への再打診も含め、今後もエバーリニューアルを続ける予定だ。
売上げが伸びたのは消費者のニーズに応じた売場編成が適切だったことの証左だが、特に家具においては数年前から自ら客へアプローチする〝攻め〟の姿勢に転じたのも大きいだろう。客との接点が薄れてしまいがちなウィズ・コロナの時代は、より一層接点の確保が重要となる。百貨店は優良な顧客を多く抱えるという強みがあるが、どのように働きかけるかにも工夫が求められる。同店は常設売場、店外催事、ショールームという〝三位一体〟の販売手法で客へ訴求し、リアル店舗ならではの価値の提供に取り組んでいる。