高島屋横浜店にZ世代が急増するワケ 青木和宏執行役員店長に聞く
Z世代が急増する百貨店がある。高島屋横浜店だ。「JR横浜タワー」が開業した2020年6月、食品売場の増床・改装を終えた21年3月の2段階で、Z世代の流入が加速。化粧品やラグジュアリーブランド、時計、アウトドア用品、高感度なブランドを揃える「スタイル&エディット」や「CSケーススタディ」をはじめとする自主編集売場などでは、Z世代の売上げ構成比が上昇の一途で、ラグジュアリーブランドの一部では昨年12月の売上げの約25%を24歳以下が占めた。いずれも、周辺環境の変化による“自然増”ではない。従来と同じ売場やショップでも、Z世代に照準を合わせて品揃えの幅を広げたり、Z世代に“刺さる”イベントやプロモーションを仕掛けたりしてきた成果だ。デジタルネイティブのZ世代は、欲しいモノやコトがあれば、検索して買える場所に足を運ぶ。「百貨店に対する心理的な障壁がない。むしろ、接客を“神対応”と喜ぶ。Z世代はウソやニセモノを見抜くゆえに、正規品は百貨店で購入する」と、青木和宏執行役員店長は強調する。Z世代を、どう取り込んできたか。青木店長に尋ねた。
――消費の牽引役として注目されるZ世代について、どう捉えていますか。
「社会人になり始め、(使える金銭が増えて)消費の主役に躍り出ました。当店でもZ世代の姿が目立ちますが、その第1フェーズは20年6月。JR横浜タワーが開き、肌感覚として『Z世代が増えてきた』と思いました。第2フェーズは21年3月、当店の食品売場の増床・改装が完成しました。数字的な確証はないものの、食品売場を中心とした様々な仕掛けがZ世代の呼び水となり、館全体の吸引に繋がった印象です。2週間で1万8000個近くが売れた『マリトッツォ フェスタ』、30ブランド・約70種類のチョコパンが集結した『チョコパン フェスタ』といった催事を通じ、Z世代に『面白い店』と認知された感触もあります」
「もっとも、Z世代だけが増えているわけではありません。コロナ禍で海外旅行を断念した可処分所得の多い方の旺盛な購買意欲に支えられ、ラグジュアリーブランドは軒並み過去最高の売上げを記録しました。同じくコロナ禍を理由に、都内の店舗で発行された『タカシマヤカード』を持つ神奈川県民の買上げも増えました。コロナ禍で県外に出るのがはばかられただけでなく、『横浜店でも十分に買い物ができる』と認識してもらえたようです。特にデジタルネイティブの世代は、検索等を通じて『地域1番店には人気商品、優れたスタッフが集まる』と認識しているようです。Z世代は、まだまだ増えていくと期待しています」
――Z世代の増加を示す兆候や数字などはありますか?
「平日は18時以降、土日祝は15時以降に、20代前半のお客様が急増し、総じて男女の2人組、女性の2人組、男性の3人組、男女の5人組など複数での来店が目立ちます。主に立ち寄るのは、食品、化粧品、ラグジュアリーブランド、婦人服のスタイル&エディット、紳士服のCSケーススタディ、紳士靴の『シューメゾン オム』、美容関連の『ベルサンパティック』、時計、アウトドア用品などの売場です」
「土日祝にはラグジュアリーブランドに若年層の行列が生まれ、スタイル&エディットは母と娘が一緒に買い回る様子を頻繁に目にします。和洋酒売場に併設したフードペアリングバー『BAY-ya(ベイヤ)』を1人で利用する女性も多いです。化粧品売場では、高校生の買上げが増加しているほか、複数のブランドで20代のシェアが大きく上昇。あるブランドでは男性の自家需要が伸び、売上げ比率が2割に達しましたが、当店は男性用の化粧品を扱うブランドが約10にのぼり、美意識の高い30代以下の男性を取り込めています」
「こうした傾向は昨年の11月下旬以降に顕著です。数字にも表れており、ラグジュアリーブランドの一部では、12月の売上で、24歳以下が4分の1、29歳以下が約4割を占めました。より細かく見ると、18~24歳の売上シェアが最も高く、伸長率もトップで20%を超えていました。また、ある化粧品のブランドは同じ12月に月商が1億円を突破しましたが、その原動力は構成比で40%近くを占めた24歳以下です」
――Z世代を獲得するためには、化粧品やラグジュアリーブランドが重要ですね。
「ラグジュアリーブランドのブランディングやマスマーケティングが寄与したとも言えます。日本人が好きなキャラクターとのコラボレーションを積極化するラグジュアリーブランドもあり、Z世代との距離が近いです。化粧品については『デパコス』という言葉が浸透し、売場には制服の高校生がみられます」
――Z世代は百貨店にハードルの高さを感じないのでしょうか?
「Z世代はウェブサイトやSNSでの検索が消費の出発点です。百貨店に敷居の高さを感じません。むしろ、SNSでは百貨店の接客を体験して『神対応』、『一人前として扱ってもらい、気分が上がった』といったコメントが散見されます。デジタルネイティブのZ世代の間では、世の中にはウソやニセモノがあることが前提になっています。ゆえに、正規品は百貨店で買うのかもしれません。Z世代の男性は、女性の目線を気にせず化粧品売場に入れますしね」
「そもそも当店は数年来、20代を狙って改装してきました。16~17年には化粧品売場を改装し、17年にはレディススーツの自主編集売場『スーツクローゼット』を、18年にはトレンドのメンズスーツをオーダーできる『スタイルオーダーサロン』や体験型コスメの『ベルサンパティック』を、19年には『シューメゾン オム』を開設。20~21年にはライブ感とエンターテインメント性を軸に食品売場を増床・改装し、21年には『CSケーススタディ』の面積を2倍に広げました」
「改装だけでなく、お客様の要望や不満などを販売員が書き込む『ウォントスリップ』を品揃えに活用しています。婦人洋品売場には『ニューエラ』を、CSケーススタディには『Y-3』を、スタイル&エディットには『シートーキョー』を入れ、スタイル&エディットやデニムの自主編集売場『デニムスタイルラボ』ではユニセックスの商品を増やし、ベルサンパティックではジェンダーレスやフェムテックに関する商品を強化。20年度の下期には1階に誘致するポップアップショップをZ世代向けに刷新し、婦人靴売場では21年下期から25cmの比重を高め、細木型も充実させました。Z世代の女性は総じて足が縦に長く、幅は狭いからです」
「Z世代の増加にともない、平日と土日で売れ筋が変わる売場も出てきました。それも反映させています。例えば昨年のクリスマス商戦では、スタイル&エディットやCSケーススタディで販売するブランドについてネット上に投稿された動画の再生回数を調べ、その上位を売場の前面に並べました」
「Z世代を集めるためには、SNSの利用も不可欠です。『マリトッツォ フェスタ』、『チョコパン フェスタ』、『ドーナツ フェスタ』、『ストロベリーパレード』など特定の食べ物にフォーカスして多種多様に揃える催事は、ブロガーやユーチューバーらが注目し、頼まなくても拡散してくれます。マリトッツォ フェスタで『梅や』が販売した、国産鶏を使ったメンチカツにマッシュポテトを挟んだ『鶏トッツォ』は、ツイッターである方の投稿が拡散され、2万1000以上のリツイートと6万3000以上の『いいね』を記録し、昨年7月24日のトレンドで6位に入りました。それを見た方の来店は多かったはずです。催事の宣伝媒体も見直し、よりカラフルに、よりスイーツの露出を多くした結果、若い人達が増えてきました」
「社員にはSNSでの発信を奨励しており、昨年3月には店内に撮影用のスタジオを開設しました。Z世代の社員を中心に試行錯誤しており、インスタグラムでは再生回数が1万や2万を超える投稿も増えてきました」
――Z世代の社員への権限の委譲も大事ですね。
「Z世代を中心とした若手社員による企画、運営では、昨年10月6~19日の『チア アップ ウーマン』が象徴的です。『行動派ファッショナブル女子』、『ほどよくリラックス女子』の2種類のペルソナを設定し、横浜駅周辺で働く女性に弁当やナイトウエア、ビジネスバッグ、スーツ、文房具などを打ち出すとともに、約90種類のクーポンを配布しました。驚いたのは骨格診断、パーソナルカラー診断、コンサルティングからなるイベントで、参加費は9900円と“強気”でしたが、20歳の学生が参加したり、29歳の女性が10万円くらい服を買って帰ったりと、好評を博しました」
「以降も、スーツクローゼットが展開する就職活動用のスーツのラインナップに1年目の社員の意見を採用する、昨年のクリスマス商戦では婦人洋品売場で価格帯別にギフトを集積するなど、Z世代社員の目線や感覚を店頭に生かしています。百貨店業界では価格帯別にギフトを訴求するのは珍しいですが、多くのお客様を引き込みました。男性にとって婦人洋品売場はハードルが高いですが、推奨品を価格帯別にピックアップすると、入りやすかったようです」
――オミクロン株が猛威を振るい、「リベンジ消費」で盛り返しつつあった百貨店業界には再び逆風が吹きますが、高島屋横浜店の業績は好調ですね。
「今年1月の売上高は、速報ベースで前年比31.5%増と好スタートを切りました。Z世代の押し上げは大きいですが、私には『百貨店の理想は紅白歌合戦』という持論があります。すなわち、全世代に支持される店舗を目指し、これからも舵を取っていきます」
(聞き手:野間智朗)