藤崎の移動販売、コロナ禍で客の心を掴む
政府が発令した緊急事態宣言を受け、百貨店業界では店舗の臨時休業や生活必需品を扱う一部の売場での営業が続いた。3月や4月の売上げは過去に例を見ないほど落ち込み、経営は厳しさを増しつつある。そうした中でも、地域住民の生活を支えるため、外出を自粛する人々の毎日に〝潤い〟を与えるため、さらには従業員を守るため、各社は食料品売場やインターネット通販を拠点に奮闘してきた。すでに緊急事態宣言は解除されたが、「ウィズコロナ」の時代を乗り切るためには、新たなビジネスモデルの確立が不可欠だ。その現場を追う。第8回は、宮城県の藤崎だ。買い物難民を支援するため、2015年11月に始めた移動販売が、コロナ禍で再び注目と支持を集める。
藤崎は緊急事態宣言の発令に伴い、4月18日~5月10日を臨時休業。同宣言の解除を受けて5月11日に時短で再開し、6月1日からは午前10時30分~午後7時で営業する。
再開にあたっては、客と従業員の安全および健康を最優先に「感染防止ガイドライン」を策定した。ガイドラインに基づき、従業員にはマスクの着用を義務化するとともに、手の洗浄や消毒、うがい、検温などを徹底。売場には、ウイルスの飛沫や感染を防ぐビニールカーテン、アクリル板などを設けた。客との金銭の授受はトレイを介し、食品売場では買い物用のカートやカゴを消毒するなども含め、安全・安心な買い物環境を追求する。
その藤崎で、注目と支持を集めるのが移動販売だ。専用のトラック「藤崎クルリン号」に、野菜や果物、精肉、加工肉、鮮魚、惣菜、菓子、米穀類、日用雑貨、パンなど約600点を積み込み、1週間に3回、仙台市の北部を巡回する。新型コロナウイルスの蔓延後は、あらかじめ客に品揃えの要望を聞き、滞在時間を短縮するなど、3密を避ける工夫にも余念がない。
15年11月から展開するが、「新型コロナウイルスの影響で、遠くのスーパーマーケットまで買い物に行くのが困難な人々から『大変ありがたい』と感謝の声を頂戴している」という。停車時間は約1時間だが、1日に約50人が利用する。
一方で、客からは「訪問場所を増やして欲しい」という声も届く。藤崎は「今後も移動販売のニーズは増えると考えており、自治体と協力しながら、巡回する地域を増やすなど買い物環境を改善していく」方針だ。
コロナ禍では、非対面のインターネット通販にも力を入れた。ネット通販サイトには4月下旬、「おうちde快適に過ごそう」をテーマに、ヨガの用品、自宅で遊べる玩具、食品などを編集したページを開設。また、需要が旺盛なハンカチマスク、ハンドジェルをネット通販サイトで買えるようにした。
中元商戦でもネット通販を強化。今年は初めて、ネット通販サイトでの受付を店頭のギフトセンターより7日早く始めた。対象の約200点を5%オフで販売する「WEB割」、約50点のネット通販サイト限定商品も用意。外出を自粛する人々の購買意欲を喚起する。
藤崎は「引き続き、新型コロナウイルスの感染の状況、政府や自治体からの要請などを踏まえて施策を講じていく」。店舗、移動販売、ネット通販サイトを柔軟に使い分け、客に寄り添う。