小田急百、AR技術を使ったイベントを初開催
小田急百貨店、NTTデータNJK、CinemaLeap、小田急電鉄は12日、AR(拡張現実)の技術を使って日本の伝統工芸文化を楽しめる展示「TSUKUMO-KAMI:soul of folk toys」を始めた。20日まで小田急新宿店の本館1階中央口前に特設会場を構え、九州の郷土玩具を陳列。入場者はアイウェア「ARグラス」を渡され、身に付けて郷土玩具を見ると、それぞれに宿る「九十九神(つくもがみ)」が効果音とともに浮かび上がり、動き出し、郷土玩具にまつわるストーリーなどが音声や文章で流れる。気に入った郷土玩具は、同期間に本館11階の催物場で開く「日本のものづくり」や小田急百貨店のインターネット通販サイトで購入が可能だ。小田急百貨店がARの技術を用いた展示を手掛けるのは初めてで、参加は無料。
特設会場は“和”の雰囲気を演出。和室を思わせる空間には「博多人形『干支 福虎』」(福岡県)、「尾崎人形『赤毛の子守』」(佐賀県)、「姫だるま」(大分県)、「子抱猿」(熊本県)、「古賀人形『大猿』」(長崎県)、「佐土原人形『犬』」(宮崎県)、「オッのコンボ」(鹿児島県)の7点が並ぶ。一つ一つにアニメーションが用意され、ナレーションや文章を通じて歴史や特徴などを学べる。日本の伝統工芸文化に興味を持つ外国人の来場、あるいはウェブサイトでの閲覧を想定し、郷土玩具の名称や説明文は英語だ。
アニメーションの制作や監修には、国内外で高く評価されるXR(クロスリアリティ)クリエイター、伊東ケイスケ氏を起用。同氏は同じく12日に幕を開けた日本初のXR映画祭「Beyond the Frame Festival」のメインビジュアルも制作した。
展示会は、経済産業省の委託事業でもある。小田急百貨店が経済産業省の「展示会等のイベント産業高度化推進事業(展示会等のイベント産業高度化推進実証事業)」に応募。同社の石川真経営企画部経営企画担当兼店舗開発担当統括マネジャーは「物産展をアップデートできないかと考えた」と狙いを説明する。
実際、ただARの技術を活用した展示会を開くだけでなく、リアル店舗の催事と連動。催物場には展示会を紹介するコーナーを設け、本館の1階と11階で相互送客する。
特設会場は20日まで、専用のウェブサイトは31日までの期間限定だが、同社は今後もARをはじめとするデジタル技術を活用し、リアル店舗での体験価値を向上させる方針だ。石川氏は「従来の物産展は販売が主目的で、商品のストーリーを伝え切れていなかった。ARなどのデジタル技術を使えば、百貨店や物産展、商品に興味がなかった人と接点を得られる。デジタルとリアルの両方に“出入口”があれば、ネット通販しか利用しなかった人がリアル店舗を訪れ、リアル店舗でしか買っていなかった人がネット通販サイトも使うようになるかもしれない」と期待を寄せる。
さらに、全国の伝統工芸品を集めてブランディングするビジネスモデルも視野に入れる。生産者が出店料を払って商品を送り、小田急百貨店は場所の提供や編集、販売、PRなどを担う手法だ。石川氏は「地域活性化にも繋がれば」と意気込む。TSUKUMO-KAMI:soul of folk toysは、その試金石でもある。