2024年11月19日

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遠鉄百貨店、「コロナ後」見据えEC強化

政府が発令した緊急事態宣言を受け、百貨店業界では店舗の臨時休業や生活必需品を扱う一部の売場での営業が続く。3月や4月の売上げは過去に例を見ないほど落ち込み、経営は厳しさを増しつつある。そうした中でも、地域住民の生活を支えるため、外出を自粛する人々の毎日に〝潤い〟を与えるため、さらには従業員を守るため、各社は食料品売場やインターネット通販を拠点に奮闘する。その現場を追う。第6回は遠鉄百貨店だ。時短や食品売場限定を経て、5月11日に全館営業を再開したが、4月初旬時点で人々のライフスタイルや価値観などの変化を予測。インターネット通販の強化に踏み切った。

コロナ禍への対応に追われる遠鉄百貨店に4月9日、プロジェクトチームが立ち上がった。「EC強化プロジェクトチーム」だ。リーダーを任された営業本部マーケティング戦略課の三宅隆史氏は「新型コロナウイルスの感染が拡大し、実店舗での消費活動が減少する反面、EC市場は増加基調にある。さらに〝アフターコロナ〟を予測すると、人々の価値観や消費行動が大きく変化し、ECの重要性は一層増す。その世界にいち早く適合するためには、マーケターとして地域の住民と向き合い、刻一刻と変わる状況を見極め、常に寄り添うECサイトを展開しなければならない」と経緯や目的を説明する。

チームは、各部署を横断して結成。中心を担う営業本部マーケティング戦略課から4人、営業部から1人、食料品営業部から4人、計9人が名を連ね、「百貨店のECの課題である『ギフト偏重』から脱却する」(三宅氏)ため、戦略の策定や分析、オペレーションの整備などを担うマーケティング戦略課以外は、モノに精通する人を集めた。7月末までの期間限定のチームであり、異動は伴わず、個々が業務の約8割をプロジェクトの進行に充てる。

プロジェクトチームが手掛けた企画の第1弾は「ネット de 物産展」。いわゆる「3密」に陥りやすい物産展を店舗からECサイトに移し、「大北海道展」に出た経験がある約25社の約90点を、4月27日~5月10日に販売した。注文された商品は、遠鉄百貨店に集積。遠鉄百貨店が5月22日~24日に購入者へ届ける。通常、複数の会社の商品をECサイトで購入する場合、別々に送料がかかるが、遠鉄百貨店を介すれば一本化が可能だ。「お客様の買い回りやすさ、利便性を重視した」(三宅氏)。

ECサイトには、商品だけでなく、出展者の顔写真も掲載。「今回は店舗で会えないが、コロナ禍に負けず、一緒に頑張ろう」というメッセージを込めた。ECサイトに不慣れな高齢者に向け、電話での注文も用意。万全の準備を整えた。

14日間で約700件の注文があり、売上げは約400万円。目標の300万円を上回った。実店舗で開く大北海道展の約1億数千万円と比較すれば少ないが、折込チラシの配布を自粛中で、宣伝の方法が「LINE@」などに限られた環境下では、軽視できない数字だ。売れ筋は北海道観光物産興社の「じゃがポックル」(製造元はカルビー)、ロイズの「ポテトチップチョコレート」、北海道観光物産興社の「北海道人気菓子詰め合わせ」、菓子司新谷の「ふらの雪どけチーズケーキ」、大澤水産の「開き真ほっけ」の順で、じゃがポックルは全体の約2割を占めるほどの人気だった。

プロジェクトチームが放った第2の矢は、5月1日にスタートしたテイクアウト事業だ。店内の食品売場や地域の飲食店から150点~200点を揃え、ECサイトで午後4時までに注文すれば、翌日の午前11時~午後5時に店舗の本館地下1階、サービスカウンターで受け取れる。10日までは、納品所を使ってドライブスルーも実施。1日~10日の注文は約50件だったが、その約8割はドライブスルーを利用したという。今後は「品揃えを充実させるとともに、タクシーなどでの配達も検討しながら、お客様の利便性を向上させる」(三宅氏)方針だ。

遠鉄百貨店は5月7日、プロジェクトチームの2人を異動させ、ECの専任とした。ECに対する本気度が窺える。コロナ禍というピンチをチャンスに変えるため、ECで成長戦略を描く。