三越伊勢丹の不要品買い取りが盛況 百貨店の“のれん”に富裕層の信頼
三越伊勢丹が運営する、不要な衣料品や時計、美術品などを買い取ったり、引き取ったりするサービス「i’m green(アイム グリーン)」(以下、アイムグリーン)が盛況だ。昨年10月に試験的に導入した三越日本橋本店では1年間に約2000件の依頼があり、今年10月1日に伊勢丹新宿本店でも始めると、宅配での買い取りの申し込みが殺到。対応が間に合わず、12日までに2度の受け付け停止を余儀なくされた。まさに「嬉しい悲鳴」だ。不要品の買い取りおよび引き取りは、すでに多くの企業が手掛ける。三越伊勢丹は後発だが、それでも多くの希望者が集まるのは、百貨店の“のれん”に対する信頼にほかならない。とりわけ富裕層は、査定の金額よりも、渡した不要品や個人情報などの扱い方を重視する。百貨店との親和性は高い。百貨店にとっても、客との接点の増加や買い替え需要の取り込みなどにも繋がる。不要品のリユースやリサイクルは、今や世界的な関心事。三越伊勢丹の“回答”に、歓迎の声が広がっていく――。
アイムグリーンの計画は2019年度(19年4月~20年3月)に遡る。きっかけは、販売員と客の会話だった。客から「服が溢れ、クローゼットに空きがない(から買わない)」と言われた販売員は、誘われるままに家を訪問。衣服がびっしりと詰まったクローゼットを目の当たりにした。
当然、販売員は「同じ悩みを抱えるお客様は多いのではないか」と仮説を立てる。それを受けた三越伊勢丹は、客にインタビュー形式での調査を実施。すると、ほぼ100%が不要品の処分に困っていた。しかも、不要品の買い取りや引き取りを手掛ける企業は少なくないが、客の大半は「どこに頼んでいいか分からない」、「大事にしてきたモノを適当に扱われたくない」、「個人情報の管理が不安」などと逡巡し、依頼できずにいる。三越伊勢丹は、そこに“出番”を見出した。テナントの誘致でなく、直営という方法を選んだのも、客の個人情報の管理に対する不安を払拭するためだ。
一方で、完全な“自前”は不可能だ。モノの真贋を見極め、的確に査定できる人財は、一朝一夕では育たない。そこで、買い取り専門店「なんぼや」を展開するバリュエンスジャパンと協業。同社が鑑定士を派遣する。パートナーにバリュエンスジャパンを選んだのは「国内外に拠点や販路を擁し、在庫の回転率が高く、安定して買い取りが可能。対象のアイテムもファッションから時計、美術品、骨とう品まで幅広い」(神谷友貴オンラインクリエイショングループデジタル事業運営部計画推進アイムグリーンマネージャー)からだ。バリュエンスジャパンにとっても、百貨店の富裕層との接点は貴重だった。
越えるべきハードルは他にもあった。外商部の反対だ。顧客に販売したラグジュアリーブランドや宝飾品などが持ち込まれ、査定で当時の数分の1、数十分の1の金額を示された場合を危惧した。しかし、顧客のクローゼットが空けば、新たな商機が生まれる。最終的には、外商部もアイムグリーンの立ち上げを受け入れた。
昨年6月には、社員向けにトライアルを実施。好評を博したため、同10月に三越日本橋本店に「検証店舗」を設けた。外商を含めて顧客基盤が分厚く、“最終試験”には最適な店舗だ。運営に携わる社員は5人、バリュエンスジャパンの鑑定士を含めて6人を配した。
三越日本橋本店では、カードホルダーや外商の顧客らに限って告知。買い取りおよび引き取りの方法は「店舗」、インターネットで申し込む「宅配」、外商顧客の自宅への「出張」の3種類を揃えた。いずれも対象は衣料品、バッグ、時計、宝石、骨とう品、美術品で、値段が付かない場合は引き取ってリサイクル。引き取った衣料品の一部は日本環境設計に送り、再生ポリエステルの原料とする。
最終試験の結果は合格だった。依頼は1年間で約2000件を数え、うち約1800件が店舗。依頼者の中心は40~60代で、買い取り価格の平均は15万円前後だった。出張では、時に100万円を超えたという。利用者のリピート率も、約3割と低くない。
懸念されたトラブルもなかった。神谷さんは「普段は売る側で、買い取るのは初めてだからこそ、納得してもらえるように説明するのは大変だった」と苦労を振り返りつつ、「とはいえ、接客の本質は変わらず、むしろモノに関する思い出を聞き、お客様との関係性が深まった。調査によれば、店舗でサービスを利用した方の85%は当日に何らかの商品を購入した。白いスニーカーを買い取ってもらい、新たに白いスニーカーを買った方もいる。つまり、買い替え需要も引き出せた」と自信を深める。
三越日本橋本店での好反応を受け、今年10月1日には伊勢丹新宿本店にも広げた。多くのメディアに取り上げられた効果もあり、宅配での買い取りの申し込みが殺到。三越日本橋本店とは別に5人の社員と1人の鑑定士を充てたものの、対応が追い付かず、19日時点では受け付けを停止中だ。店舗と「LINE」では依頼を受け付けており、店舗には待ち時間が分かる「Air(エア)ウェイト」を採用した。
神谷さんは、同店での傾向を「お客様の幅は三越日本橋本店よりも広く、持ち込まれる点数はやや少ない。買い取り金額は三越日本橋本店より低いが、不要品を無料で引き取る場所と誤解する方が多く、ゼロ円の査定も少なくないからで、周知が進めば同程度に落ち着くと予想する。持ち込まれるアイテムはバッグと衣料品が中心」と明かす。
三越日本橋本店でも、10月1日以降の依頼が増加。アイムグリーンは三越伊勢丹が今年4月から推進するサステナビリティ活動「think good」の一環として、あるいは顧客との接点を増やす拠点として、存在感を発揮しつつある。
しかし、継続するためには収益を確保しなければならない。三越伊勢丹は客から不要品を買い取り、バリュエンスジャパンに売却して収益を得るだけに、依頼の数が生命線だ。
「伊勢丹新宿本店では1年間に2500件が目標。結果を見て、多店舗化など次の一手を打ちたい。外商のお客様を対象に、家具や家電の買い取りおよび引き取りのテストトライも始めた。テストトライでは組む企業を限定せずに最善を見極め、早ければ2021年度(21年4月~22年3月)中に家具や家電を扱えるようにする。引き取った衣料品は再生ポリエステルに戻しているが、他の手段も用意したい」
神谷さんは成長戦略を描く。ミーティングを毎週開き、オペレーションを修正するなど、運営方法の最適化にも注力。“持続可能なサービス”を目指す。